パルキッズ通信 特集 | 多読, 英語のイメージ回路, 語彙, 読解力育成, 音読
2011年3月号特集
Vol.156 | おさらいしましょう!
英語学習の2本の「柱」
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
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引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1103
パルキッズ通信2011年3月号特集『おさらいしましょう!』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所
ここ数年、大人の英語教育に携わることが多くなり、実際に著作活動やセミナー、教材開発などかなりの時間を「大人の英語学習」に割く日々が続いています。そんな中、考えれば考えるほど、ひとつの原理がその輪郭をくっきりと浮かび上がらせていきます。原理、といっても取り立てて新しいものではなく、よく考えれば「自明であった」こと、つまり-大人も子どもも、英語を身につけるために必要なものは同じ-であることにたどり着き、別の角度から考察を重ねても、結局はその原理の周りをぐるぐる回っていることに気づくのです。
| 日本語に訳さなくなったら英語は本物
幼児も大人も英語を使いこなすために必要なモノは「英語を日本語に訳さずに英語のまま理解する回路」なのです。英語を英語のまま理解するというのは、大人には想像しにくいと思います。我々は英語は「和訳」するモノだと学校で教育され続けてきたわけですから、このくびきから抜け出すのは容易ではありません。そこで、やれ英会話だのTOEIC用の単語練習だのと、様々な勉強をしますが、結局は日本語訳の癖は抜けず、そのために「使える英語」とはならないのです。
日本の英語教育を受けて、英語を身につける人もたくさんいます。そんな人たちは並々ならぬ時間を英語学習に割いて、その果てに渇望していた英語力を身につけます。もちろん最初は英語を日本語に訳すところから学習は始まりますが、結局最終的には、英語を日本語に訳さず英語のまま理解するようになっているのです。この様に英語を英語のまま理解する回路を「英語アタマ」と呼んでいます。
この感覚、「英語を日本語に訳さず英語のまま理解する」英語アタマの感覚は、それを身につけた人でなければ、感じることは出来ません。また、そのようにバイリンガルになった人たちも、その能力を実感することは難しいのです。想像してみてください。私たちは、日常的に見聞きした日本語を、日本語以外の言語を通さず理解しています。つまりは「日本語アタマ」を持っているのです。しかし、日々使っている日本語能力を “実感” すること、つまり、日本語アタマの存在を明確に感じ取ることは出来ないのです。
言語回路とは、このような存在です。ひとつの言語回路を身につければ、ほかの言語の手助けなしにその言語を理解することが出来る。しかし、ひとたびその能力を身につけてしまえば、その存在を実感することは出来ない。我々は、意識とは全く関係のないところで、睡眠中でも呼吸したり、夢を見たりする。また、歩いたり自転車に乗るというのはとても複雑なことですが、それもひとたび出来るようになってしまえば、日常的にその能力の存在など実感することなく行使できます。
言語回路とは、そんな能力のひとつなのです。
| 単語を「意味」でなく「価値」で感じる
「のむ」という日本語。私たちは日常的に何気なく使っていますが、この単語の意味は何でしょう。「水をのむ」という具合に使われます。この場合には「液体を食道を通して体内に取り込む」ことを意味します。しかし、「薬をのむ」というと、今度は「液体」に限らず「固体」をも「胃に取り込む」ことを意味します。さらに、「丸のみ」といえば、「咀嚼せずに」「胃に取り込む」意味合いになります。
これだけではありません。少し世代が上になれば「たばこをのむ」などとも言います。もちろんこの場合には、「食道を通して胃に取り込む」意味ではなく、「気道経由で肺に取り込む」ことになります。また「条件をのむ」となれば「取り込む」というよりは「受け入れる」意味合いになります。すると、「のむ」とはさしずめ「固体や液体、概念などを主に口を通して自分を主体とする体系に取り入れる」ことを意味すると考えれば良いのでしょう。
さて、「のむ」とはいろいろな意味を持っていることが分かりました。日本語アタマを持っている我々は、わざわざこんなこと説明されなくても、「のむ」という単語を価値で理解しているのです。では、これを英語に訳してみましょう。どなたでも「のむ」を英語にすると ‘drink’ であることは知っています。しかし、果たして「のむ=drink」なのでしょうか?
