パルキッズ通信 特集 | ヒアリング能力, 大量インプット, 学校英語教育, 小学生, 絵本の暗唱
2011年4月号特集
Vol.157 |一生使える英語にするために!
「音」から「文字」への橋渡し
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは無料で引用・転載可能です。引用・転載をする場合は必ず下記を引用・転載先に明記してください。
引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1104
パルキッズ通信2011年4月号特集『一生使える英語にするために!』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所
| 情報を受け取る手段
手旗信号という通信手段をご存じでしょうか?赤と白の手旗を、それぞれ右手と左手に持ち、それらを上下左右に振ることによって情報を伝達します。仕組みを知らない人からすれば、手旗を振っている人を見ても「手旗ゲームかな?」程度の感慨しか得られず、何の情報も受け取ることは出来ません。しかし、手旗信号の仕組みを知っている人からすれば、それは立派な情報なのです。
手旗の場合には、種を明かせば仕組みは簡単。カタカナやひらがなを手旗で表しているだけです。
手旗の他にも、モールス信号や、信号灯による通信などいろいろあります。のろしなども立派な通信手段のひとつですね。点字などもそうです。これらはすべて、仕組みを知らない人にとっては、何の意味もなしません。仕組みを知らなければ、情報を受け取れないのです。
私たちは日常から情報を発したり受け取ったりするいくつかの手段を複合的に使っています。最も基本的なモノは言語による情報のやりとりです。その中でもきわめて自然に、特に習うことなく使っているのが、幼児期に自然と身につける音声による情報の受発信と、その後に身につける文字情報によるそれです。
音声による情報のやりとりは、日常生活からきわめて自然に獲得されるので、「学習した」という記憶がある人はいません。しかし、文字情報による情報受発信の手段は、早い時期に学習して身につけることになります。
手旗信号は仮名を手旗で表すわけですし、モールス信号も文字にひとつひとつの信号を振り分けています。その意味では基本になるところは、「文字情報」ということになります。
このように、コミュニケーションの要となる「文字情報の教育」が、実はあまり日本では行われてはいないのです。
| 英語の正しい音を知ろう
もちろん、これは英語教育の話です。
我々は中学校から英語を習い始めましたが、皆さんいかがでしょう?十分に「英語の文字の学習」をされた方はどれだけいらっしゃるでしょうか。英語の文字といえば、もちろんアルファベットです。ちなみに私は公立中学で普通に英語の授業を受けました。そこではあまりアルファベットの文字の学習、特に「文字と音の関連」の学習をした記憶はありません。もちろん書き取りはしましたが、アルファベットの正確な音、などというモノは習った覚えが全くありません。
仮に私の体験を平均値とすれば、日本人の大半は私と同じ、アルファベットの音を知らずに英語の初等教育を終えていることになります。
しかも、悪いことにそれが私たちの英語力に影を落としている。つまり、きちんと英語の音の勉強をしてこなかったこと、たった26文字のアルファベットの文字の学習を怠ったことが、我々のリスニング能力に決定的な負の遺産を残してしまったのです。
まぁ、大人はもう仕方がありません。こうなってしまったのですから、それを嘆いてもどうにもなりません。どうしてもあきらめきれない方は、いくつか残されている方法、多読や倍速、音の学習のやり直しによって、英語力を身につけていく以外ありません。
しかし、子どもたちは別です。
子どもたちに、同じ轍を踏ませてしまっては、あまりにも彼らがかわいそうです。すでに私たちは、これまでの英語教育の実践経験から、幼児期から小学生までの時期であれば、英語を身につけることはそれほど難しいことではないと知っています。
可能であれば、まだローマ字の学習をしていない2年生以下(ローマ字に関しては拙著「ローマ字で読むな」に詳しい)までに、または中学生になって本格的にカタカナ英語で学習を開始する前に、そして中学生になってしまってからでも遅くはありませんから、正しい英語の音の学習を開始すべきなのです。(※実は私も英語の音の学習を本格的にスタートしたのは、中学生も後半になってからでした。それでも、英語を使いこなすのに十分なリスニング力は得られます)
| 幼児期の文字の学習
