パルキッズ通信 特集 | スピーキング, 大学入試, 学校英語教育, 発音, 英語学習方法
2017年5月号特集
Vol.230 | だからできない!英語の発音
リンキングを知ればわかる!英語の音の仕組み
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1705/
船津洋『だからできない!英語の発音』(株式会社 児童英語研究所、2017年)
| 英語の検定試験
世の中には様々な英語の検定試験があります。社会人や学生ならTOEICを受験する方もいるでしょうし、留学を志している人ならTOEFLを受験する方も少なくないでしょう。それでもやはり、検定試験の老舗と言えば、英検ではないでしょうか。今に始まったことではありませんが、近年、入試の英語科目受験を検定試験で代用する大学が増えています。その中でもやはり英検が筆頭格のようです。旺文社の調べによれば、外部検定試験利用大学の中でも、9割以上が英検を利用しているようです(※1)。その後、TOEIC、TOEFLと続きますが、最近注目を浴びているのが早稲田大学なども導入したTEAP(ティープ)です(※2)。
TEAPとは、英語検定協会が上智大学と開発したツールで “Test of English for Academic Purposes” の略です。その名の通り、アカデミックレベルでの英語使用の能力を測る試験です。私もクラスの振り分けや、大学の方針で受けさせられましたが、そのTEAPの最大の特徴は今盛んに言われている四技能の試験でありながら、大学入試にほぼ特化している点でしょう。確かに大学で通用する英語のレベルを測るには適しているでしょう。
リスニングとリーディングは、従来の英検の長文のような形式で、それに加えて最近では英検にも導入されている記述試験があります。そして最後に、英語面接で会話での運用力を測るという仕組みになっています。
このように、私立大学では、外部検定試験を活用するのがもはや当たり前の様になっていますが、文科省も従来のセンター試験に代わる英語の試験に関して、外部検定試験を導入する方向に向かっているようです。つまり、私立大学のみならず、国公立大学でも、一般入試やAO・推薦入試で、外部検定試験の成績で英語力を判断する方向へ進んでいるのが最近の大学入試のトレンドです。
逆に、私立大学の場合には、受験の英語科目のあくまでも「オプション」として外部検定試験を設定していますが、国公立大学ではセンター試験の代わりに外部検定試験の受験が義務づけられることになるので、私立よりも一歩踏み込んだ形で「四技能」による英語力判断へと傾いているようです。
※1) 『英語外部検定入試利用大学が倍増』http://eic.obunsha.co.jp/pdf/exam_info/2016/1130_1.pdf ※2) 『早稲田も上智大の「TEAP」導入』https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2017030600081_1
| 問題は…
今まで大学入試と言えば、筆記試験が中心でした。もちろん、現在でも状況は変わりません。繰り返しますが、私立大学の場合には「外部検定試験でも可」ということであって、独自の英語試験を課すことに関しては、今のところ変わらないようです。つまり、国公立大学ではリーディング・リスニングのセンター試験に加えてライティング・スピーキングが課される可能性が高い一方で、私立大学ではあくまでもスピーキングやライティングの能力が高い人は「優遇するよ」という雰囲気が漂っています。いずれにしても、従来の二技能(聞く・読む)に加えて四技能(+書く・話す)の運用力を、大学入試に反映する方向へと入試事情の潮流は変化しています。
個人的にはいろいろな意味でクエスチョンマークだらけですが、中学・高校でも英語の授業は英語で、とか、小学校の英語が評価対象の教科化されるなど、世の中「英語だ英語だ」と雪崩を打って動きはじめています。そしてその英語の雪崩が「使える(英語)」という括弧付きなのです。
つい先日お亡くなりになった渡部昇一先生の故・平泉渉議員との『英語教育大論争』における論調によれば、学校英語は「知的格闘力」を身につけるためのものらしく、そもそも「使える」ことを目標に作られてはいないそうです。それがどうやら、日本の英語教育は100年の眠りから覚めて、使える英語を目指す方向へと、我々下々の知らぬ間に変貌を遂げたようなのです。
この舵切りが、良いか悪いかは分かりません。しかし、理想と現実の間のギャップがあまりにも広すぎるのが心配です。いまだ広く万民に応用できる「使える英語力涵養」の方法論が確立していない中、「とりあえず英語で授業をする」といった程度のメソドロジーしか見えてきません。しかし、好むと好まざるとに関わらず、皆さんのお子様たちは、今後この流れに飲み込まれていくことになるのです。