英語アタマでは ‘drink’ は、主に「液体や酒などを飲用する」ことを意味します。英語では薬は ‘take’ するもので、まるのみするのは ‘swallow’ となり、たばこはもちろん ‘smoke’ するもので、条件などは ‘accept’ するのです。日本語の「のむ」のを英語に訳すと、そのコンテクスト(前後関係)によって様々な英語訳になるのです。日本語の「のむ」方が英語の ‘drink’ より、遙かに単語の意味の幅(我々はこれを「単語の価値」と呼んでいます)が広いのです。
皆さんは英和辞書をひいて、ひとつの英単語に割り当てられている日本語訳の多さに閉口されたことはありませんか?試しに手元の辞書で、英単語を調べてみましょう。ひとつの単語に少なくても2、3の訳が載っています。それどころか、多いものになれば数十の日本語訳がつけられているのです。これら日本語訳の総合が、ひとつの英単語の「価値」なのです。英単語の日本語訳というものは、その単語のほんの一側面しか表すことが出来ないのです。
つまり、ひとつの日本語「のむ」をひとつの英単語 ‘drink’ に代表させて、単純に置き換えることが不可能であるように、逆に私たちが日常的に疑問を抱かずに行っている英単語の和訳も、実は不可能なのです。
「のむ」という日本語を、私たちはいろいろな意味の幅を持った単語だと知っていて、幅広い意味合いで使います。我々が日本語アタマを持っていて、その中では、単語は意味ではなく価値でイメージされているのです。同様に英単語もそのような覚え方、「意味ではなく単語の価値を思い浮かべるように」していかなくてはいけないのです。
| 基礎単語を訳さないこと
たとえば、病名などは日本語と英語で一致しています。テクニカルな単語は価値が狭いのです。それらを「ビッグワード」と呼べば、逆に中学校で習うような基本的な単語、価値の幅の比較的広い単語を「スモールワード」と呼びます。
まずは、これらのスモールワード英語を、訳すことなく意味を理解できるためには、単語の日本語訳ではなく価値で身につけていかなくてはいけません。そして、「スモールワードを価値で身につけていくこと」こそが、英語アタマを身につけていくことと連動しているのです。そのためには、どうすればよいのでしょう。
これが意外に簡単なのです。一定の期間内に、一定量の英語にさらされればよいのです。
ここで大切なことがあります。英語にさらされることが大切なのですが、それらの英語は正しく単語単位で知覚されなければ意味がないのです。大人の場合には英語を正しく切り出す能力、リズム回路がないので、単純にリスニングをしてもそれらの英語は単語単位に切り出されることがありません。従って、リスニングからスモールワードを価値化して英語アタマを身につけることは、通常の環境下においては不可能なのです。
ただ、大人の場合には、聞き取りは出来なくても、もうひとつの情報インテークの手段があります。そうです。「読力」を使うのです。つまり読む作業。大人の場合には、「多(音)読」をすること。これ以外に方法はありません。その際に気をつけることはいくつかありますが、特に絶対に避けなくてはならないのは、日本語に訳すことです。多(音)読をしていて日本語が浮かんできたら、それを打ち消し打ち消し、読み進めなくてはいけないのです。
| 子どもは聞かせるだけでOK
さて、では子どもに「英単語を価値で理解する英語アタマ」を身につけさせるためにはどうしたらよいのでしょう。これは、大人より遙かに簡単です。
大人の場合には、情報インテークの手段として「読む力」を使いましたが、幼児は読むことが出来ません。しかし、幼児たちの場合は1年ほどの「かけ流し」で英文から英単語を次々と切り出していく「リズム回路」を身につけることが出来ます。そしてリズム回路が身につけば、そこからは耳に入ってくる英語は、すべて単語単位で聞き取ることが出来ます。
つまり、大人は「多(音)読」という少々自律を要する取り組みを通して、情報を能動的にインプットしなくてはいけないのですが、幼児は1年間のかけ流し後はリズム回路があるので、英語の音が流れているだけで、本人の意識とは全く関係ないところで、受動的に大量の情報をインプットすることが出来るのです。
そして、大人は読むことによって、子どもは耳にすることによって取り入れたスモールワードたちは異なる文章中で、異なる用法で繰り返し現れることによって、「この単語にはこんな使い方もあるのか」「こんな意味合いになるのか」とその単語の「価値の幅」をどんどん広げていくのです。
幼児期に、なぜ英語を学習させるのか。理由は簡単です。幼児期ならば、英語を身につけるのに必要な日常会話、基礎概念、絵本、単語などをCDでかけ流すだけで、単語を価値で理解できるようになるからです。
