2016年02月号パルキッズ塾
Vol.34 | パルキッズ生は苦労知らず?
written by 小豆澤 宏次(Hirotsugu Azukizawa)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/palkids-juku-1602/
小豆澤宏次『パルキッズ生は苦労知らず?』(株式会社 児童英語研究所、2016年)
ここ数年、千葉県にある進学塾で中学2~3年生を対象に年3回「英語素読講座」を行っています。彼らの多くは中学生になってから本格的に英語学習を始めているため、パルキッズで育った子どもたちよりも、より多くの時間と労力を英語学習に費やしています。
とはいえ、地域の中学生の中でも偏差値60以上の優秀な子どもたちばかりが通う塾です。ひとたび英語をどのように学習するのか、どうなることが英語が身についたことになるのか、そしてなぜ英語を勉強しなければいけないのかを説明すると、簡単に理解してくれます。そして回を重ねる毎に彼らの英語力が確実に上がっているのが明らかにわかります。
この1月に開催した講座でも8割を越える子どもたちの長文読解問題の成績が上がりました。具体的には英検4級以下の子どもたちは3級合格レベルに、3級の子どもたちは準2級合格レベルに、たった1日の集中トレーニングで達したのです。
| 素読の3つのルール
さて、この素読講座で行うことは非常にシンプルです。3つのルールに則って4時間ほど徹底的に英文を声に出して読む、ただこれだけです。
3つのルールとは以下になります。
�読むのは中学生レベルの簡単な英文であること。
�日本語に訳さずに読むこと。
�正しい発音とリズムで読むこと。
講座では『7-day English』を素読の素材として使用しています。『7-day English』は合計144話(約7万語)のストーリーが収録されており、固有名詞など特殊な単語を除けば、そのほとんどが中学生で学ぶ単語と文法で構成されています。
| 日本語に訳すことをあきらめさせる
そして『7-day English』を普段学校で彼らが音読しているようなスピードではなく、ネイティブが読むのに近いスピードで読んでいきます。こうすることで普段、文法を考えながら英文を日本語に訳して理解する子どもたちにそのスキを与えないようにできるのです。最初は、日本語に訳せないことでストレスを感じながら読んでいる子どもたちに次第に変化が現れます。ある時、日本語に訳すことを「あきらめる」のです。そうなった子どもたちは、ただ文字を音声化することだけに意識を向けます。この時、彼らは意味や内容を知ろうとはしていません。そして文字を音声化することに慣れてくると、ようやく大意を把握しながら読み進める余裕が出てきます。一度訳すことをあきらめているので、正確な意味を捉えようとはしません。断片的に情報をキャッチしてイメージで内容を捉えていくのです。
例えば “My friend and I made a plan to meet up as soon as the bell rang for the end of the last class.” という英文を読んだとします(この英文は実際に『7-day English』に収録されています)。英語が得意ではない中学生にとって、この英文は1文としては少々長く感じるでしょう。素読講座を受講する前の彼らはこの英文を文法と照らし合わせながら「私の友だちと私は最後の授業が終わりを告げる鐘が鳴るとすぐに会うという計画を立てました」と日本語に訳して理解していたでしょう。しかし、日本語に訳すことをあきらめた彼らは、この英文を「友だちと会うんだなあ」というぐらいの内容把握で読み進めていきます。しかも日本語ではなく「友だちに会う」というイメージで内容を掴んでいくのです。
こういった理解の仕方は何かに似ていませんか?実はこれは『パルキッズ』のかけ流しを1年ほどおこなった子どもたちの理解の仕方に似ています。自分が身につけている語彙を使って必要最低限の内容を掴んでいくというものです。
あるお母さまからのご報告でこういったものがありました。「としおの1日」の中でとしお君が病気になるというストーリーがあります。内容としては3分程度の日常会話ストーリーなのですが、このストーリーを聞いた子どもは「としお君病気で大変だね。注射もして嫌だって言ってたよ」と言ったそうです。
これこそが自然な言語の理解の始まりと言えます。幼児・児童期であれば『パルキッズ』をかけ流す(言語環境を与える)ことでお子さまは努力することなく英語を理解する力を得ることができます。