| 備えあれば憂い無し
さて、パルキッズで学習中の子どもたちは、基本的にリスニングの能力に関して心配する必要はありませんし、オンラインレッスンには読解のプログラムも組み込まれているので、リーディングに関してもご心配には及びません。小学生のうちに自分なりの目標(平均的には英検準2級ですが、3級という子もいるでしょうし、準1級まで届く子もいるでしょう)を達成できるよう、淡々と学習を進めましょう。
しかし、二技能(聞く・読む)においては問題ないパルキッズ生たちですが、残りの二技能(書く・話す)については少々トレーニングが必要となります。では、最初の二技能と残りの二技能について少し考えてみましょう。
最初の二技能、つまり「リスニング」と「リーディング」ですが、これらに共通するのは入力系という点でしょう。つまり聞いたり読んだりして「理解する能力」である点です。一方残りの二技能はというと、「ライティング」と「スピーキング」です。これらに共通するのは出力系である点です。
パルキッズ生は、聞いたり読んだりして英語を理解できるように育ちます。もちろん、これが通常の日本における英語教育では獲得困難な技能であることは言うまでもありません。大半の日本人は、大学まで行っても英語を聞いて理解することができないばかりか、読んでも理解できないのですから、それが幼児期のうちに達成できてしまうのは計り知れないメリットです。
今までの日本における英語教育の流れに対応するのであれば、パルキッズによる学習だけで、つまり「リスニング」と「リーディング」の二技能の獲得だけで済んだわけです。もちろん、多くのパルキッズ卒業生たちが二技能に留まることなく、四技能まで身につけてしまっていることは想像に難くありません。そして、今後はすべての学生に(少なくとも大学まで行くならば)、残りの二技能を含めた四技能の習得が必要となってくるわけです。
さて、その「ライティング」と「スピーキング」の二技能ですが、これをどのように身につけるのかが問題となります。つまり、いかに話し、いかに書くのか、その技術をどのように身につけるのかを、理解し実践する必要があります。
少し脇道にそれますが、どうやら、日本においては「英語を身につける」ことを「英語を話せる」ことと等価視する傾向が強いようです。テレビや雑誌、ネット上の英語教育業界の広告を見れば、「話せる」と「世界が広がる」とか「ステキな自分になれる」という論調が少なからず見かけられますが、それでは「話す」というのはどういうことなのでしょうか。そもそもおなじ出力系でありながら、「話す」ことと「書く」ことは何が違うのでしょうか。
この点に関しては、『パルキッズ通信2017年3月号』の「英検ライティングテスト対策」ですでに触れているので深入りはしませんが、話したり書いたりする前に、まず「思考」が行われる点を忘れてはいけません。つまり、まず出力する内容を整理する「思考」があり、その思考内容を英文で出力するわけです。そして、その出力の系統が、ヒトの構音器官を通じて音声化する(話す)か、紙と鉛筆もしくはキーボードに向かって記号化する(書く)か、この点が異なるのです。
| 話すことと書くこと
言語は、当然のことながら、音声(もちろん手話を含む音声以外の表現法もありますが)から始まっています。文字ができたのは、人が話すようになってからずっと後のことです。日本でも、5世紀くらいに仏教と共に漢字が伝わってから漸く文字の記録が残るようになるので、数万年に及ぶ言語の歴史の中で、文字での言語運用は数千年の歴史しかありません。
まずは、様々な概念を音声と結びつけられる(例えば、赤い果実を「リンゴ」、口にして食することに「食べる」と音声を付ける)ようになることで、人類は思考することができるようになり、ついでにコミュニケーションも成り立つようになります。そしてその後、音声を通さずに記号(文字)で記録を残したり、コミュニケートしたりするようになるわけです。要は、言語の使われ方においては、まず思考ありきなのです。
このように、我々は母語である日本語をコミュニケーションのツールとしてするのはもちろん、それ以前に「思考のツール」として使用しています。書いたり話したりする前に、まず考えるという作業が行われますが、それが常に頭の中で日本語で行われているのです。
さて、問題はここからです。他方、我々にとって外国語である英語の運用(書いたり話したりすること)はどのように行われるのでしょうか。
我々は日本語(母語)においては、その運用の中核にある「思考」と、その前にある「理解」を日本語で行っています。
