2014年01月号パルキッズ塾
Vol.09 | 最後の難関・音読できる子の育て方
written by 小豆澤 宏次(Hirotsugu Azukizawa)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/palkids-juku-1401/
小豆澤宏次『最後の難関・音読できる子の育て方』(株式会社 児童英語研究所、2014年)
「いつになったらうちの子は英語をベラベラ話してくれるのかしら?」
お子さまに英語教育をおこなっている親が一番気になるところです。1日90分のかけ流しをしているのに、なかなか成果が見えてこない。成果が見えてこないというのは辛いものです。
こんなお悩みをお持ちの方は、一度「英語教育とは」を整理して考えてみましょう。英語教育とはピアノや水泳といった「習い事」とは違います。今日やったことが明日には成果となって表れるものではありません。どちらかと言えば、身体発達と同じく、どんな子でも一定期間を経ることによって身につくものです。
『パルキッズ』のプログラムは母語方式と呼ばれるものです。日本人の子どもが母語である日本語を身につけるのと同じ課程を経て英語を身につけていく方法です。
日本語を身につけるまで、どんな子でも3年はかかります。母親の語りかけ、家庭内での会話を日々耳にすることで、1歳までに日本語が単語単位で聞き取れるようになります。これが言語の「リズム回路」を身につけるという段階です。
そして2歳を過ぎるとそれまで喃語、もしくは単語で話していた子が「ママ、ジュース飲む」といった二語文を口にし始めます。決して「飲む、ジュース」とは言いません。これが「言語の体系」つまり「文法」を習得したということになります。
早い子では3歳あたりで、遅くとも5歳までには文字読みが始まります。絵本を見ながら母親のまねをして「む・か・し・む・か・し」と拾い読みをする子もいれば、スーパーや街中にあふれる日本語を指さして「ママ、”いちご”だって」と知っている文字を使って単語を読む子もいます。
そして漢字も読めるようになり、小学生になると国語の時間に教科書を音読できるようになります。幼児期に絵本をたくさん与えられた子、本を読む習慣がついている子は読書をするようになります。あとは読書を重ねることによって読解力を高め、様々な表現を学び、日本語力(国語力)をアップしていきます。
こうしてみると、母語である日本語ですら簡単な絵本が読めるようになるまで少なくとも4年はかかります。
英語の場合でも同様に、「リズム回路」が身につくまでに1年ほどはかかります。1日90分のかけ流しを1年間続けて、ようやく英語が単語単位で聞き取れるようになるのです。
そして、2年を過ぎるころには英語で二語文が話せる力が身につきます。しかし、ここが母語である日本語とは少々異なります。両親ともに日本人であれば、子どもたちは家庭内で英語を話す必要性がありません。つまり、2年間かけ流しをしても、英語が口から出てくる子というのはとても稀なケースです。性格的に、覚えたことや、思ったことを何でも口にする無邪気な子や、ポロッと英語を口にしたときに両親からおおげさにほめてもらった経験がある子であれば、英語を口にする場合がありますが、あくまでもその子の性格に寄るため、英語が口に出る出ないは、英語力とは直接の関係はありません。
また、『I Can Read!』の暗唱に取り組んでいても、積極的に暗唱をしてくれる子は、多く見ても5割ほどです。おそらく暗唱の取り組みが、単に「読み聞かせ」になっている場合が多いのではないでしょうか。誤解のないように言っておくと、この暗唱が出る出ないもお子さまの性格に寄るところが大きいので、口から出ない場合は、読み聞かせの取り組みでも全く問題はありません。
さて、ここまで成果らしい成果が見えてこない親にとって、英語の取り組みを続けるのはとても辛いはずです。「やっぱり英会話教室に通わせよう!」と思う方、「たぶん興味がないんだわ。もっとこの子が興味を持てる内容のものを与えた方がよいのでは?」と別の方法を試してみたくなる時期でもあります。
しかし、この辛い時期を耐えると、その先にようやく目に見える成果が待っています。それが「読む」ということです。
日本語ですら3年かかる言語の獲得です。英語でもこれだけの時間をかけて、ようやく成果らしい成果が見えてくるのです。このように、即座に成果に直結しないのが母語方式で英語を身につける上での悩ましさであるのです。それではこの先にある「読む」という成果に話を進めます。
