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2013年1月号特集

Vol.178 | 「稼げる子」に育てるために

だれも教えてくれない一石三鳥の子育て術

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1301
船津洋『「稼げる子」に育てるために』(株式会社 児童英語研究所、2013年)


| 受験シーズンまっただ中

 最近、どうも若者たちに元気が無いようです。元気が無いというよりもあきらめが早いというか、特に実社会との具体的な接触が希薄になっている印象を受けます。いろいろな雑談の中で、そんな話を耳にすることが多くなりました。実際に、会社もちょっとしたことで辞めてしまう。まるで学生が学校で嫌なことがあったら気鬱になって不登校になってしまうかのようです。
 ところで、この不登校の率は20年ほど前には100人に1人だったのが、近年ではざっと100人に3人と急増しています。学生たちの悩みも多様化しているのでしょうけれども、不登校の原因として挙げられている「情緒的混乱」「無気力」「友人関係」などの心配事は昔からあるわけですので、不登校の原因を社会構造の変化や教員の質にすべて帰することはできないでしょう。最近の子どもたちは、ちょっとしたストレスにも耐えられない、つまり「ストレス耐性」が弱くなっているようです


| お子さんは大丈夫?

 大学への進学率は年々高くなるものの、大卒後に正規採用されないか、もしくは大学院へ進学をしない学生の割合は2割を軽く超えた状態が続いています。つまり、大学を卒業しても、5人に1人は、バイトや派遣などの非正規雇用か仕事も教育も受けていないニートということになります
 昨今のこのような厳しい求職環境にあるなか、先のようにせっかく就職してもあっさりと離職してしまうケースが珍しくないのです。もったいないというか、粘りが無いというか…。ちなみに、大卒の就職後3年以内の離職率は30%と、ここしばらく高止まりしています。
 親も親でそんな子どもたちを母性に任せて「守って」しまう。ライオンの親のように我が子を千尋の谷へ突き落とせ、とまでは申しませんが、せめて、かわいい子には旅をさせる…自分の責任くらいは自分でとれるように育てたいものです。
 このように頼りない子が増える一方で、企業が求める人材もひと昔前とはずいぶん変わってきているようです。資格取得が就活に有利ということで、会計知識やPCスキル、業界ごとの専門的な検定などなど、各種技能を身につけることが未だに流行っていますし、もちろんそのような技能は大切です。
 しかし、ここ数年、企業が新卒者に求める能力のトップ3は「コミュニケーション能力」続いて「主体性」、そして「問題解決能力」という順が定着してきています。つまり企業側は、細かい技能よりも「人として社会の中で生きるための根本的な能力」を、社員に求めているのです。雇う側、雇われる側、ずいぶん意識が乖離しているようですね。


| 「稼げる子」に育てる

 どうも日本人は「お金」は「汚いもの」というイメージを心のどこかに持っているようで、お金を稼ぐことよりも、貧しくても清く正しく美しく、いわゆる「清貧」を貫くことが美徳のようですね。もちろん「裏金」「贈収賄」「袖の下」などなど、お金にまつわる汚い話もたくさんありますが、それはお金の使い方が悪いわけで、決してお金が悪いわけではありません。もし可能であれば、「清く正しく、そしてしっかり稼ぐ」ことが一番ですね。
 稼ぐといっても、なにも億万長者になりましょう、と言っているわけではありません。
 大学を卒業したら、自分の希望する会社に就職して、充実した社会生活を送り、三十を過ぎて家庭を持ち、子どもをもうける。仕事ばかりでなく季節ごとのレジャーを楽しみ、子どもには良い教育を受けさせる。そして、親にしてもらったように我が子を大学へ行かせる。リタイアする頃には家のローンも終わっている。あとは孫に囲まれて悠々自適な余生を送る…。そんなきわめて普通の幸せな生活を送るために、必要なのが「お金」です。そして、そのお金を「稼ぐ能力」が必要です
 億万長者になるほどではないまでも、少なくとも上記のような生活ができるくらいは稼げる方が良いですよね。そして、皆さま、我が子の幸せを願っているわけですから、そのように「稼げる子」に育てることを視野に入れつつ、今から育児を調整されるとよいでしょう。


| いくら必要?

