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2012年04月号特集

Vol.169 | 英語が話せれば子どもの将来は安泰?

「読解力」で決まる「生活言語」と「学習言語」

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは無料で引用・転載可能です。引用・転載をする場合は必ず下記を引用・転載先に明記してください。

引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1204
パルキッズ通信2012年04月号特集『英語が話せれば子どもの将来は安泰?』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所


 講演会などで様々なご質問をお受けするたびに、日本人の「英語の読解力」に関しての意識が低いことを痛感させられます。
 日本は単一民族国家で、しかも島国。外国人と接する機会も少ないので、「読解力の重要さ」に気付くチャンスが少ないのかも知れません。


| 「生活言語」と「学習言語」

 大まかに説明すれば、言語は「生活言語」と「学習言語」の2つに分けることが出来ます。
 「生活言語」とは、日常の生活を送るのに必要な言語能力のことです。つまり、親の指示に従ったり、自分の周辺の日常的な欲求に関するコミュニケーションが取れるレベルの言語能力のことです。
 日本人が一般的に「日常会話」と呼ぶものです。英語でも同じですね。「英語の日常会話くらい出来るようになってもらいたい」という親御さんの願いをよく耳にします。
 余談ですが、「日常会話くらい…」という発言の背景には「日常会話は簡単で、ビジネスなどの専門的な会話は難しい」という意識がありますが、これは基本的に間違っています。パソコンの専門家であれば、英語の日常会話などまるで出来なくても、英語で書かれたマニュアルを読むことが出来ますし、音楽家であれば、日常会話は出来なくても、音楽の専門的な雑誌を英語で読んだり、専門家同士、英語で会話したりすることも出来ます。
 専門家達には「専門用語」という共通の語彙があるので、それに関してコミュニケートする分には問題なくできてしまうのですね。
 それに比べて日常会話は、かなり複雑で多岐に渡ります。好きな映画、学校生活、知人や友人に関して、趣味について。さらには、経済状況や年金、税金の話、物価の話など、きりがありません。加えて、友人同士なら複雑な感情などを話すこともあるでしょう。これらが総じて「日常」会話なのです。専門的な会話、ビジネス英会話が出来る人でも、友人と飲みに行って英語で話すとなるとできなくなってしまう。つまり、専門的な言語に比べて、日常会話がどれほど難しいかがお分かりでしょう。閑話休題。


| 「日常会話」では話にならない

 さて、その日常会話ですが、通常の日本の英語教育ではこの能力の獲得はほぼ不可能です。しかし、幼児期であればCDのかけ流しで身につけることが出来ます。また、「インター」などと呼ばれる外国人による保育施設に子どもを預けて、毎日5時間ほど英語漬けにすれば(日本語の能力に不安を残すものの)幼児達は容易にその環境に適応して、英語を理解するようになります。
 さて、このようにして日常的なことが、最初はシンプルなやりとりから、徐々に複雑なことをも表現できるようになってきます。これが「生活言語」の獲得です。  一般的に「日本人は英会話が苦手。だから英会話をやる。」という極めて安易な図式が定着しているので、生活言語としての英語が出来るようになれば、それで満足するのは自然な結果といえるでしょう。
 ただ、ここからが重要なのです。
 昨今、子どもたちの「本離れ」が進んでいます。特にゆとり教育と長引く不況の影響から、学力の二極化が進んでいます。今までは「出来る1割、普通の8割、出来ない1割」だったのですが、今日では「すごく出来る1割、普通に出来る1割、出来ない8割」の様相を呈してきています。PISAのテスト結果からも、日本人の子どもたちの読解リテラシーが弱いことが分かります。
 補習塾などを中心に「漢検」が広まったことで、少なくとも通塾するか、その程度の学習習慣を身につけている子どもたちの漢字能力は担保できているようですが、総じて読解力は落ちているのです。
 「読解力」とは読んで字の如く、「文章を読んでその意味を理解する力」のことです。最近の子どもたちは、もちろん漢字やひらがなを読むことは出来ますが、読めるのみで理解が伴っていないのです。つまり、「読解力」から「解」の字を取り去った「読力」があるのみ。このような子どもたちはちょっと複雑な文章になると、読んでも意味が分からないのです。
 この「読力」に関しては皆様もお持ちです。そうです。私たち日本人の「英語を読む力」がまさしくこの「読力」、つまり「読めるが理解できない」能力であることが分かります。  日本人の子どもたちの中に、英語ならばまだしも、日本語においてすらこのような現状があるのは危惧される必要があります。


