パルキッズ通信 特集 | 子供の成長, 子育て論, 発信力, 自律, 金銭事情
2015年10月号特集
Vol.211 | 「肉食系」育児のススメ
デートしない、勝負しない「草食系」の将来とは?
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1510/
船津洋『「肉食系」育児のススメ』(株式会社 児童英語研究所、2015年)
| お子さんの未来、どこまで見ていますか?
育児中は、特に子どもたちの年齢が低ければ低いほど、目の前のことに手一杯で、なかなか将来を見通す余裕がありません。それはそうです。季節の変わり目や行事などのイベント毎に、少し気を抜けば風邪をひく、ちょっと目を離せば転んでケガをする…。何事もなくても、日々「どうするとここまで汚せるんだろう?」と首をかしげたくなるほどに服が汚れ、「これは意図的に散らかしているに違いない」といぶかるほど部屋が散らかっていき、「サルでももっときれいに食べる」と情けなくなるほどに食卓がぐちゃぐちゃになっていく…。まさに、「エントロピーの増大」という言葉がぴったり。それを秩序立てていかなくてはいけないわけですから、ママは大変です。しかし、そんな時期も延々と続くわけではありませんね。日々のトレーニング、躾とも言いますが、これをキチンとすることで、自分のことは自分でできるように育っていきます。服も大して汚さなくなり、玩具を始めとして私物も整理整頓するようになり、食事も上手にとれるように育っていきます。そんな時、少し時間を割いて「子どもの将来」に思いを馳せてみるのも良いでしょう。
今回は、子どもの将来について考えます。ただ、大学や就職など学力に関することではなく、ちょっと違う角度から子どもたちの将来を想像してみることにいたしましょう。
| 草食化
「草食男子」などという言葉が発明されてから10年ほど経ちました。「うまいことを言うものだ」と感心したものですが、どうやら感心している場合ではなくなってきているようです。バブル経済を控えた1980年には、生涯未婚率は女子で4.45%、男子の方が女子より低く2.60%でした。生涯未婚率とは、50歳で一度も結婚していない人口の割合です。これ以降に結婚する可能性が低いことから、50歳で区切られているようですが、まぁ、おおよそ妥当な基準でしょう。
つまり、35年前、今の親の世代の子ども時代には、生涯結婚しない人の割合は、100人中男女平均しても3人強だったわけです。
ところが30数年経過した今日、生涯未婚率は女性で10%となっています。さらに男性に至っては20%で、女性の10人に1人、男性の5人に1人が結婚しないという数字です。
かつては、女性の未婚率の方が高かったのですが、現在では逆転。それどころか、35年前の10倍近くまで男性の未婚率が上昇しています。上昇というよりは「うなぎ登り」と言うべきかもしれません。この上昇率が現状で高止まりすることは考えにくいので、これからもしばらく未婚率は上昇し続けるでしょう。
これは何を意味するのでしょうか?そうなのです。皆さんのお子さんが生涯結婚しない確率が、どんどん高くなっているのです。
男子であれば、すでに5人に1人。我が子に仲良しのお友だちが4人いれば、その中の1人は確率的に結婚しません。ひょっとすると、怖い話ですが、皆さんのお子さんたちが成人する頃には、5人に2人位まで上昇しているかもしれません。「生涯未婚率」。私たちの世代では、たいていの場合「人ごと」で済んだのかもしれませんが、これだけ確率が高くなってくると、もはや「我が子の問題」として捉えていく必要があるかもしれません。
| 食欲減退の現状
東京都幼・小・中・高心性教育研究会の調査結果によれば、異性との接触に対する関心が薄れていることがよく分かります。中3生に「性交願望」アンケート調査をしたところ、30年前では男子で86%、女子で36%が関心を示していましたが、昨年の調査では男子で関心を示したのは25%、女子に至ってはわずか10%と、コンスタントな下降を示しています。もっとも、設問の仕方や、それに対する反応の正直さに関しては世代間で異なる可能性もあるので、この数字を鵜呑みにすることはできませんが、その点を差し引いても異性に対する、いわゆる「食欲減退」の傾向は明らかでしょう。
また、『若者の性白書』によれば、異性と付き合った経験が有るのは、中学生で1/10、高校生で1/4、大学生でも1/3と、ほとんどの子どもたちが異性と付き合ったことがない、という数字が出ています。また、20代から40代までの未婚男女を対象とした調査では、33%の男性と23%の女性が「異性と付き合った経験なし」と答えているのです。20代の男性においては41%が「経験なし」と答えているのですが、実際に、特に地方へ行くとそんな話を耳にする機会が少なくありません。
もはや一部の特殊な人たちの話ではなく、「草食化」という言葉が妙な説得力を帯び始めているのです。
