パルキッズ塾 パルキッズ通信 | バイリンガル教育, 英会話
2022年9月号パルキッズ塾
Vol.113 | 英語が苦手なママ・パパへ
written by 小豆澤 宏次(Hirotsugu Azukizawa)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/palkids-juku-2209/
小豆澤宏次『英語が苦手なママ・パパへ』(株式会社 児童英語研究所、2022年)
「親が英語が苦手なのですが、うちの子をバイリンガルに育てられるのでしょうか?」
昔からこの手のご質問を多くいただきます。ずいぶん前のデータになりますが中学1年の2学期の時点で、6割の子どもたちが英語に対して苦手意識を持っているというリサーチ結果にあるように、日本人の多くは自身の英語力に自信を持っているわけではないと思います。つまり、冒頭のご質問の答えが「No」であれば日本の未来は暗くなってしまうわけですが、もちろんそんなことはありません。親御さんが英語が苦手だったとしても、それと我が子のバイリンガル教育は別として考えることができるのです。むしろ、長年パルキッズで英語教育をおこなってきた私からすると、逆に英語が苦手な親御さんの元のお子様の方がバイリンガルに育つ確率が高いように感じます。
さて、そもそもなぜ親御さんの英語力が我が子のバイリンガル教育に大きな影響を及ぼすという考えに至るのでしょう。それは長年日本人が患っている「会話至上主義」病に原因があるのは間違いありません。つまり「日本人が英語が苦手なのは会話をやってこなかったから」→「だから会話の機会がなければ英語力は育たない」→「毎日家でも英会話の機会を設けなければいけない」→「親が英語で語りかけなくてはいけない」→「自分は英語が苦手だから我が子に英語で語りかけができない」→「バイリンガル教育は無理」となるわけです。
この流れですが、まず一番最初の、日本人が英語ができない理由からボタンのかけ違いが始まっています。日本人が英語ができない理由は「会話をやってこなかったから」ではなく「インプットが足りないから」ということは現在では常識になっていますが、まだまだボタンをかけ違えている方は少なからずいらっしゃるようです。
今回は英語が苦手なママ・パパへ、ということで書いているわけですが、そういった親御さんがバイリンガル教育に二の足を踏んでしまう「英語の語りかけ」について、結論から言うと「やってはいけない」わけですが、なぜそうなのか3つの理由を出して考えてみましょう。
語りかけてはいけない3つの理由「怖い」
まずひとつ目の理由は「怖い」です。
日常の中に英語学習の機会を落とし込む目的で、親子で英語で会話をするというのは、親側の目線に立つと至極当然のような気がします。しかし、子ども的にはどうでしょうか?想像してみてください。すでにバイリンガルの子どもであれば「英語」を「ツール」として使用できるので問題はありませんが、多くの子どもたちにとって「ツール」として使えないまま、一方的に使うことを強要されるわけです。
例えば「ママ、おしっこ」とわが子が言ってきた時に「OK. Let’s go to the bathroom.」とママが言ったとします。子どもからすると「?」の状態ですよね。ママとしては勉強だからと英語のフレーズを繰り返します。子どもとしてはトイレに行きたいのにママとのコミュニケーションが取れないわけです。そして次第にママがイライラしてくるのが空気で伝わってきます。するとどうでしょう?怖くなりませんか?また、お腹が空いた時に「パパ、お腹すいた」と言った時に「I’m hungry.でしょ!」といきなり言い直させられたりするわけです。子どもからするとどうして叱られているのか、まったく訳がわかりません。英語の勉強だといくら説明を受けても、英語を「ツール」として使えない状態でいきなり実践させられるというのは、まるで禅問答のようなものです。ルールがわからないスポーツの試合にいきなり出場させるような恐ろしさがあります。そして怖いと感じると、子どもたちというのは全力で逃げます。親御さんが英語を話し始めると、「わからない」「きらい」「嫌だ」を連発し、親御さんは「うちの子は英語嫌いになってしまった!」とショックを受けるわけです。
何一つ良いことはありません。
語りかけてはいけない3つの理由「インプットの質」