ところが、英語の場合には、聞いたり読んだりして入力された英語を、一旦日本語に直し、日本語として「理解」し、その上で日本語で「思考」し、それを英語で出力します。まずは、このような余計な手順が加わっていることに着目しなくてはいけません。つまり、単純に英語の四技能とは言いますが、そこに「英語のままでの理解」「英語での思考」という重要なステップが抜け落ちているのです。
この点に関してですが、英語のまま理解ができないのは、我々一般的な日本人であって、パルキッズの生徒の皆さんの場合には、英語のまま理解していることに留意してください。皆さんのお子様たちは、英語を英語のまま理解しているのです。逆に、日本語はまったく介在していないので、お子様たちからすれば、困難なのは英語の理解ではなく、それを日本語に訳して説明することかもしれません。この点が我々とパルキッズ生の違いです。
さて、このようにパルキッズ生は入力系統の能力として、英語を英語のまま「理解」する力が身についています。では、次に来る「思考」はどうなのでしょうか。こればかりは頭の中を覗いてみることができないので、想像する以外ありません。ちなみに私自身の場合には、英語で思考したり日本語で思考したりと、時と場合によって使用言語が切り替わっています。恐らく、お子様たちもあるときは日本語で、またあるときは英語で思考しているのでしょう。また、英語で会話している最中にも日本語で思考することもありますし、その逆もまたしかりです。ヒトの言語使用とは摩訶不思議な現象なのです。
| 話すこと
さて、英語でも日本語でも、何語でも構いませんが、頭の中で思考した内容を話したり書いたりする段階になると、またいろいろな制限があります。基本的には文法に適った語順で英単語を並べます。もちろん、口にしながら、次に言うべきことを考えることはありますが、一応は文法(学校で習う正式な文法ではなくて、普段口にしているようなカジュアルな文法)に則って、相手に意味が通るように話します。
ライティングの時には口語よりもフォーマルな形が取られますし、口語では問題とされない正しい綴りの知識も必要となります。一方、口語では、綴りは問題とされませんが、発音やアクセントの知識が必要となります。
英語は、日本語と音韻論的に異なる言語ですし、日本語には存在しない音素もたくさん使われています。また、子音の使い方が日本語とは異なり、日本語と似たような母音ですら発音の仕方が異なります(例えば ‘I’ と「愛」、’toy’ と「樋(とい)」)。そのような英語の音韻論的知識は、幼児期の英語習得においては耳からの入力で自然と身につきます。しかし、とは言っても、母語より触れる機会の少ない外国語ですから、少しは勉強しておいた方が、英語らしい発音をするためには役立ちます。
| 英語の発音の特徴
英語の発音にはいくつもの特徴がありますが、まず挙げられるのは、cat の /æ/ や cut の /∧/ のような日本語には存在しない母音が多いことです。同時に /r/, /l/, /f/, /v/, /th/ などいくつかの子音は日本語には存在しません。ただ、これらは学べば良いことなので、それほど問題ではありません。
しかし、重要なポイントでありながら、あまり問題にされないことがあります。それは日本語と英語では「音節の構造」が異なるという点です。英語が子音で終わることのできる閉音節言語である点は、開音節言語である日本語を話す我々にとっては、感覚的にも論理的にも理解しにくいところです。英語が閉音節言語であることの特徴として、語末の子音(尾子音)に母音で始まる語が続く場合には、「再音節化(子音誘引)」という現象が生起する点があります。
聞き慣れない言葉ばかりですが、簡単に言えば、リエゾンとかアンシェヌマンのように「単語同士がくっついてしまう現象」です。具体例を挙げると、lot の [t] は語が単独で発音され、その語で終わる場合には消えてしまいます(舌先が上の歯の付け根の位置に来るだけで、声帯が動かないので聞こえにくい)が、次に母音で始まる語が来ると、たとえば lot of では、消えていた [t] が後続の of とくっついて /lɔtəv/ と発音されるようになります。他にも、get out, speak up, come on, back up などなど、英語では日常的にこのような現象が起こっています。
一方の日本語は、いくつかある「ん」の一部発音では例外的に似た現象(例:天皇[ten ou] → [ten no:] )が起こりますが、基本的にはすべての音節は母音で終わるので、英語のように尾子音がありません。尾子音がないので、次の語の母音とくっつくことで改めて発音されることもありません。このように、日本語話者は英語で日常的に起こりうる再音節化(子音誘引)を経験したことがないのです。