| 草食化の原因
草食化に関しては、いくつかの原因が考えられます。
まず、先の中3生に対するアンケート調査のように、性的な事柄に関心を抱かない、もしくは逆に嫌悪感を抱いているということが考えられます。これに関しては、後回しにしましょう。
直接的には、低迷する経済による所得の二極化、さらには女性の社会進出も、晩婚化そして草食化の遠因として考えられます。
低迷する日本経済の中、大学生を持つ世帯の年間所得は、バブル期より200万円ほど減少しています。そもそも、この平均値もあまり意味を持ちません。所得が二極化している今日、一部の高額所得者が全体の平均値をつり上げているので、これらを除外すると平均値はもっと下がってしまいます。現実には、200万円どころか300万円以上の所得低下もあり得るでしょう。世帯の所得が低ければ「お小遣い」も出ないので、交遊費が限られてくるのは当然。つまり中高生がデートをしたくてもお金がないのです。
加えて、学力の二極化により、教育に熱を入れる家庭が増加しています。すると、当然のことながら、異性と付き合っている場合ではないのです。この件に関しては、いろいろな人がいろいろなことを仰っていますが、僕個人としては「積極的に付き合いなさい」とアドバイスしたいし、私事ですが我が子たちにもそのように接してきました。男女の事というのは、お金の事と同様に、人生においての重大事ですので、それを避けて通らせるのはいかがなものかと思います。当然、勉強もするし運動もする。その上で大いに恋もすれば良いのです。それが自然でしょう。
少し話がそれましたが、経済的な理由が草食化を加速させていることは明らかです。今日の日本では、6割近くの学生が大学へ進学します。その大学生のお小遣い(仕送り)の減少、これも草食化を促す重要な経済的要因となります。
親の所得が低くなれば、仕送りも少なくなります。バブル期に比べると、大学生の可処分所得は当時の1日2100円から、今日の1日700円へと3分の1になっています。限られた金員は、そのほとんどが胃袋へと消えていくのは、食べ盛りの若者のことですから当然です。1日700円ではデートどころではないでしょう。
しかし、昔から「苦学生」はいました。ひと昔前ならば、学業そっちのけでバイトに明け暮れ、温かい食事にありつき、さらに関心事は異性のことばかり…、せっせとデートする大学生も少なからずいたものです。
ところが、今では学生たちの状況が変わってきています。親がせっせと捻出してくれた学費を無駄にする…などといった不届きな学生が減っているのかもしれません。まじめな学生が増えているのです。学生たちの授業の出席率は向上し、同時に大学側も「入学できれば卒業できる」と言われたかつての大学ではなく、「勉強しないと卒業できない」よう学生に対する要求を厳しくしています。
つまり、お金がないのでバイトをしなくてはいけないが、学業が忙しくバイトする時間がとれないのです。この傾向は、理系の学生に著しく、見ていて気の毒なほどです。そして、バイトする時間がなければ所得も上がりません。デートしたくてもできない。ディズニーランドなどは夢のまた夢…。数年前にあった、国立大学の院生による窃盗事件などは心が痛みます。国立大学の学費、半期分25万円がどうにもならない。これはもう社会問題でしょう。
お金がなければバイトをすれば良い、といった具合のかつてのお気楽大学生然とした単純な図式は、もはや通用しなくなっているのです。お金がなければ、異性とのつきあいなどといった心の余裕も生まれないでしょう。異性に積極的だとしても、お金がなければ牙を抜かれたオオカミよろしく、いつしかその気力も萎れてしまうのかもしれません。
| ゆとりとさとり
経済的な理由以外にも、草食化の原因はあります。純粋な食欲減退、もしくはそれを装う風潮があるのです。そして、食欲減退を装っているうちに、本当に食欲がなくなってしまうようです。
ゆとり世代の特徴として、人との争いを避ける傾向が挙げられます。それはそうです。運動会が活躍の場であるやんちゃな子から「平等」という意味不明の理由で1等賞を取り上げてしまう。そんな風潮の中では頑張り甲斐もないでしょう。
加えて時代は大学全入。勉強しなくても、どこかの大学へは行けるのです。勉強しなくても行けるのに、勉強する子は「変わり者」とレッテルを貼られてしまうかもしれません。現に、公立中学ではせっせと勉強しているとからかわれる、もしくは仲間はずれにされる恐れがあることから、学校では勉強しない風を装う、そんなゆがんだ話すら耳に入ってきます。勉強するのは格好が悪い、頑張っているのは格好が悪いというのです。
これは英検の受験者数の推移にも現れていて、中学生の英検受験者数は10年前の「ざっと3人に1人」から、今日では「4~5 人に1人」まで減少しています。頑張るのは目立つし格好が悪いし、しかも頑張らなくても大学へは行けるのですから、頑張らなくなるのは当然です。