| 「ダブルリミテッド」にならないように

 さて、ここで話を「学習言語」へと移しましょう。先の「日常会話は出来るし日本語も読めるが、難しい文章だと理解できない」といった状態は、生活言語を身につけているものの、まだ「学習言語」を身につけていない状態と呼ぶことが出来るでしょう。
 この点に関しては2011年7月号の「TLC for Kids塾長TOMのハワイアン・子育てジャーナル」に詳しいので詳細は避けますが、ハワイでも「英語(と母語)は話せるが、教科教育を受けるには至っていない」レベルの子どもたちがいます。「ダブルリミテッド」や「セミリンガル」といった、母語と外国語の両方とも「学習言語」(年齢相応の言語レベル)に到達していないような状態の子どもたちがいるのです。
 こんな子たちは、将来アメリカの大学へ進学することが出来ても、卒業はできないかも知れません。また、進学できる大学も限られてきます。日本より失業率が高いアメリカで、学歴の低さは(学歴が全てとはいいませんが)すなわち所得に比例します。2カ国語は出来ても、幸せなのかどうか、考えさせられます。
 日本に育ち、日本語ともうひとつ他の言語を身につける場合にも、同じことが起こり得ます。というよりも、放っておくとダブルリミテッドになってしまうのです。
 例えば、幼児期に「生活言語レベルの英語」を身につけたとします。もしその子に、母語である「日本語の読解力」がなければ、これはダブルリミテッドに他なりません(もっとも、幼児期に英語をやらなければ、ダブルではなく日本語シングルリミテッドになるわけですから、ダブルの方がまだましなのかも知れませんが…)。英語は話せても、英語圏の一流どころの学校に進学するのは無理でしょう。また、このような子たちは、残念なことに、日本の一流校でも受け入れてくれないことは改めて言うまでもありません。
 もちろん、幼児期に英語教育を実践している全ての子が、ダブルリミテッドになるわけではありません。「パルキッズ」で学習している子どもたちは、小学校の低学年で英検2級に合格することも珍しくありません。理解の伴わない「読力」だけで、英検2級を取得するのは不可能ですので、この子たちは日本にいながら、英語を「学習言語」として身につけているといえるのです。
 また、「英語の読解力」を子どもたちに求めるような意識の高い親御さんは、当然のこととして「日本語の教育」にも熱心です。従って、日本語のみならず英語の学習能力まで身につけた、立派なバイリンガルが育つのです。


| ヨーロッパの「スタンダード」

 文科省では英語の習得目標に「中学卒業で英検3級、高校卒業で2級、さらに教員になるならば準1級」などと英検のレベルを引き合いに出しています。同時に定義されているのが、中学卒業時に「あいさつや応対などの平易な会話並びに同等の読み書きが出来る」、高校卒業時に「日常の話題に関する通常の会話並びに同等の読み書きができる」としています。
 これを額面通りに受け止めれば、中学を卒業していれば、外国人に道を尋ねられたときや海外旅行をしたときに必要な程度の英会話は出来ることになりますし、高校を卒業していれば、日本にいる外国人の同僚と世間話も出来るし、旅行先で隣に座った外国人とありふれた日常会話が出来るレベル、ということになりますね。
 まぁ、これではあまり参考にならないので、ヨーロッパにおける言語習得レベルのスタンダードを、以下に記しましょう。原文は英語ですので、ザックリと訳したものを載せます。全部で6段階に分けられています。
 言語レベル1は「単語の認知」程度なので飛ばします。
 レベル2では「伝言やお知らせの要点を理解できる。」「広告、各種案内、品書き、スケジュールなどのような明確で意外性のない情報を理解でき、短い私信なども理解できる。」  日常生活は大丈夫そうですね。おそらくこのレベルを「生活言語」と呼んでも良いでしょう。
 レベル3では、「使用頻度の高い語や職業に関連した言葉を理解できる。私信などにおいて感情や望みや事務的な記述を理解できる。」とあります。ちなみにこのレベルでは、テレビやラジオ放送の要点を理解し、旅先でもほぼ問題なく会話できる、とあるので、すでにかなり高い言語レベルとなります。
 レベル4では、「著者が独特のスタンスや視点を持つ現代の問題に関する記事や報告を読める。現代言語における文学的散文を理解できる。」
 この段階では、ネイティブとの流暢な会話、議論への参加が可能なレベルのオーラル(口頭)スキルと、筆記能力においては論点をまとめたエッセイが書けるとあります。
 ここまで来れば大学生レベルですね。この先にさらに2段階の言語ベルがあります。しかし、まずは日本語においても、英語においても、このレベル4を目標にすると良いでしょう。  気になる方もいらっしゃるかも知れないので、次の段階も参考までに載せておきます。
 レベル5「長く複雑な事実や文学を、そのスタイルを味わいながら理解することが出来る。個人の関心事に関係のない、専門的な説明書や、特殊な記事を理解することが出来る。」  表現に関しては、「複雑な題材に関する明確で詳細にわたる説明を、いくつかの副題にまとめつつ、手際よく適切な結論へと導くことが出来る。」
 筆記能力では、「明確で分かりやすく構成された文章を用い、持論を文書化することが出来る。複雑な題材に関わるエッセイやリポートに関する詳細にわたる解説文を、ポイントを目立たせながら書くことが出来る。相手に併せて異なったタイプの文章を、適切に書くことが出来る。」
 このレベルだそうです。この先のレベル6に関しては書く必要もありませんね。