| 違いに気づきにくい日本人の英語発音
英語では、単語がひとつずつ分かち書きされます。しかし、実際に発音される英文では、尾子音と次の母音がいたる所でくっついてしまっていて、どこが単語の切れ目なのかまるで分からない状態になっています。しかし、その点もあまり気づかれることがありません。
また、悪いことに、日本人は英語を開音節化してしまう癖も持っています。たとえば、strike という本来一音節の英単語も、s には u を、t には o を、尾子音の k には u を付けてしまいます。というより自然に付いてしまいます。このように、日本人は英語の音を日本語風に変えつつ、分かち書きされた語をひと単語ずつ分けて読んでいるわけです。
恐らく多くの日本人は、自分の英語の発音に自信がないと思っているはずですが、それでは自分の英語の発音が一体どれだけ本来の英語の発音と異なっているのかという点に関しては、無知であり、ややもすれば無関心なようです。
| 英語の音韻の身につけ方
日本語と英語とは、ヒトが発する言葉であることでは共通しますが、音韻論的には大きく異なります。また、日本語も英語も文字表記されたものが、そのまま音声化されるのではありません(例:ケイタイ→ケータイ/トウキョウ→トーキョーなど)。母語である日本語に関しても、これら表記と発音の差はあまり意識されることはありません。
母語であれば、こうした表記と発音の差は無意識のうちに埋められますが、未知の言語(英語)に関しては、少なくともある程度の自覚がなければ、正しく文字を音声に変換することはできません。
また、逆の視点でこの現象を眺めれば、なぜ日本人が英語の聞き取りが苦手なのかもわかります。つまり、日本人には、英語がどのような音で成立しているのか、そしてそれらが組み合わせによってどんな振る舞いをするのかという知識がないのです。極端な話、英語の音韻に対する知識がまるで欠如しているので、英語が聞き取れないと言っても過言ではないでしょう。しかし、この点に関心が向けられることは滅多になく、単に「会話」の練習をすることで、一足飛びに英語を聞き取ったり、きれいに話したりすることを夢想している、というのが現状ではないでしょうか。
「英語を習うならABCから」などと言われますが、実のところ、英語の音の基礎をなす「アルファベットの正しい発音」を真面目に勉強する機会もないまま、中学から高校・大学、さらに社会人になってからも仕事や資格試験等で英語とのつきあいを続けていくのです。一度どこかで立ち止まって、アルファベットの発音や子音と母音を繋いで発音する練習などをすれば、ずいぶんと聞き取り能力や正しく話す練習になると想像します。
具体的な学習法に関しては、中学生以降は正しい発音を知り、口に出して多読する、昔で言えば『論語』の素読のような方法をおすすめしています。この点に関しては拙著『ローマ字で読むな!』や『英語の絶対音感トレーニング』をご参照ください。
繰り返しになりますが、幼児期にパルキッズで学習している子は、英語音声に関してはそれほど心配する必要はありません。ただ、発声するときには、できる限り正しい発音を心がけた方が良いでしょう。しかし、彼らの発音が正しいかどうかは、日本人である我々が判断すべきではありません。
以前、子どもの発音を徹底的に修正するお母様がいらっしゃいました。そのお母様は、我が子が red を「ゥレッド」と発音するとおっしゃって、「ゥ」を取って「レッド」と発音し直させていたそうですが、それは残念ながら誤った判断でした。r の音は、舌を緊張させるため最初にまるでイヌが唸るような音が出ます。その子は、この音を正しく再現しようとして小さく「ゥ」と言っていたのですが、母親によって r の発音が l の発音になってしまったのです。
お子様が中学生にでもなれば、ご紹介したような書籍を読ませ、仕組みを理解させた上で、発音を練習させれば良いでしょう。いずれにしても、大学受験までまだまだ時間はあります。今は、発音のことは気にせずに、淡々と英語学習を進めましょう。スラスラ読めるようになったら、『パルキッズ通信2017年3月号』でご紹介した方法で、思考並びに記述練習を繰り返しましょう。発音はその次で結構です。
*参考文献
リースエイドリアン/ 西原哲夫
英語の再音節化とL2音韻論における流暢さとの関係について : 閉音節構造と開音節構造の構造と機能の相異から
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船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。