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2011年5月号特集

Vol.158 |英語が「好き」になる前に!

意識しない、ストレス・フリーの英語教育

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは無料で引用・転載可能です。引用・転載をする場合は必ず下記を引用・転載先に明記してください。

引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1105
パルキッズ通信2011年5月号特集『英語が「好き」になる前に!』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所


| 子どもにとっては「日本語」も「英語」も同じ!

 パルキッズのかけ流しの作業は単調ですね。世の中には「英語は楽しく」という風潮がありますが、そもそも言語とは単調な生活の中で、いつの間にか身につけていくものです。子どもが育つ日常の日本語環境を「言語教育」だと自覚している方はいらっしゃらないでしょう。しかし、日々淡々とくり返される、オムツ替え、食事、着替えのときの声掛けや、家族間でのたわいない会話などが、結果として日本に育つ子どもたちに対する「日本語教育」となっているのです。そして、その日常生活の中の言語環境という「日本語教育」を受けた子たちは、100パーセントの確率で日本語を身につけるのです。
 言い換えれば、言語とは、決して難しいものでも何でもなく、子どもたちにとっては、ハイハイからあんよ、一人歩きをするよりもずっと簡単に身につけられるものなのです。しかも、子どもたちは日本語を身につけたことに気付いてすらいません。それほど無意識のうちに身につけられる代物なのです。
 そして、それを英語においても可能にした教材が『パルキッズ』です。極端に言えば、CDをかけ流すだけで、子どもたちは英語を身につけてしまうのです。しかも、パルキッズの卒業生たちにしばしば見られるように「英語を身につけたことに気付かない」程の自然さで、身につけてしまいます。


| 子どもの英語教育の障壁

 さて、それほど簡単なパルキッズの学習ですが、それを妨げる要素がいくつかあります。子どもにとっては英語を身につけることなどは簡単なのですが、それを邪魔してしまう要因があるのです。
 例えば、かけ流しをしていても「子どもが英語を口にしてくれない」「成果が見えない」と不安になって、子どもに英語を口にするように促さないまでも求めてしまったり、理解しているかどうか試してしまったり…。そんなことが、子どもに「英語」という、本来「無自覚」で身につけるべき言語を、学習の一環として「自覚」させてしまうのです。これが学習の最大の妨げになります。


| 「かたくなる」と能力が発揮できない!

 これに関して、もう少し詳しく考えてみましょう。
 子どもたちは、無意識でのびのびと取り組んでいる分には相当高い能力を発揮します。無意識のうちなら自然に暗唱している子も、いざ「暗唱しなくては」と意識した途端に、上手くできなくなってしまうのです。
 これは大人も同じですね。普段は能弁な人でも、人前でのスピーチになると途端に緊張してしまい、上手くできなくなったりすることがあります。「あがる」などと呼ばれる状態になるのです。リラックスした状態では出来ることも、緊張してしまって、頭がいろいろなことで忙しくなってしまって、しまいには真っ白、などという事になるのです。
 最近、大人の英語学習に思いを巡らせている中で、次第にくっきりと分かってきたことがあります。日本人は英語の聞き取りが苦手ですよね。では、私たちはなぜ英語を聞き取れないのでしょう。
 英語の音は耳に入らない?そんなことはありません。英語の音も日本語の音と同じ、単なる物理現象です。発生した音が空気振動を伝って鼓膜に届き、英語の音として知覚されるのです。しかし、それらは「英単語の連続」としては知覚されずに、単なる「英語らしき音」として私たちの脳に届きます。
 要するに、英語も耳までは届いているのですが、その先の単語単位への切り出し処理が行われないのです。
 こんな状態を引き起こす最大の原因は、我々が「正しい英語の音」を学習してこなかったからです。しかし、それだけではありません。もうひとつ意外なところに、英語のリスニングが出来ない原因があったのです。


| 構えてしまって、頭が ‘busy’ に…

 英語のリスニングをしようとすると、どうなりますか?リスニングのテストなどで、全身の神経を耳に集中して、ひと言も聞き逃すまいとした記憶はありませんか?僕はそうでした。少なくとも高校時代にアメリカに留学して数ヶ月が経過する時までは、一生懸命聞き取ろうとしていました。
 しかし、3ヶ月も経つと「聞き取ろうとする」意識が働かなくなりました。そして英語が「聞こえる」ようになったのです。もちろん、その間に大量の読書をしたので、それが英語の理解の基礎を作ったのは言うまでもありません。しかし、事をリスニングだけに限定すれば、私たちは緊張しすぎているのです。カチカチになって身構えている状態です。これでは、入ってくる物も入ってきません。耳にした物も、そら耳に聞こえてしまうのです。


| 大人の脳には「高速」が効く!

