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2017年6月号特集

Vol.231 | 小学校英語。得する人と損する人

小学校の英語導入で大きく変わる中学受験事情

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1706/ ‎
船津洋『小学校英語。得する人と損する人』(株式会社 児童英語研究所、2017年)


| 子どもたちと英語

 近年、子どもたちと英語との関係が、とても速いスピードで変化しています。そんな中で、小学校から英語が教科化されるとか、大学入試改革の一環として英語のテストが外部検定に置き換わるなどといったニュースが頻繁に聞かれます。それらに対して様々な人たちが様々な反応を見せています。なぜだかポジティブな見解が多いようです。例えば、英語が前倒しになることを歓迎する意見や、大学入試における英語がセンター試験の一発勝負から複数回へとチャンスが広がるのは望ましいというような具合です。
 しかし、本当のところはどうなのでしょう。今回は、子どもたちと英語との関係について紐解いてみることにいたします。


| 「横並びでスタート」の時代

特集イメージ2 我々親世代と英語との関わりは単純でした。中学校から横並びで英語学習がスタートするので、それこそ平等にチャンスが与えられていました。稀に小学生のうちから塾などで英語学習を始めるケースもありましたが、あくまでも少数派です。英語に関してはスタートラインは皆同じ。地頭の差や学習習慣という要素を除けば、どの子にも「英語ができる子」になれるチャンスはありました。
 もちろん一部には、早期から英語学習を始めるご家庭もありましたが、中学からの英語を先取りするというよりは、スイミングやピアノ、習字、そろばんといった具合の習い事の一環としての「エーカイワ」が中心でした。しかし、そんなたしなみ的な習い事も、ゆとり教育による学力低下の反動から、中学入試が熱を帯びてくるに伴い、受験と関係のない英語は親御さんの関心事の外に置かれるようになります。中学受験は国語と算数の2教科の時代もありましたが、社会・理科が加わり4教科で学力を測られるようになると、地頭勝負ではどうにもならず、中学入試対策が必要となり、結果として小3あたりから入試対策を迫られるようになりました。もう英語どころではないわけです。
 一方、小学校での英語の取り組みも「総合的学習の時間」内での「外国語」という立場から「英語」へと義務化されていきます。しかし、教科書を見れば分かるように、基礎概念や挨拶などの簡単なやりとり程度で、英語の授業と言うよりは、英語に「親しむ」といった程度の内容でした。
 つまり、本格的な英語学習に関して、中学校から横並びでスタートするという点においては、我々の時代とあまり―少なくとも表面的には―変わらない状態だったのです。


| 英語力は上がった?

特集イメージ3 ところで、ここは意外と見落とされがちなポイントなのですが、子どもたちの英語力は我々の時代と比べて上昇したのでしょうか?小学校における英語学習が義務化されて久しく時が過ぎましたが、小学校の英語導入によって子どもたちの英語力が向上したという話は寡聞にして存じません。もっとも、ALTが週に1回の授業でどれほど知恵を絞って汗を流しても、その程度で英語ができるようになるわけはありません。もちろん、英語に慣れ親しむという点においては効果は期待出できるのでしょう。しかし、人数の多い日本式の授業スタイルでは、積極的な子と、そうでない子には当然差が生まれますし、それらを平等に扱うことをALTに求めるのは酷でしょう。そんなところから、「英語嫌い」を前倒しして作り出してしまう可能性まで危惧されるようになりました。
 また、担任の教師もサポートするようですが、すべての小学校の教師が英語を教える資格を持っているわけではないので、専門外の授業を強いられる先生方も、専門外の先生に英語を教わることになる子どもたちにとっても、少々気の毒な話ではないでしょうか。
 そのような状況とは言え、あくまでも「慣れ親しむ」ことが目的ですので、その点では取り組みの量や質においてはばらつきがあるにせよ、満足させられていたのかもしれません。
 では、続く中学校の英語授業はどうなったのでしょうか。英語の授業コマ数は増え続けていますが、果たして中学生の英語力は向上したのでしょうか。文科省の「英語力調査結果の速報」によれば、中3の夏の時点でCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)のA1上位(英検3級程度)をクリアしている子は、リーディングで25%、リスニングで20%、ライティングで43%、スピーキングで32%と、各目標値の50%を大きく下回っています。もともと、中学校で3年間勉強して英検3級レベルに「半数が届けば良い」という目標設定が正しいのかどうか疑問が残るところですが、少々お粗末な感じがします。ついでながら、「英語教育実施状況調査」 における、教師の英語力に関して言及しておくと、英検準1級相当以上を有している教師の割合は中学校で3割、高校でも6割です。学生は先生を選べませんので、英語ができる先生に当たるかどうか、また、英語の教授が上手な先生に当たるかどうかは運否天賦となるわけです。
 親の世代との英語力の比較は簡単ではありませんが、上の数字だけ見ると、英語教育の小学校への前倒し、授業内容における工夫やコマ数の増加によって、学生たちの英語力が向上しているとは―あくまでも個人的な意見ですが―思えないのです。