| 文字読みから英検へ、カギは音読
まず、『I Can Read!』の読み聞かせの最中に、お子さまが何となく文字を意識しているのがわかる瞬間があります。親が絵本を読むのに合わせて、お子さまの視線が左ページから右ページへと移ったり、ページの読み終わりと同時にページを自分でめくろうとしたりと、明らかに文字を意識しているのがわかるようになります。
また、絵本はもちろん、日本語の時と同じ様に街中のサインなどを見ては、馴染みのある単語をいきなり読んで見せたり、馴染みのない単語は自分なりのフォニックスのルールで「間違えながら」ボソボソっと読んでみようとします。例えば「sea」を「セァ」、「know」を「クナゥ」と読むような間違いです。
親からするとどうしても「間違い」ばかりが気になってしまい、この大きな変化を見落としがちですが、これは1日90分のかけ流しと絵本の暗唱・読み聞かせだけで、文字が読めるようになったという大きな成果の表れなのです。ここまで約3年。ようやくお子さまは拙いなりにも、文字が読めるようになりました。ここまでは取り組みを継続しさえすれば、どんなお子さまでもたどり着くことができます。
しかし『パルキッズ』のひとつのゴールとして設定しているのが「英検準2級」であり、「英書で読書ができる子」です。「読み始め」から「読書」への橋渡し、これが実は難しいところなのです。
日本語であれば「読み始め」から「読書」に向けて、どのような取り組みをしているのでしょうか。それが「音読」です。
自分の中のフォニックスのルールで読むことによって生じる「読み間違い」。とても可愛らしいことであり、読み始めたという成果が感じられる、とても大切な出来事ではありますが、いつまでも「読み間違い」をさせていては「読書」につながっていきません。どこかで「正しく読めるようにする」という取り組みをおこなう必要があります。
日本語の場合、正しく読める子に育てるために、小学校で教科書を音読します。読み間違いをなくし、文字を正しく音声化できるようにしていきます。正しく音声化することによって、内容を正確に理解できるようになります。つまり英語でも文字を正しく音声化できるようにするために音読の練習をおこなわなくてはいけません。
『パルキッズ』で育った子は英検でもリスニング問題は、特に練習することなく、高得点をとることができます。つまり、音声として正しいものは理解できるのです。読解の問題も正しく音声化することによって、まるでリスニング問題を解いているような状態にすればよいのです。
何となく読み始めたけれど、なかなか読書ができるようにならない、または英検の問題が解けない、そんなお子さまがしなくてはいけないのが「音読」であるということがわかりました。それではどのように「音読」の取り組みをすればよいのかを解説していきましょう。
| 音読に適した本の選び方
まずはどういったものを音読すればよいのかについて見ていきましょう。音読の素材を選ぶにあたって3つのルールがあります。
(1)簡単であること
音読をするにあたって、これまで暗唱・読み聞かせをしてきた内容よりもレベルが上のものを与えたくなります。しかし、音読とは音を覚えて諳んじるのではなく、文字を読む取り組みです。文字読みが拙い子にとっては、文字を読むということは相当の負担がかかるということをご理解ください。そこで、音読用の素材には暗唱に使っていた絵本の一番下のレベル、それこそ単語だけの絵本、または同じ文章が繰り返されるような、簡単なものから与えていきましょう。また、文字だけのものよりも、絵本のように絵だけ見れば内容がある程度つかめるものがよいでしょう。音読の取り組みといっても、子どもたちからすれば遊びの延長で取り組めるものがよい、つまり楽しむことができるものが適しています。
(2)韻を踏んでいる(リズムのある)もの
英語圏の子どもたちが文字読みを学ぶために作られている絵本は、必ずと言ってよいほど文章が韻を踏んだ形になっています。言い換えると詩のような書き方になっています。韻を踏んでいるとは下記のような文章です。
Come on, take a chance!
Learn to hula dance.
Breathe in a Hawaiian breeze.
Relax and bend your knees.
Step sideways. Gently now…
Watch and I’ll show you how.
Sway your hips left and right.
Smile and feel pure delight!