 この緊張を取り去れば、英文を理解出来るかどうかはともかくとして、リスニングはグンと良くなります。緊張を取り除く方法はいくつかありますが、最も手っ取り早いのが「倍速学習」でしょう。これを体験してみれば、実際に「英語を聞き取れる」感覚を体感することが出来ます。
 最初に耳にする標準スピードは、速くて聞き取れません。その後、2倍速、4倍速とスピードを上げますが、標準スピードが聞き取れないのですから、全く聞き取れるわけがありません。しかし、続いて標準スピードを聞くと、あら不思議、英語がゆっくりに聞こえるのです。もちろん、最初に耳にした英文と最後に耳にした英文は同じ標準スピードですが、倍速を活用すると、このような面白い効果を生み出すことが出来るのです。
 これは、インターチェンジ効果と呼ばれ、高速度路から一般道路に降りた時に、周りの車がとても遅く感じれるのと同じ効果です。スピードを上げることによって緊張を高めていき、それを標準に戻すことで一気に緊張が緩むからなのです。
 このほかにも、フォニックスの学習で、英語の音を正確に発音する習慣を身につけることも、英語のリスニングにおける「構え」を緩和する効果があります。
 いずれにせよ、英語に対する構えが緊張を生み、それが私達の英語のリスニングの妨げとなっているのです。
 外国人に話しかけられると、彼らは日本語で話しかけているのにもかかわらず “No English.” などと逃げてしまう。こんな光景が、最近でもたまに見られますが、これこそまさに、構えから起きる緊張のなせる技です。緊張も高まれば、外国人が話す日本語すら英語に聞こえてしまう。したがって聞き取れない、と言うわけですね。日本語すら聞き取れなくなってしまうのですから、緊張が如何に英語学習の妨げになっているかがうかがい知れますね。


| 緊張は大敵

 このように、大人ですら学習に大変な障壁を創り出してしまう「緊張」。子どもたちの英語教育においても、大敵であることは言うまでもありません。
 そして、すでに述べたように、子どもたちを緊張させる原因となる「英語に対する意識」とか「自分が英語を学習しているという自覚」を、いかに子どもたちに持たせないか。これが大切なのです。
 幼児の英語学習は、基本的には受け身の学習です。自覚させずにCD を聞き流させる。これだけなので、本来なら英語という存在を自覚することがありません。しかし、「英語の勉強しようね」とか「ちゃんと聞いてる?」とか「今としお君がこんなこと言ったね」とか「なんて言ったか分かる?」などといった言葉がけがあると、子どもたちは、英語を日本語以外の、何か特別な存在だと感じ始めてしまいます。まずこの状態にならないように、心がけることが重要です。


| 「日本語」は好き?嫌い?

 そもそも、子どもたちが「日本語」という概念を知るのはいつのことなのでしょう。3歳児で「英語」という言葉を知っていても「日本語」という言葉を知っている子は少ないでしょう。幼稚園に入っても同じです。ほとんどの子は「日本語」という概念を知りません。そして小学生になって初めて日本語を勉強しますが、それは「国語」という名前で紹介されます。こう考えると、子どもたちが「日本語」という言葉を自覚するのは、ずいぶん年齢が上がってからなのです。でも「英語」は?ずいぶん早いうちから、自覚させてしまいますね。
 「英語」という概念をまだ知らない子たちには、そのまま意識させずに、CDによる英語の音環境を作り続けるだけでよいのですが、すでに「英語」という概念を知ってしまっている子には、取り組みがプレッシャーにならないように心がけていくしかありません。そのためには、とにかく、成果や理解を求めることを一切止めましょう。そうしてようやく、子どもたちの能力をフルに活かす、リラックスした英語学習が出来るのです。


| 気負わず、根気強く

 パルキッズの学習は、ほんのひと握りの子どもたちのものではありません。日本語を身につけられる子なら、誰でも英語を身につけられるように、子どもたちの脳はプログラムされています。
 ただ、親側の「気負いや焦り」が、子どもに「英語」という概念を自覚させることになってしまいます。そしてそれが、子どもに「英語に対する緊張感」を抱かせてしまうことになるのです。そして、緊張すれば、大人と同じです。カチカチになっていれば学習は進みませんし、暗唱などもなかなか出てきません。

 最近、大人向けの本をたくさん書かせていただいております。先月も『英語の絶対音感トレーニング』という本を出版させていただきました。ちなみに、アマゾンの語学書ランキングで1位を獲得させていただいております。
 読者の皆様もぜひ、大人の英語修得を体感していただき、「英語を聞き取れる!」そして「英語を日本語に訳さず感じ取れる!」体験をしてください。親御さんが英語を自然な形で聞き取り理解できるようになれば、現在、子どもたちがどんな状態で英語に接しているのか、どんな具合で英語をイメージ化しているのか、その感覚をお子さんと共有できるのです。
 ぜひ、今からスタートしてみましょう。大人でも、数ヶ月間でかなりの成果を期待できますよ。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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