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2012年06月号特集

Vol.171 | 発音で決まるリスニングの力

「英語が聞きとれない!」その理由をズバリ解説

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは無料で引用・転載可能です。引用・転載をする場合は必ず下記を引用・転載先に明記してください。

引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1206
パルキッズ通信2012年06月号特集『発音で決まるリスニングの力』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所


 今さら改めて言うまでもありませんが、日本人は英語のリスニングがとても苦手です。その理由は簡単。日本語と英語では、そもそも「音の要素」が違いますし、「発音の仕方」も「音の組み合わせ方」も全く異なるのです。英語には日本語にない音がたくさんあること、つまり未知の音素がたくさんあることが、日本人にとっての英語のリスニングを難しくしている原因です。
 そこで、私たちはさまざまな「リスニングのトレーニング」を試みます。ただ単に聞き流すものから、じっくり聞き込むもの、倍速を使ってみたりもします。つまり「聞く」練習をするのです。それはそうですね。聞き取れないから、聞き取りの練習をする。極めて理に適った方法と感じてしまうのは当然でしょう。
 もちろん、英語を耳にする機会が全くなければ、リスニングの能力も向上させようがありませんから、「聞く練習」自体は悪いことではありません。しかし、ただ漠然と耳にするだけでは、時間の割には学習法としては成果が見えるのに時間がかかります。倍速学習なども、すぐに成果が出るわけではないので、キチンとその原理を理解して納得した上で取り組まなければ、成果が上がる前に途中で投げ出してしまったりするわけです
 でもご安心ください。これは中学生以上の「大人の英語学習」の話。幼児となると、まるで様子が違ってきます。大人には聞き取れない英語も、幼児たちには聞き取れるのです。
 幼児期が「言語のリスニング能力」を身につけるのに最も適していることは、幼年期の英語教育に反対する人たちですら認めているほど、もはや一般常識化しています。この点こそが、早期に英語学習をスタートさせる最大のメリットなのです。大人は難しいが、幼児なら出来る。英語のリスニングの現実です


| 実は「勉強したことがない」んです!

 さて、その「英語の音」です。英語の音の流れはきれいですね。もちろん日本語も美しいのですが、またそれとは違った英語独自の美しいリズムがあります。英語も聞き取れることが出来たら、さぞや素敵なことでしょう。
 ところで、その英語の音ですが、ふと妙なことに気づかされます。私たちはかつて「英語の音」というものを習ったことがあるのでしょうか?学校の先生に発音の仕方を教わったり、繰り返し練習したり、そんな授業を受けたのでしょうか?
 私たちと英語の出会いは、小学生時代まで遡ります。今日では小3でローマ字を習いますが、それが日本人と「アルファベット」との正式な出会いです。ただ、これは「アルファベット」の正式な紹介とはいえません。あくまでも「ローマ字」を構成する音の要素として紹介されるので、ここでは「アルファベットの正確な音」は教えられることはないのです。
 つまり私たちは、小学校でアルファベットを習ったようで、実は習っていないのです。  では、その後に何が起きるでしょうか。今日では小5から英語が必修化されていますが、私たちの頃を考えれば、「ローマ字」の次は中学校での「英語の授業」がアルファベットとの遭遇でした。
 「a, b, c, d….」とやるわけですが、教わり方には随分偏りがあると思います。’a’ を「エー」、 ‘c’ を「シー」、 ‘d’ を「デー」と日本語読みする先生は、さすがに少ないかも知れませんが、それでも、ひょっとすると ‘o’ を「オー」と発音する先生はいるかも知れません。また、 ‘j, k’ を「ジェー、ケー」とついうっかり口を滑らせてしまう先生がいるかも知れません。
 それを聞いている生徒たちは、「これがアルファベットの音だ」と思いこんでしまいます。また、それほどの時間をアルファベットに割いている暇もないでしょう。そうして、英語の音の基本中の基本であるアルファベットをしっかり学習することなく、単語の暗記、文法学習へと進んでいくのです


| アルファベットを正確に発音しないと…?