文字の学習法、つまり音と文字を一致させる学習法はいくつもあります。その中で最も世間一般に知られているのが「フォニックス」でしょう。「ライミング」を学習する方法も広くこの中に含まれます。また、それ以上にきわめて自然な習得法が「絵本の暗唱」です。
絵本の暗唱で、アルファベットと音の関係を学習できる仕組みはこうです。
幼児たちは音に対する敏感性がとても高く、音を記憶するのが得意です。そのために、言語を耳にするだけで身につけてしまうのですが、ここでは、その能力を最大限に活用します。
幼児の言語教育とは、切っても切れない縁にある「絵本」を活用します。
まずはかけ流しです。日本語の場合には、母親が繰り返し絵本を読んでやることによって音のインプットをしますが、英語の場合にはかけ流しによって音をしっかりと入れていきます。
まずはかけ流しです。日本語の場合には、母親が繰り返し絵本を読んでやることによって音のインプットをしますが、英語の場合にはかけ流しによって音をしっかりと入れていきます。
最初から絵本を見せてしまうケースがありますが、安全を考えると、まずは聴覚情報。そして視覚情報です。なぜなら聴覚情報は無造作に耳に入ります。テレビのコマーシャルなどが良い例ですね。しかし、視覚情報はそのタイミングで視線を向けてもらえなければ、インプットにはなりません。
しかも、人間の性で、ある程度繰り返されると飽きてきます。大人も子どももこれは一緒。絵本やDVDなどの視覚教材は学習者にある程度意識を要求します。意識を向けなければ学習にならないのですね。ところが、聴覚教材は学習者の意識を全く必要としません。勝手に耳に入ってしまうのです。しかも、パルキッズの学習法では「出来れば無意識の状態で耳にする」ことが好ましいわけですから、CDのかけ流しは全く理にかなった学習法なのです。
余談ですが、DVDによる学習は、学習者が意識を向けなくてはいけません。「飽きタラ終わり」という人間の本能を前提とすれば、学習方法自体が、「飽きない限り」という限界を設定してしまっていることになります。余談ついでにCDの音源ついてもうひとつ。CDのかけ流しは、日本語で言えば母親が絵本を読んであげている状態を再現する訳です。従って効果音や、リピートできるようなポーズのあるモノは避けた方がよいでしょう。重要なのは、いかに効率よく繰り返し耳にさせるか、というこの点ですで、あまりガチャガチャしていない音声付きのモノが好ましいでしょう。
| インプットが済んだら、アウトプット
さて、CDによって淡々と音をインプットしていきます。すると、お子さんが口にするかどうかは別として、インプットは完了です。
あまり絵本を見てくれない子は、出来れば1週間ほどはCDだけでインプットした方がよいでしょう。そして、絵本を見せます。
絵本を見せる段階、視覚情報を与える段階では、日頃のかけ流しに加えて、絵本を読んであげます。CDに併せてめくるのではなく、母親の肉声で読んであげることが大切です。正しい発音はCDでインプットされているので、あまり気にしなくても良いのですが、もしご自身の発音トレーニングをされたいのでしたら「発音名人」などを使うと良いでしょう。無理をして英語の発音に近づけるようなことをせずに、カタカナ英語でかまいませんので、1語ずつ明確に発音しましょう。
読み聞かせを始める前から、絵本の内容を口にする子もいれば、読み聞かせ後から発語が始まることもあります。また、読み聞かせをしても全く英語が口から出てこないこともあります。アウトプットに関しては十人十色ですので、あまり心配せずに取り組みましょう。かけ流しが出来ていればインプットは出来ています。アウトプットのあり方に関わらず、淡々とインプットだけは続けましょう。
さて、英語が口から出てきたら、これを暗唱につなげますが、出てこない場合にどうすると良いのでしょう。
「英語が出てこない子」でも、実は1行、1単語くらいは口にしたことがあるはずです。もし、そうでなくても、頭の中では英語が鳴っているのです。それを引き出してやること。これがなかなか難しい。なぜならば、無邪気な子ならすでに英語を口にしています。英語を口にしないのは、控えめで用心深い賢い子なのです。このような子たちは、ほめてやってもあまり効果はありません。ほめるよりは、驚いてみせるのが効果的です。
だいたい、幼児たちは「英語」という概念を知ると、それを自分たちに提示している「ママの方が英語が上手」と思い込んでいます。そんなママから「今の発音アメリカ人みたい!」とか「その単語、ママは知らない」などと言われたら嬉しいモノなのです。
そして、口から出てきたそのこと自体を喜ぶようにしましょう。親とは、往々にして欲張りで「這えば立て、立てば歩め」などと、よく親心を表していますね。大切なのは、現状に満足すること。それによって子どもたちは安心して、英語を口にするようになります。