 ちなみに、もう少し具体的に「稼げる」ということについて考えてみましょう。日常生活の中で最もお金がかかるのは?不動産ですね。我が家を持つことにはずいぶんとお金がかかります。しかし、その不動産と比べても、ひょっとするとそれ以上にお金がかかってしまうのが「教育」です。
 教育は、たいそうお金がかかるものです。公立小学校も無償ではありません。給食費や遠足代金など、ちょこちょことお金はかかります。それでもまだ小学校では大した額ではありません。中学校へ行くと年間15万円くらいかかりますが、これもそれほどの金額ではありません。ところが、意外とかかるのが塾の費用。塾のタイプにもよりますが、特に進学塾でなくても、地元の高校受験を視野に入れるような補習塾でも年間60万円くらいはかかります。もちろん夏期講習などは別です。
 私立の中学へ入れると、学費が年間100万円弱かかりますので「私立は高い!」と感じていらっしゃるご家庭も多いかもしれませんね。しかし、どのみち高校までは進学するわけですし、大学受験を考えて少しでも良い高校へ進学させることも視野に入れれば、中学から塾に通わせざるを得ません。そうすると結局、私立中学へ行くのと同じくらいのコストがかかってしまうのです。
それなら最初から「大学入試を目指した教育」をしてくれる私立へ行かせた方が、手厚くケアしてもらえますよね。しかも、中高一貫校なら高校受験が無いので大学受験に専念できます。どうせ同じお金がかかるなら私立。「コスト感覚」をお持ちの親御さんなら、ピンとくるはずです
 その後、高校でも同じくらいの教育費がかかります。公立なら安いものですが、大学受験の予備校へ通わせれば年間70万円くらいはかかります。つまり、私立公立を問わず塾や予備校へ通わせるのなら年間100万円、ざっと計算しても中高の6年間で多くて600万円くらいは覚悟しておく必要があるのです。仮に、子どもが2人いれば6年間で1,200万円です。税引後の所得から、教育費として毎年200万円が有無を言わせずに出て行くのです。特待生にでもなってもらわなければ、大変な金額です。
 さらに大学。これも文系でざっと年間100万円です。つまり中学から大学卒業までの10年間にわたり、毎年1人につき100万円ずつ、合計で1,000万円が出て行きます。さらに理系となれば年間150~200万円、理系の場合には大学院まで行く確率が高いので、大学・大学院の6年間ならトータルで900~1,200万円が所得から消えてなくなるのです。これはあくまでも子ども1人分の金額…2人ならこの2倍です。
 学費だけのトータルを見ても、1人当たり1,000万円から2,000万円くらい。2人なら2,000万円から4,000万円です。家を買うのと同じくらいです。まさしく子どもに教育(学歴・知識)という財産を残す、壮大なる事業ですね。


| 「稼げる子」に不可欠な力

 さて、教育費をはじめとする、生活の中での様々なコスト負担。これをある程度の余裕を持ってこなし、若干でもプラスを残し続けることを「稼げること」と考えれば、億万長者にはならないまでも「稼ぐこと」が意外と大変なことが分かります。
 それでは、どうすればよいのか。
 「高学歴」を身につけさせればOKですか?確かに学歴は高いに越したことはありません。ただ、絶対的に就職に有利か?高学歴ならば稼げるのか?といえば否。そんなことはありません。東大を出ても早慶を出ても職にありつけない子はたくさんいますし、職に就けても粘りが無くやめてしまったり、周囲とうまく調和できなかったり、つまりは稼げない子がたくさんいるのです。
 もちろん学歴は高い方が良いのですが、それはずっと後のこと。例えば起業したり、官公庁とのコネクションが必要となった場合、そこに同学の士がいれば断然強みになります。そんな意味での「コネクションとしての高学歴」は後に強みを発揮します。ただ、あくまでもある程度社会で成功した後の話。社会で成功するまでならば学歴はそこそこのものがあれば充分でしょう。
 その代わりに必要となるのが、既述の「コミュニケーション能力」と、その能力を発揮するための「ロジカル思考」。さらにはその思考の元となる「知識」。加えて、幼児期にほぼ決定してしまう「地頭の良さ」なのです