 ところで、根本的なことですが、英語の発音は正しく知る必要があるのでしょうか?
 この点に関してはいろいろなご意見があると思います。「発音が悪くても英語は通じる」という方もいれば、「英語っぽく発音しよう」と巻き舌を練習する方もいます。
 そんな中、私自身は発音重視派です。しかし「発音は正確に」というと「カタカナ英語でも通じます!」と反論されてしまうことがあります
 もちろん、カタカナ英語でも通じます。日本人の英語で、通じる/通じないの差を分けているのは、発音ではなく「英語発想か日本語発想」か、という点です。簡単にいえば、「英語の考え方のルール」に則って作られた英文は、カタカナ発音であろうが、スパニッシュ訛りであろうが、アラビック訛りであろうが理解できるのです。その一方で、日本語の文章をひとつずつを英単語に変換したような文章は、どれ程キレイな発音で発したとしても、日本人以外には理解しにくいのです。
 極端な例をあげれば、
 ’I stayed while five hours at Starbucks.’
 ‘I’m planning to reform our mansion.’
などとキレイな発音で流暢に言っても、最初の文章は文法間違い、次の文は単語の使い方を間違えているので通じません。通じる英語を使うために重要なのは、「日本語→英語変換術」ではなく、英語の文章をたくさん頭に入れて、「英語アタマ」で英語を発することなのです。この点に関しては、また別の機会に触れるとしましょう。
 さて、発音が悪くても英語は通じます。そうなのであれば「英語の発音など、練習する必要はないではないか」と考えたくもなりますが、これは少々早急な結論です。
 英語の正しい発音を知ることは、スピーキングではなく「リスニング」に影響を与えるのです。アルファベットから始まる英語の音を正しい発音を知らないと、2つの問題が起こります。ひとつ目は「似た発音の区別が付かない」こと、ふたつ目は「リエゾンされると分からない」という点です


| 日本人にとっては「似た発音」だけれど…

 1点目の「似た発音」から説明しましょう。
 英語には、日本語にない「短母音」がたくさんあります。アルファベットの最初の音 ‘a’ からして、いきなり日本語にはないわけです。日本語では「ア」の発音はひとつですが、英語では日本語の「ア」に近い音が4つあります。

 ‘There’s a hat in a hot hut.’
 この文章の中に、3つの異なった「ア」の音が入っています。日本語で言ってしまうとすべて「ハット」ですが、英語では、似ているどころか3つとも全く違う音です。
 ひとつ目は ‘hat’ の音。この音は日本語で「お茶」と言ったときの「ち」の後に発音される母音に近い音です。口を少し横に開いて、口の中の空洞の面積が狭い状態で発音されます。’cat, pat, map, pan….’ などの音です。
 次の ‘hot’ は英国では「ホット」と「オ」で発音されますが、現在一般的となっている米国発音では口を広く開けた「ア」の音です。日本語で普通に「ハット」と言ったときの音に近い音です。’cop, mop, top, not, pot….’ などの音です。
 3つ目の ‘hut’ は日本語では「ウッ」という音に近く、口を小さく開けのど元の方で低く発音します。’cup, bus, gum, nut….’ などの音です。
 以上で挙げたような単語は、皆さんご存じでしょうけれども、これらを「正しく発音できる」という方は極めて少数派ではないでしょうか
 さらに、3つ目の ‘u’ の発音でアクセントのないものが ’about, ahead, across….’ などの「ア」の発音があります。
 これに加えて、「二重母音」となると、組み合わせはグッと増えます。いくつか例を挙げましょう。
 ‘coat, caught, court’
 この3つの単語。日本語読みすればすべて「コート」です。’bowling, balling, boring’ もすべて「ボーリング」になります。つまり英語では ‘bold, bald’ (大胆な、はげた)は違う単語ですが、日本語では少なくとも口頭英語としては「同じ音」という認識なのです。
 例えば、’ice cream cone’ は、あえてカタカナにすれば「アイスクリーム・コゥン」なのですが「コーン」となってしまう。すると「コーン=トウモロコシ」と浮かんでしまって、もはや辞書を引くことも疑うこともなく、「なにやらトウモロコシが関係しているらしい」とイメージしてしまうのです。そこには、本来の「 ‘cone’ =円錐」というイメージはありません。
 これだけではありません。’throw, slow’ など ‘th, s’ の発音もすべて「ザ、サ」行で置き換えていますし、’l, r’ もすべて日本語のラ行、 ‘n’ も舌を歯茎に接触させずに鼻濁音で発音したり、’f, v’ も’h, b’ の音に置き換えてしまいます。
 このように「日本語読み」では英語を正しく発音していません。では、正しい英語の発音を知っていて、あえて正しく発音していないのでしょうか?そんなことはありませんね。そもそも正しい発音の仕方を知らないのです


| リスニング力が向上する!

 最近、学生や大人の英語指導をする中で感じますが、本当に生徒の皆さんは、素直にただ単に「習っていない」だけなのです。ですから、コツを教えてほんのわずかな練習をするだけで、彼らの発音は見違えるように変化します。「発音」が上達するだけではありません。それに伴い、なんと英語の「リスニング力」だけでなく、英語の「理解力」まで向上しているのです。
 この点に関して、「正しい発音を知ることによって、聞き取りが出来るようになる」ことは、私自身感じるところです。そもそも、どんな音が英語にあるのかを知らずに、闇雲にリスニング練習をするのは「地図(正しい発音)を持たずに宝探し(リスニング)へ出かける」ようなものです。そこに何(どんな英語の音)があるのかが分からなければ、(単語を)見つけられるわけもないのです。
 英語の音といっても、無数にあるわけではありません。組み合わせはたくさんありますが、基本はアルファベットの26文字です。たった26文字を知らないために「勘」のリスニングに頼らざるをえない。ただそれだけの話なのです。