(『I Can Read!』SetD「Hula Dance」より)
2文がペアのように下線部が韻を踏んでいるのがおわかりでしょうか。こうやって「ee」となると「イー」という読み方であるという具合に、読み方のルールを覚えるための助けとなります。
また一度声に出して読んでみるとおわかりいただけるように、韻を踏むことで文章にリズム感が出てきます。幼児期におこなうチャンツでもあるように、子どもはリズム感のあるフレイズを好みます。そういった意味でも、韻を踏んだ詩的な文章が適していると言えます。
(3)倍速音声が収録されているもの
幼児期から『パルキッズ』のかけ流しによって耳がすでにできているお子さまには必要ありませんが、ジュニア教材である『トーキングトレーナー』から英語学習をスタートした小学生、英語に苦手意識を感じているお子さまには倍速音声を使うことが大変有効です。標準速の音声を聞いてもなかなか聞き取れない場合、倍速音声を直前に聞かせることによって、標準速の音声がいつもよりゆっくりと聞こえ、まるで自分が聞き取れているという「成功体験」を得るために使うことができます。高速道路から一般道に入ったときに、いつもよりもスピードがゆっくり感じる体験をしたことがありませんか?仕組みとしては、この効果と全く同じです。
以上の3つのルールから考えると、音読用の素材としては『I Can Read!』をお使いいただくのが最も良いと言えます。
| 音読の効果的な取り組み方
では実際に取り組み方へと移っていきましょう。音読の目的は前述のとおり「文字を正しく読む」ことです。『I Can Read!』の暗唱の取り組みでは、かけ流しによってたっぷり音をインプットした後、4冊ずつまとめて取り組みます。また、暗唱のできにかかわらず、1カ月で次の4冊へと移るようご指導しています。これは幼児期の英語学習の必須ルールである「常に新しい大量の情報を繰り返し一定期間与える」ことからきています。しかし音読の取り組みではこれとは異なった取り組み方法となります。
音読の場合は1冊ずつ取り組んでいきます。また1冊読めるようになったら、次の本へ移ります。暗唱の時のように期間で区切るのではなく、読めるようになったかどうかが次に移る目安となります。
取り組む絵本は、先の「簡単なものを与える」というルールに従って、『I Can Read!』であれば、Aの一番最初の本である「Nice Things」からスタートします。
それでは1日の取り組み方を、順番にご説明していきましょう。
STEP1.「音声を聞きながら課題絵本を見る」
まず、音読する本を開きながら、音声を聞きます。音声はかけ流しをする必要はありません。聞くのも1度だけでよいでしょう。音声を流す回数が少ないのは、音をたよりに絵本を読ませないようにするためです。耳の良い子であれば数回聞くと音を覚えてしまいます。すると文字を目で追わなくなるので、気をつけましょう。絵本を開いて、さらにCDを流すのが大変であれば、DVDを見せてあげるとよいでしょう。
小学生から英語学習をスタートしたお子さまであれば、事前に倍速の音声を聞かせてあげるとよいでしょう。倍速の音声を聞くときは絵本を開く必要はありません。目を閉じて音に集中させるようにしましょう。
STEP.2「ひとりで音読をする」
次に、音声なしでひとりで絵本を音読させます。最初の内は正確に読めない単語が多いため、間違うこともあるでしょう。明かに間違って読んだ場合は、叱ったり、教えたりするのではなく、サラッと「これは○○だね」とお母さまの発音で構いませんので伝えてください。しつこく間違った単語を言わせたりすると、お子さまとケンカなってしまいます。お母さまが独り言を言っているように伝えましょう。また、伝えると同時に、間違った単語に鉛筆で印をつけておくとよいでしょう。音読する回数は1日3~5回程度が理想ですが、繰り返し読むのを嫌がるようであれば1回でも構いません。翌日お子さまが同じ本を読むときに、その単語に注意をして読むようになります。これで1日の取り組みは終了です。
STEP3.「完全に読めたら次の本・間違ったら同じ本」
翌日になりました。前日1度でも間違った場合は、翌日も同じ本に取り組みます。逆に前日、間違うことなく読めた場合は次の本に移ります。最初のうちは1冊を仕上げるまで日数がかかりますが、音読を繰り返すことにより、次第に読める単語が増えていきます。すると1冊仕上げるまでの日数が短くなっていきます。
音読の取り組みは、幼児期から英語を始め暗唱をしてきた子、小学生から英語を始めた子、どちらにとっても英語で読書ができるようにするためには、非常に重要な取り組みです。ただ、かけ流しの学習のように無自覚の取り組みではないため、お母さまがうまくお子さまを導かなくてはいけないところが一番難しいところでしょう。
教えたり、叱ったりするのではなく、音読する様子を注意深く観察し、どういった単語が読めるようになったのか、昨日と比べて何か変化があったのかをひとつでも多く見つけ、驚きながらお子さまにそれを具体的に伝えることで、音読の取り組みも楽に進むでしょう。
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小豆澤 宏次(Azukizawa Hirotsugu)
1976年生まれ。島根県出身。同志社大学経済学部を卒業後、米国ボストンのバークリー音楽大学に留学し、音楽家として活動。帰国後は幼児・児童向け英語教室にて英語講師を務める。児童英語研究所所長・船津洋氏に「パルキッズ理論」の指導を受け感銘を受ける。その後、英語教室の指導教材を「パルキッズ」へと全面的に変更。生徒数を大きく伸ばすことに成功する。児童英語研究所に入社後は、年間1,000件以上の母親への指導を行うとともに、パルキッズのオンラインレッスンのプログラムの制作ディレクションを行う。また大人向けの英語素読教材の制作ディレクションも行う。