子どもたちをリラックスさせて、英語を口にする抵抗感を薄めてやることが大切です。英語が口から出てきても、発音指導や、文法指導、または細かく訂正するなどの作業は避けなければいけません。
| 文字と音が一致する
子どもの能力は計りしれません。我々大人とは比べものにならないほどの吸収力と、情報の統合力を持っています。我々の学習スピードの尺度で子どもの成長を見てはいけません。
CD のかけ流しから記憶した音を、絵本をめくりながら口にする作業を続けると、ある日突然、目の前の文字と口にしている英文が一致してくるのです。これが読み始めです。
英語は「ABC」から、つまりアルファベットの学習からスタートすべきと思いこんでいる方も少なくないでしょう。しかし、おかしなもので、アルファベットすら知らない子どもでも、なんと絵本の暗唱から読める力を身につけていくのです。考えてみれば、アルファベットはたったの26文字しかないわけですので、その中のルールを発見することくらい、子どもにとっては簡単な作業なのです。
この状態は、日本語の絵本読みを観察しているとよく分かります。どの子にも、必ずお気に入りの絵本があり、それをお母様が繰り返し読んであげますね。そんな中、ひとりで神妙に絵本を眺めている我が子を見たことはありませんか?または、絵本の内容を口にしているかもしれませんし、あるいは、黙々と眺めているかもしれません。そんなとき、彼らの頭の中ではお母様が絵本を読んでいる声が、鳴り響いているのです。お母様が読んであげなくても、繰り返し読んでもらった記憶から、彼らは実際に絵本を読んでもらっているのと全く同じ事を体験しています。
このようにして、音と文字が一致していくのです。
そして、音と文字が一致してくると、絵本を「読もう」とするようになります。この段階になると、突然暗唱がぎこちなくなり、発音が悪くなります。文字と音の関係に気づいてしまうと、頭の中で鳴っていた音ではなく、視覚情報を頼りに読もうとするのです。しかし、まだすらすら読めません。当然です。そして、ぎこちない読みになってしまうのです。
いずれにしても、ここまで来たら、読めるようになったも同然。お子さんの英語教育は、8割方終了したと考えて良いでしょう。
| 小学生の場合
小学生の場合には、幼児のように、絵本の暗唱からアルファベットの音と文字の関係を自然に身につけるような、特筆すべき能力はすでに消えてしまっています。そこで、暗唱のような右脳的ではない、左脳的な学習方法が必要になってくるのです。
フォニックスの学習は、アメリカ人なら皆行います。日本でもかなり広く行われているようですが、まだ一般的とは言えません。フォニックスと聞くと、なにやら子ども向けの英語学習法のようなイメージさえあるかもしれません。
ところが、現実は違います。フォニックスはというのは音韻学のことで、実はかなり複雑な体系の学習法なのです。子ども向けどころか、大の大人が大まじめに取り組んでも、なかなか全体系をマスターするのは困難です。
本当は小学生といわず、中学生でも大人でも、しっかりとフォニックスの学習をしてもらいたいところです。
中学生以降になっている子どもたちは、かなり頭を切り換えないと、フォニックスの学習は難しいですね。英単語を見ると、カタカナ英語が頭の中でリフレインしてしまうのです。これはかなり根深く、腰を据えて取りかからないと、正しい英語の音を身につけるのは困難です。
留学経験者の中ですら、正しい英語の音をマスターしている人は少数派です。なぜなら、大人は耳からの学習では正しい英語の音を身につけられないからです。いくら留学したとしても、しっかりと学習しなければ、正しい音は身につきません。
しかし、小学生はまだ学校英語の洗礼を受けていません。中学生以降に学習するよりは、はるかに楽に正しい音を身につけることが出来るのです。さらに欲を言えば、ローマ字を学ぶ前にやっつけてしまいたいところです。
子どもたちは、耳から英語を聞き取ることが出来ますが、そのまま放っておいては英語力は伸びていきません。やはり、英語の情報を取り込むためには、文字を避けて通ることは出来ないのです。
まずはしっかりと英語の回路を身につけるために、パルキッズをかけ流すこと。そして、同時に読む力を身につけるために、絵本の暗唱やフォニックスの学習をすること。そうして、読めるようになれば、後は本を読むだけで英語力はぐんぐん伸びていきます。
新学期に当たり、今年の目標として、すらすら読めるような力を身につけることを掲げてみてはいかがでしょう。そして、読めるようになれば、英検ですね。お子さんの英語力をバッチリと仕上げていきましょう。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。