| まずは読めるところから

 それでは、「学習言語」獲得への入り口はどこにあるのでしょうか。  生活言語はもちろんCDのかけ流しです。そして、学習言語への入り口は「読力の育成」にあるのです。
 アメリカでは論理的な思考を身につけるために「クリティカルシンキング」(物事を批判的に見る練習)をします。批判的に見るということは、ただ単に否定するだけではなく、その否定の根拠を示す必要があります。その思考過程で、論理的に考える習慣を身につけていくのです。
 ただ、日本の場合にはこの考え方がありません。これは日米における各種アンケートの結果を見れば一目瞭然です。日本人の回答で最も多いのが「わからない」とか「やや~」ですが、米国人はその点明確。「Yes / No」で、はっきりと意見が分かれます。まぁ、知識が無くて「Yes / No」だけがはっきりしているのでは、それはそれで考え物です。しかし「わからない」というのは、正直な所感を述べているのでしょうけれども、あまりにもナイーブ過ぎるのではないでしょうか。
 またまた話がわき道に逸れてしまいましたが、米国のようにクリティカルシンキングのカリキュラムが組み込まれていない日本の学校制度において、論理性を身につけるには、大量の情報が必要です。情報量が多ければ多いほど、例えば歴史を知っていればいるほど、環境問題や政治、経済に精通していればいるほど、未知の問題に対する判断力も向上します。
 つまり、たくさんの情報が論理的思考を育て、結果として新しい問題に関しても的確に判断できる能力を養うのです。
 知識人であればあるほど、未知のことに対しても一家言ある所以ですね。
 最初は、そこまでの問題解決能力や判断力を要されることはありません。まず、必要なのは「筋道立ててものごとを考えられる論理的思考」です。
 そしてその能力を育てていくには、日本においては読書しかありません。たくさん本を読んで情報量を増やし、その中に共通する「物事の筋道」を感じていく。すると、ある段階から、本を読んでも「あれ?」「本当かな?」と批判的に考えられるようになるのです。結果的に、知識の量がクリティカルシンキングの脳、つまりは論理性へと変質していくのです。


| 読書の入り口

 生活言語から学習言語、論理的思考と話か広がってしまいましたが、「言語能力を生活言語に留めてしまってはいけない」ことはご理解いただけたと思います。そして、その生活言語レベルから抜け出して学習言語を身につけ、さらには社会人として必要とされる論理性思考へと、言語レベルを向上させていくための入り口は「読力」にあるのです。
 まずは単語を読めるようになる。そして文章を読めるようになる。もちろんはじめはスペルを追うだけ、単語を追うだけのたどたどしいものでしょう。たどたどしい読み方しかできなければ、文章全体を理解することは出来ません。
 しかし、読書量が増えてくれば、自然と文章のパターンが身についてきます。すると、スムーズに読めるようになるのです。そして、スラスラ読めるようになると、その段階では単語単位の理解ではなく、文章単位、さらには段落単位でイメージしている自分に気付きます。そして、ここまで来れば、その身につけたパターンで自分自身を表現するようになります。
 単純な話、読み続けるだけでどんどん言語能力が高まっていくのです。
 「パルキッズ」の学習では、まず「パルキッズプリスクーラー」で生活言語を身につけます。そして、今月リニューアル新発売の「パルキッズキンダー」で、語彙を増やすと共に「読解力」の入り口となる「読力」を身につけます。
 また、読力育成に最も効果的なアプローチをしてくれるのが「絵本の暗唱」です。絵本の暗唱を進めながら、パルキッズ・キンダーに付属のプリント学習をコンスタントに続けることによって、子どもたちを、「ダブルリミテッド」などと言われることのない、説得力のある言語能力を身につけたバイリンガルに育てていけるのです。
 学力低下、もはや日本人ではなく外国人留学生に学力を求め始めたとも思わせる東大の秋入学方針の打ち出し、企業活動に貢献しない日本の税制から海外へ流出する雇用など、今の日本には未来が危ぶまれる問題が山積しています。
 そんな中、子どもの将来を漫然とこの国の中だけに限定してしまって良いものでしょうか。海外赴任をいやがるようなメンタルを持った若い人が増えていますが、どんな企業や組織がそのような人材を求めるでしょうか。
 自分の意見をしっかり持ち、さらにそれを的確に表現するための論理性も持ち、しかも、地球上のハイパースーパー言語、つまり共通語である「英語」を身につけた人に育ててあげることが、今の私たちに出来る、子どもの未来に向けてのささやかな贈り物だと思います。
 4月は新たなスタートへの転換点。これからパルキッズをスタートする方も、既にスタートしている方も、心機一転、気分新たに取り組んでまいりましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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