| リエゾン

 英語の正しい発音を知らないことで起きているもうひとつの問題は「リエゾンが分からない」点です。そしてリエゾンが分からないと、リスニングも出来なくなります。  例えば、以下のような「音」を耳にします。
 ‘Aidriimabau telefantstha wokapstears.
 これは「I Can Read!」シリーズの絵本の一節です。英語とはこのように聞こえるものです。そして、実際にこのように発音するのです。これが聴覚情報としての英文です。ただ、これが視覚情報となると以下のようになります。
 ‘I dream about elephants that walk upstairs.’
 これなら、どなたでも英語とお分かりになるはずです。上の文章、つまり「聴覚情報」と下の「視覚情報」。この差を隔てているのが「リエゾン」と呼ばれる現象です。
 日本語は「子音と母音がペア」になってひとつの音を構成しますが、英語は「子音だけ」でもひとつの音です。例を挙げると、 ‘station’ は日本語では「ス・テ・イ・ション」と4~5音節となりますが、英語では ’stei shon’ と2音節なのです。日本語の場合には必ず母音とペアなので、単語が子音で終わることは出来ませんが、英語の場合には、子音で単語を終わらせることが出来るのです。

 単語が子音で終わることが出来る。このことが「リエゾン」を引き起こします。子音で終了した単語の次に来る単語が母音で始まる場合に、前の単語の最後の子音と、次の単語の最初の母音がくっつくのです。もちろん英語を「日本語読み」していたのでは、このリエゾン現象は起こりません。
 例えば、’I’m in on it.’を日本語読みで「アイム・イン・オン・イット」と読んでいたら、いくら早く読んでも ‘aiminonit’ とリエゾンはできません。特に ’in on’ を日本語発音で「イン・オン」と言うとき「ん」の音は舌がどこにも付いていない鼻濁音になります。リエゾンさせるためには、正しく発音しなければいけないのです。
 日本人が英語を発するに当たって、もうひとつ妙な癖があります。それは「語尾を発音しない癖」です。
 日本人は「子音だけの発音」が苦手なので、’t, d, l, n, m, p, b’ などの音で終わる単語が苦手で聞き取りにくくなります。そこで語尾をはっきりと発音するために、最後に母音を付けて「日本語風に」発音する。悪循環ですね。アルファベットの発音を練習すれば済むだけの話なのですが、残念な話です。


| 正しい発音がリスニングの第一歩

 英語を話す時には、正しい発音でなくても、文章がしっかりしていれば相手に通じさせることは出来ます。
 ただ、正しい発音を知らないと、英語を聞いたときに「近い音」をすべて「同じ音」と捉えてしまいます。語彙がたくさんあれば、’raw, law, row, low’ の発音を聞き取れなかったとしても、文脈から理解することが出来ます。しかし、語彙が少ないのにすべて同じに聞こえてしまっては、相手が何を言っているのか、手がかりすら見つけられません。
 加えて、正しい発音を心がけると、口にする英文が自然とリエゾンします。自ら発する英語がリエゾンしていれば、そこで初めて耳に入ってくる英語のリエゾンも聞き取ることができるのです。音の学習を粗末にしてはいけない理由です。


| 子どもにも大人にも大切な「音の学習」

 大人の場合には、今までさぼってきた「英語の音の学習」を進めることによって、すでに身につけている英語の知識がようやく活き活きとしてものになっていきます
 しかし、子どもの場合には、これとは少し違った状況があるのです。
 子どもたちは耳が良いので、まずは「聞き取れてしまう」のです。つまり、先ほどの文章を例にとれば、’I’m in on it.’ が、大人の耳には ’aiminonit’ と響くのに対して、 ‘I’m in on it.’ と分解して知覚されることを意味します。これは素晴らしい能力です。
 「パルキッズ」をかけ流して1年も経った子どもたちの耳には、すべての英文が「音の固まり」ではなく「単語の連続」として響いているのです
 と、ここまでの子どもたちの能力は素晴らしいのですが、今度は聞き取った音を文字にしていかなければなりません。なぜならば子どもの脳では、分解された単語にはまだスペルが付いていないのです。
 たとえば、子どもにとっての単語は、まずは ’streit, rait, teibl, haus, claud’ など漠然とした「音の固まり」です。これらの音と正しいスペル ‘straight, right, table, house, clowd’ との関連性、つまり「フォニックス」の学習をしなければ、英文を見ても読めないのです。
 大人の場合には「単語の正確な音→リエゾン→実際の音」と練習しなければいけないのに対して、子どもたちは「実際の音→フォニックス→正確な綴り」とマスターしなければいけないのです。
 スペルは分かっていても聞き取れない大人、その一方で、聞き取れるけれどスペルの分からない子ども。全く逆に見えますが、実は「学ぶ順番」が違うだけで、学ぶべき内容は全く同じです。大人は学習し損なったところ、子どもは学習していないところをしっかりと補っていけば良いのです。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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