このように、競争することを避け、皆との輪の中からはみ出ないように振る舞う傾向があるのです。
このような、中高生時代の振る舞いが大学生になってそのまま引き継がれます。恋人がいる大学生は、既述の通り1/3に限られます。要するに3人集まればそのうち2人は、彼氏・彼女がいない。そんな彼ら、特に男子に、異性と付き合わない理由を尋ねると、男子たちはこう答えます。「和を乱したくないから」だそうです。異性と付き合うと、グループ内の和が乱れるというのです。そんなに周りの目を気にしていたら、恋などできるはずもありません。また彼らはこうも言います。「彼女といるより皆といた方が楽しいし…」とのこと。異性と付き合ったこともない連中が、何を言い出すことやら。
穿った見方かもしれませんが、これらの発言の背景には、ゆとり・さとり特有の「勝負を避ける」性質が見え隠れするのです。勝負しなければ、負けることはありません。告白すればフラれるかもしれない。フラれれば傷つく。ならば、最初から勝負をしない。告白しない。危険を避けるのです。そのようにして、逃げて逃げて、逃げまくる。そんな男子が増えていて、彼らを草食男子と呼ぶのかもしれません。
| 女性の自立
一方で、女性は時代とともにどのように変化しているのでしょうか。女性の生涯未婚率も増えていますが、これは男性のように自ら晩婚化しているのではなく、草食化・晩婚化する男子が増えた結果、巻き添えを食った形のように思えて仕方がありません。
調査によってまちまちですが、女性に「肉食男子と草食男子、どちらが好きか?」と尋ねると、8割以上が肉食男子の方が良いと答えます。これは極めて自然でしょう。女性は、男子の子をお腹にはらむ可能性があるのです。どうせならば頼りない男より、頼りがいがある男の子どもの方が良いに決まっています。また、20代から30代の女性にアンケートをとると、2/3は「専業主婦になりたい」と言っています。専業主婦になるためには、旦那の稼ぎのみでやっていく必要があります。昭和の時代であれば、専業主婦も当然のようにいましたが、所得の二極化、経済の低迷する今日では、専業主婦は高嶺の花なのかもしれません。
すると、女性は自立し始めます。自立せざるを得なくなるのです。特に高学歴の女性は自立傾向が強くなります。未婚で30歳の誕生日を迎える女性は、1980年には25%でしたが、今日では60%と、倍以上に増えています。繰り返しますが、できれば頼りがいのある男と結婚して専業主婦になりたいが、なかなかそうはいかないというのが現実のようです。これは少子化にも直結しているので、看過できない問題です。余談ですが、高校以下の学歴の女性は、大学以上の学歴の女性より、30%多く子どもを産んでくれます。また、地方の女性は、都市部の女性より30%多く出産します。そんな女性たちが、日本の将来の人口を支えているのかもしれません。
| 結論として
「勝負を避ける」男子が、傷付く危険を避けるために「異性に関心がない体」を装う。ただ装っているうちは良いのですが、それが事実となってしまうことはいただけません。加えて、低迷する経済と、大学生としての意識や大学側の姿勢の変化で、学生に時間とお金の余裕がない時代です。これが、さらに若者の草食化を後押ししています。
さらに、これは言い忘れましたが、「勝負しない」ということは、就職後も高所得は期待できません。下手をすれば、ブラック企業に捕まってしまうかもしれません。すると、学生時代と同様に、金銭的にも時間的にも余裕がない社会人生活を送らざるを得ません。当然、異性との「出会い」そのものも限られてくるでしょう。そして、それが女性の社会進出を余儀なくしているのです。(これは、決して女性の社会進出を否定するものではありません。労働人口の限られている日本においては、女性の労働力は今後ますます重要性が増してきます。また能力的にも男性に勝る女性の社会進出は、望ましいことは言うまでもありません。ただ、その要因の一端が男子の草食化にあることが引っかかるのです。)こう考えてみると、どうやら、女子というよりも男子の側に、諸問題の原因があるようです。
さて、この問題の解決は単純ではありません。しかし、家庭内でもできることはあるはずです。「勝負から逃げない」姿勢を育てることはできるでしょうし、将来「稼げる男」になるように、またはそういった頼れる伴侶を見付けられるように、子どもたちと一緒に彼らの未来を語り合うことも大切でしょう。また異性とのつきあい方、身の守り方、そんなソフトな性教育も積極的に行えば良いと思います。
これらの話を、親が積極的に伝え、共に考えることによって、将来、自分の力で自分の家族を作っていける、頼もしい子を育てられるのかもしれません。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。