| コミュニケーション能力を発揮するためには

 「コミュニケーション能力」とは、単なる「話の上手・下手」の問題ではなく、お互いの望ましい結論へと「対話を導く技術」のことです。自分の話を押しつけるだけではなく、逆に、聞き上手になるだけでもありません。
 例えば、店頭での接客営業ならば、客の意を察し、ライフスタイルやコスト的にぴったりの商品を提案し、気持ち良くお金を払っていただくことです。その結果として、売り上げが立ちます。また、何かアドバイスや提案をする立場ならば、相手の気質に合せて、いかにも相手が自分でたどり着いたように印象づけながら、押しつけではなく、好ましい結論へと導くことです。
 そのコミュニケーションを成功させるための元となる「ロジカル思考」とは、コミュニケートする際に、論理に瑕が無いように、また論理の飛躍が無いように、地に着いたロジックをくみ上げていく考え方のことです。
 例えば、就職の面接のときに、「我が社に就職したい理由は?」と問われて、型通りにありふれた修辞を並べるのではなく、自分なりに「これこれこういった理由で。」と端的に答えられる能力。営業に出て「なぜ貴社の製品を勧めるのか?」と問われたときに、相手すら気づいていない「自社製品導入のメリット」をスパッと答えられる能力。そんな能力のことです。これがなければ、いかに会話が上手でも、信頼は得られません。
 そして「知識」。知識はとても大切です。知識に裏打ちされないロジカル思考は単なる「ヘリクツ」ですし、知識の裏打ちの無いコミュニケーション能力は単なる「おべっか」になってしまいます。どこかで聞いたような話を、いかにも持論のように展開する人もいますが、そのような人たちは知識ばかりあって、一般論を展開しているだけなので、コミュニケーション能力を行使しているとは言いがたいですね。
 さらに、「あの人は頭の回転が良い」とか「あの人はスローだね」などと言われる、いわゆる頭の善し悪し。「知恵の能力」つまり判断力は、年齢とともに経験によって身についていくものですが、「頭の回転スピード」に関しては、幼児期にほぼ決まってしまいます。その点が、幼児教育の最大のメリットですね。幼児期に、日常には無い体験をたくさんさせておくと、頭が「大量の情報を処理することに慣れる」のです。情報処理の精度に関しては年とともに完成度が高まりますが、情報処理のスピードは幼児期の教育が勝負なのです。

 つまり、相手の利益(ひいては自分の利益)を最大限に実現するためには、「コミュニケーション能力」が不可欠で、その裏付けとして「ロジカル思考」と「知識」があるわけです。そして、その能力幅を決めるのが幼児期に培われる「回転の速さ」なのです。


| 誰も教えてくれません

 コミュニケーション能力。この能力を身につけている日本人にお目にかかることは、残念ながらなかなかありません。例えば、「言論の府」の構成員である代議士。「言葉のプロ」であるはずの彼らが、地元のお祭りでカラオケを歌ったり、選挙戦で土下座している姿を見ると、「この国は本当に情の国だなぁ」と感じてしまいます。日本人にとっては、論理性ではなくて「情」に訴える方が、余程効果があるのです。
 日本人は、単一民族で移民も少なく、皆同じような環境で育っているので、「の呼吸」ですべてわかってしまう。つまり日本は、言葉でコミュニケートする必要がほとんど無い国だったのです。「男は黙って…」とか「沈黙は金」とか、おしゃべりを卑下する文化です。そんな中で、コミュニケーション技術を学ぶ機会は皆無と言ってもいいでしょう。話し方に関しては、小学校のときに「いつ・だれが・どこで・・・」流のゲームをした程度。これでは、コミュニケーション技術もロジカル思考も育たないでしょう。そもそも、そのようなものが必要であると認識していないわけですから、コミュニケーション、ロジカル思考などと耳にしても「何やら難しそうだなぁ」くらいの感慨しか抱けないのです。
 しかし、所変わってアメリカでは、特にロジカル思考について「クリティカルシンキング(健全な批判精神を伴った論理思考)」を、小学校のときからトレーニングされます。考え方が多様化している移民の国アメリカでは、相手に自分を理解させるためには、論理的にひとつひとつ丁寧に説明しなくては伝わらないのです。どうですか?多くの日本人はこれが苦手でしょう。きっと日本人なら「わからない人だな、もう結構!」となってしまうところですね。