2つ目の理由は親御さんが語りかけをすることで「英語のインプットの質が担保されなくなる」ことです。当然ですが多くの親御さんは英語教師ではありません。そのため、自分なりの英語教育を行うわけです。で、多くの方がたどり着くのがいわゆるクラスルームイングリッシュです。簡単な挨拶から、日常の指示フレーズ、そして語りかけに対する返答、こういった英語の授業で使うような定型句を使うやり方です。さらに、親御さんが英語教師だった場合は、そういったクラスルームイングリッシュのバリエーションが増えるだけというのがほとんどです。
実は、子どもたちが英語を身につけるために必要なインプットの内容はクラスルームイングリッシュではありません。パルキッズでもあるように、日常のありふれた家庭内の会話です。それは親子だけではありません。パパ、ママの会話も含まれます。
バイリンガルの最初のステップとして、言語のリズムを身につける必要があるのですが、それを身につけることをバイリンガルになると定義するのであればざっと1,000時間程度の前述のようなインプットが必要になります(バイリンガルの定義がさまざまなので2,000時間と言われる場合もあります)。果たして忙しい日常を送っているパパ、ママが自力で1,000時間ものインプットを行えるのかどうか、非常に難しいと言わざるを得ません。ましてや親御さんがバイリンガルである場合はそれほど多くないはずです。
適切なインプットが担保されない場合、それを懸命にする必要があるのでしょうか?答えは言わずもがなですね。すると親御さんが語りかけではなく、別の方法で家庭内の会話をインプットしていかなくてはいけないわけです。
語りかけてはいけない3つの理由「日本語は?」
最後の理由は「日本語をどうするか問題」です。誤解の無いようまずお伝えしますが、基本的に言語習得というのは、「英語は英語」「日本語は日本語」と考えます。そのため「英語学習が日本語発達に悪影響」だとか「まずは日本語、それから英語」という話ではないということを前もって書いておきます。
さて言語獲得に必要なものは「インプット」であることは前述の通りです。これは英語であろうが日本語であろうが変わりません。そのため、英語を身につけるためには適切な質と量の英語のインプットが必要であり、日本語でも同様であることが前提となります。
また日本人の場合、日本語が母語になり、英語はその次に学ぶ言語である場合がほとんどです。そういった意味で言えば、母語である日本語を英語が超えることはないので、日本語の力をどれだけ引き上げるかは重要です。つまり英語と日本語どっちが大事?と言われれば間違いなく日本語です。その上で将来のために英語も身につけなくてはいけないわけです。
話を戻します。日本語を身につけるためには適切なインプットが必要です。そしてそのインプットソースは親御さんが中心となります。ここまでは当たり前ですよね。ではインプットソースである親御さんが英語を話し始めたら何が起こるでしょうか?そう、日本語のインプットが足りなくなるのです。英語のインプットはパルキッズで事足りますが、日本語のインプットソースは親御さん以外にいないのです。そこを自覚していただければ、親御さんが家庭内で日本語を使うことがいかに大事なことなのかお分かりいただけるでしょう。ちなみに家庭内を完全英語にしてしまって、結果両言語とも中途半端になってしまった例を私も少なからず見てきました。単純に英語が日本語に悪影響を及ぼしたのではなく、日本語のインプットが足りなかったわけです。
ここまで見てきて、英語で語りかけをすることにメリットがほとんどないことがわかります。むしろデメリットが多いのが現実です。となると、英語が苦手な親御さんでも、英語で語りかけをしなくてもよいわけですから、英語が苦手なことがバイリンガル教育のデメリットになることはないことがお分かりいただけたでしょうか。
小豆澤 宏次(Azukizawa Hirotsugu)
1976年生まれ。島根県出身。同志社大学経済学部を卒業後、米国ボストンのバークリー音楽大学に留学し、音楽家として活動。帰国後は幼児・児童向け英語教室にて英語講師を務める。児童英語研究所所長・船津洋氏に「パルキッズ理論」の指導を受け感銘を受ける。その後、英語教室の指導教材を「パルキッズ」へと全面的に変更。生徒数を大きく伸ばすことに成功する。児童英語研究所に入社後は、年間1,000件以上の母親への指導を行うとともに、パルキッズのオンラインレッスンのプログラムの制作ディレクションを行う。また大人向けの英語素読教材の制作ディレクションも行う。