なぜかけ流しが大切なのか。これも簡単ですね。1年間で単語を切り出す「リズム回路」を身につけ、その後はどんどん単語の価値を身につけていき、同時にそれ自体が「英語を英語で理解する英語アタマ」を育てていくからなのです。
もうひとつ。なぜ幼児期に英語を教える場合に、日本語訳を与えてはいけないのか。これに関しては、講演会で口を酸っぱくして説いていますし、書籍でも繰り返し叙述していますが、もうおわかりですよね。日本語訳をつけた段階で、英単語の価値の幅を狭めてしまうからです。そして、日本語に訳すことによって、本来の目的である英語アタマを身につける、英語を日本語に訳さず英語のまま理解する能力を身につけることから、遠く離れて行ってしまうからです。日本語に訳した段階で、我々が失敗してきた、そして未だに中高生たちが失敗するであろう、その同じ轍を踏ませることになってしまうのです。
| そして、最後には・・・
大人の場合には、英語アタマを身につけるために、読む力を活用して多(音)読をします。それだけで、英語を訳さず理解出来るようになります。しかし、これでは片手落ちです。
そうですね。読んで理解できても、聞いて理解できなければ “文字通り” お話になりません。そこで、リスニング力を高めるために、英語がどんな音から作られているのか、その部品を知る必要があります。日本語と英語では音の部品が異なるので、日本語の部品で英語を聞き取ろうとしても聞き取れないのです。
そのため、発音トレーニングを取り入れつつ、多(音)読をします。簡単な本を大量に、声にしながら読むわけですね。詳細は字数の都合で省きますが、これで、英語を聞き取るリズム回路と、英語のまま理解できる英語アタマが完成するのです。
では、幼児は?
幼児たちは、かけ流しからリスニング回路と英語アタマを身につけますが、それで完結でしょうか?それが違うのです。
大人はリスニングが出来ない代わりに読めました。そして、最後にはリスニングも出来るようにトレーニングします。それをひっくり返せば、幼児たちの様子となります。幼児たちは、読解が出来ない代わりにリスニングが出来ます。しかし、最後には読解まで身につけないと片手落ち。完成ではないのです。
これは、幼児期の脳の発達と関連しています。幼児たちは最初は右脳的ですが、年齢とともに論理性の脳である左脳が発達していきます。「大人しくなる」などといいますが、大人は大人しいものです。まぁ、例外はありますが。子どもたちは、最初は大人しくありませんが、小学生になるとだんだん大人しくなる。これはすなわち、右脳で気ままに生きるのではなく、左脳を使って社会に適応しながら生活するようになるからです。
そして、この右脳から左脳への切り替わりの時に、幼児期のアタマをどんどん抑圧し脳の記憶の奥深くにしまい込んでいきます。このときうまく立ち回らないと、せっかく身につけた英語も、仕舞い込まれていくのです。
それを避けるためには、この英語の能力を左脳でも使える能力まで育てておかなくてはいけません。言い方を変えれば、せっかくの能力が仕舞い込まれるのを防ぐために、右脳に放置しておくのではなく、左脳に移しておくのです。そのために必要な作業が「読力の育成」、それに続く「読解力の育成」なのです。
読力の育成は「絵本の暗唱、サイトワーズ、音読、フォニックス、ライミング」などの手段を通して身につけさせます。これで「単語単位で読める力=読力」が身につきます。この段階ではまだ意味は理解していません。
そして、続いて「読解力」は音読で育てます。これにより、文章を理解する能力を身につけます。さらに最後に多読です。これで、新しい語彙を価値で身につけていくのです。要するに、後は本を読むだけで、限りなく英語の語彙を増やす、英語力を向上させ続けることが出来るのです。その入り口が絵本の暗唱なのです。
幼児期の英語教育の取り組みはふたつ。ひとつ目はパルキッズのかけ流し。もうひとつは絵本の暗唱。パルキッズメソドでは、このふたつを主軸に、英語教育が展開されます。
今回はその「なぜ?」に迫りましたが、結局のところ英語習得に王道なし。単語を切り出す「リズム回路」、スモールワードの価値を身につけ、英語を英語のまま理解できる「イメージ化回路」、これらを総合した英語アタマを育てる以外に方法はなく、そしてさらに英語力を向上させるためには「読解力」を育てるしかないのです。
気候もゆるんで、良い季節へと向かいます。また、何かをスタートするにはぴったりの春です。これを機に、気分一新。お子さんの英語教育に、ご自身の英語学習にさらなる一歩を踏み出していきましょう。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。