| やったもの勝ち

 ところで、日本も最近は「多様化」しています。「皆まで言うな」の流儀が通用したのは、昭和の一億総中流意識の時代までのはなし。
 かつては、日常のちょっとした挨拶や近所の人との会話がコミュニティー帰属の意識を保ってきました。しかし、核家族化が進み、昔ながらのコミュニティーが崩れ、人と人とが触れ合わなくなる。そして、触れ合わなくなれば、考え方もずれ、一緒の生活圏にいるという仲間意識も薄れます。近隣の人たちとの交流が無くなるにつれて、まるでまつり糸を解くように、お互いの意識のまとまりもバラバラになってしまっているのです。さらに、IT技術の進化や長引くデフレ、震災などによって、価値観は多様化する一方です。すると、うまくコミュニケーションができない人たち同士で、すれ違いからのトラブルも多くなっていきます。しかし、学校ではコミュニケーションやロジカルスキルを教えてくれませんし、親も教えてくれません。運良くそんな指導者や親に巡り会えればラッキーですね。
 つまり、残念なことに、日本人はおしなべて「コミュニケーションが苦手」です。この技術を持っている人は、きわめて少ない…ということは、逆に「コミュニケーション能力に優れている」ということは、人生に計り知れないメリットをもたらします。就職面接でもほかの子たちが通り一遍の受け答えをしている中で、キラリと光る。会議で発言を求められればズバリ的を射た話をする。あらゆる判断が、的ではなく論理的に行われれば、周囲から一目置かれます。そして、そんな周囲に尊重される人間が「稼げる」人たちなのです。  野球選手になるのもよいでしょう、オリンピックの選手になるのもよいでしょう。そんな夢を追い続けさせながら、コミュニケーション能力とその元となる論理的な思考を身につけさせてあげることが、確実に「稼げる」人に育てる方法です。しかも、まだこの事実に気づいている人がほとんどいない。まさしく「やったもの勝ち」なのです

 それでは、どのようにこれらの能力を育てていくのか。
 いきなりコミュニケーション能力を育てるのは不可能です。幼児期・児童期にできることは、日常生活ではできない刺激をたくさん与えて、頭の回転スピードを上げること、つまり地頭を良くすること。そして、大量の情報、特に語彙を身につけさせてあげる。そして、同時に論理的な思考をできるように育ててあげることです
 これらの作業、大変そうですよね。しかし、これらをいっぺんにやっつけてしまう方法があるのです。
 そうです。皆さまが、現在実践中の「英語教育」なのです。
 英語とは、日本における日常生活では得られない「刺激」です。しかも、言語という膨大な体系です。
 また、研究でも単一言語を話す子どもより、バイリンガルの子どもの方が言語に対する感覚が敏感である、という結果が出ています
 2010年に発表された論文(京大・英シェフィールド大の研究チーム)によると、単一言語を話す子どもに比べて、バイリンガルの子たちの方が、劇の中でナンセンスな台詞を耳にした時に「?(変なことを言っている)」と敏感に反応を示すことが確認されました。要するに、英語を教えるだけで、脳の回転、言語に対する敏感性は高まるのです。
 加えて、「英語」自体がとてもロジカルな言語なので、結果として英語で書かれた文章はロジカルにならざるを得ません。説明抜きで結論へ飛びついたり、曖昧だったり、理屈が合わないような文章は英語にならないのです。ロジカルな思考で書かれた文章を読んでいるだけで、物事の道理と結論への導き方が、自然と理解できるようになります。洋行帰りの人が少々理屈っぽい傾向にあるのは、彼らが「英語という言語」、あるいは「英語という思考体系」を身につけたことが大きく影響しているのでしょう。

英語を身につけることで、脳の処理スピードを高め、知識量を増やし、ロジカル思考を身につけるトレーニングになる。一石三鳥の育て方ですね。そして、コミュニケーション能力を身につけさせる。こうすることによって「稼げる人」に育ちます。その上で、いろいろな夢を実現すべく、親子で進路を考えて行けばよいでしょう。

 今回の話は、ここ数年来の友人かつ先輩である安田正先生との親交に負うところが多くあります。先生との交流の中で啓蒙・触発されたものの中のほんの一部をご紹介しました。具体的なコミュニケーション能力の開発に関する詳細は、右にご紹介している安田先生の御著書をご参照ください。
 プラス日々の英語の取り組みもおろそかにしないように。年頭にあたりお願い申し上げます。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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