しかし、文法に照らし合わせて英語を日本語に訳して理解するという不自然な方法が体に染み付いている先の中学生の場合は、一度その理解の仕方を壊してあげないといけません。
英語素読はスポーツで言うところの「正しい基礎フォーム作り」であると以前もお伝えしたことがありますが、一度身につけたフォームを壊して新たに身につけるのは相当な労力が必要になります。
そういった意味では中学生の場合は幼児・児童と比べ「自然に英語を理解する力」を身につけるのは大変です。ただその壁を乗り越えることができれば、中学生でも十分に『パルキッズ』で英語を身につけた子どもたちに近づくことができるのです。
| 正しい発音を知ることで正しく聞き取れる
そして最後のルールである「正しい発音」についても解説していきましょう。
素読講座ではまず、アルファベットの正しい読み方から解説していきます。中学校の先生にもよるのでしょうが、学校ではアルファベットの読み方から丁寧に教えてくれるところはなかなかありません。少なくとも私の聞く限りではないようです。教科書にもアクセントのみで、発音記号が書かれているものも少なく、市販の教科書ガイドでは ‘pizza’を「ピーツァ」、’juice’を「ヂュース」、’hamburger’を「ハぁンバ~ガ」と逆に混乱してしまうのではという表記で教えられているものもあります。そのぐらい中学校の英語カリキュラムにおいて「発音」は「文法」や「英文和訳」「和文英訳」よりも重要視されていないのがわかります。
誤解を怖れずに言うならばアクセントさえ正しければカタカナ英語発音でも十分ネイティブに通じます。では何のために正しい発音を学ぶのか、それは正しく聞き取る力を身につけるためです。
私が初めてアメリカに行った体験談をお話ししましょう。当時の私は中学・高校・大学で英語を学んだだけで、お世辞にも英語が得意とは言えませんでした。私はコーヒーショップを見つけ、コーヒーをオーダーしました。すると店員が “milkənʃugə?”と私に尋ねてきました。”milkənʃugə?” を無理矢理カタカナにすると「ミルカンシュガ?」となります。こうしてみるとおわかりの方も多いでしょう。店員は “Milk and sugar?” つまり「ミルクと砂糖は入れるのか」と尋ねていたのですが、私はまったく聞き取れず”Say it again, please.”を何度も繰り返したため、店員だけでなく私の後ろに並んでいるお客さんまでも怒らせてしまったのです。英語を学習し始めた中学1年生でもわかるようなこのセンテンスさえも、正しい発音を知らなかったために聞き取ることができなかったのです。
素読講座ではアルファベットの読み方に始まり、間違いやすい母音・子音の発音、リエゾンの仕組み(子音で終わる単語の次に母音で始まる単語が来た場合に、単語の最後の子音と次の単語の最初の母音をつなげて読む。ex. ‘an apple’を’ənæpl’と読む)を解説しました。そして実際に『7-day English』を読んでいる時も、できる限り正しい発音を意識しながら読むようにしました。これは1日で身につけるのは難しいですが、日々の素読トレーニングの中で取り入れることで確実に正しく聞き取る力が身についていきます。
この「正しく聞き取る力」についても、先にお話しした「自然に英語を理解する力」同様、幼児・児童期であれば『パルキッズ』をかけ流すことで身につけることができます。こうしてみると、幼児・児童期に毎日『パルキッズ』をかけ流す再生ボタンを押す労力を惜しまなければ、今回素読講座に参加した子どもたちが経験した辛いトレーニングは必要なく、それは子どもにとっても、親にとっても大きなアドバンテージなると改めて感じました。
小豆澤 宏次(Azukizawa Hirotsugu)
1976年生まれ。島根県出身。同志社大学経済学部を卒業後、米国ボストンのバークリー音楽大学に留学し、音楽家として活動。帰国後は幼児・児童向け英語教室にて英語講師を務める。児童英語研究所所長・船津洋氏に「パルキッズ理論」の指導を受け感銘を受ける。その後、英語教室の指導教材を「パルキッズ」へと全面的に変更。生徒数を大きく伸ばすことに成功する。児童英語研究所に入社後は、年間1,000件以上の母親への指導を行うとともに、パルキッズのオンラインレッスンのプログラムの制作ディレクションを行う。また大人向けの英語素読教材の制作ディレクションも行う。