| 二極化

特集イメージ4 さて、小学校での英語の導入を始めとした様々な工夫が凝らされた上で、全体的に学生たちの英語力が底上げされたのかどうかは別として、「水面下」で進行している現象について触れておきましょう。
 先に中学受験ブームと共に習い事としての英語から関心が離れていった、と書きましたが、実はすべての親御さんが英語教育に対する関心を失ってしまったわけではありませんでした。「英会話」からは関心が離れたのかもしれませんが、「地に足の付いた英語力を早めに身につけさせよう」という親御さんは、表面化しないものの、その後も随分数を増やしているようです。
 少し前の数字になりますが、今世紀の初めからの10年間で中学生の英検受験者数は激減しました。これは大学全入時代に伴う負の効果の一面でしょう。大学が増えすぎて勉強しなくても大学へ入れるのですから、そんな中で勉強しない子、特に大学受験に最も関係のある英語を勉強しないで済ませてしまう子が増えたのかもしれません。
 しかし、中学生の英検受験者数が減る中、中学生で英検2級以上を受ける子は増加を続け100人に1人となっています。つまり英語ができない子、もしくは英語に関心のない子が増える一方で、ずば抜けて英語ができる子は増えているのです。
 しかし、中学校から英語を開始しても数年で2級を取るのは困難を極めます。100人に1人のそれらの子たちは一体どんな勉強をしているのかと言えば、答えは簡単です。中学生の英検受験者数が減る一方で、小学生の英検受験者数はうなぎ登り。つまり、小学生のうちから英語学習をスタートしているのです。今や、小学校高学年の10人に1人は英検を受ける時代、しかも、その中の十分の一つまり100人に1人は英検3級以上を受けています。小学生のうちに中学レベルは終わらせてしまっているわけです。そして、そんな子たちが中学に入って英検2級以上を受験すると考えるのが妥当でしょう。
 中学生で英検2級を取っていれば、高校の早い段階で準1級は取得できるので、センター試験であれば「見なし満点」のレベルです。残りの高校生活は自分の専門、理系なり文系なりの科目に専念できるわけです。
 世の中の流れが英語から離れていた中、小学生のうちからせっせと英語教育を施されて育った100人に1人の子たちは、英語を早めに終えることにより、大学受験のために英語を勉強する必要から解放されました。これが何を示すのか、結果は重大です。英語を早めに終わらせていない学生たちは、高校3年間のうちかなりの時間と労力を英語の学習に費やすことになります。結果として勉強に時間のかかる数学や理科から離れ、文系へと流れます。しかも、英語に時間が取られれば、全教科バランス良く点数を稼ぐ必要がある国公立大学ではなく、英語・国語・選択科目のみでも受験可能な私立大学へと流れます。英語を早めにやっつけておかないと、国公立大の特に理系学部への進学は、夢のまた夢となるわけです。私立でも文系なら学費も抑えられますが、理系となるととんでもない出費(海外に比べれば安い方ですが)を迫られることになります。このあたりに関しては、パルキッズ通信2013年1月号『「稼げる子」に育てるために』をご参照ください。


| 学校任せで大丈夫?

特集イメージ5 さて、本誌をお読みの保護者の皆さまにおかれましては、お子様の教育に関心の深いことは当然のことなので、お子様の大学進学も当たり前のこととお考えだと勝手にお察しします。そこで、単純な疑問ですが、英語のできる子とできない子の差がますます広がる中、小学校での英語の教科化や中学校での英語のコマ数増によって、子どもたちは、大学入試を勝ち抜けるだけの英語力を身につけることができるのでしょうか?
 小学校での英語の授業は、当然のことながら教員の確保が難しく、小学校の教員免許を持っていなくても一定の資格持っていればできるようなっています。これは結構なことなのですが、問題はその内容でしょう。中学英語の内容の先取りをしてしまうと、中学の英語教師が困りますので、中学校の授業内容とのスムーズな連携が求められます。そんな現状からいろいろな工夫が為されているようではあります。
 本来ならば中学との連携は至って簡単だと思います。例えば、中学校で教えられることのない「英語の音韻知識」を小学生のうちにしっかりと身につけさせれば、中学生になってからのリスニング・スピーキングに果てしなく貢献できるでしょう。しかし、保守的な現場でもあり、指導者の能力不足も合わせ考えれば、なかなかそこまでは踏み切れないようです。小学校で教科化されようとも、中学でのコマ数が増えようとも、従来の内容から大きく踏み出したカリキュラムにはならないと想像します。
 小学校での授業数は、3・4年生では年間15コマなので2~3週に1回、5・6 年生は年間50コマなので週に1~2回の授業となるようです。現状よりは手厚くなりますが、それでも「これで英語は安心!」といった力までは得られないでしょう。
 思い出してください。小学生の10人に1人はすでに英検を受けている現状があります。小学生のうちの100人に1人は英検3級以上を受験する現状があります。果たして、週に1度程度の英語との「ふれあい」で英検受験にこぎ着けることができるのでしょうか?小学校からの英語が本格化するにせよしないにせよ、「英語力の格差」は小学生の段階で、すでに埋めることができないほどの二極化を見せているのです。
 これは中学校での英語の授業コマ数の増加に関しても、同じ事が言えるでしょう。今の中高生は、親の世代に比べて倍するほどの時間を英語に割いています。それでも、英語の習得度はすでに述べた様子です。「英語、英語」と、時間と人材、お金をつぎ込みながら、期待する程の成果はいまだ見えていません。さらにコマ数を増やせばそれで英語ができるようになるとは思えないのです。
 また、その方法にしても、従来の文法教育と翻訳式の変則的な教授法から、英語で英語を教えるという正則法へと変わりつつあります。しかし、授業自体を英語で行うように変えることによって、また文語から口語へとシフトすることによって、使える英語が身につくようになるのかには疑問が残ります。英語はもともと言文一致の傾向が強いので、学習する内容的には、くだけた口語よりもフォーマルな文語の方が好ましいと私などは思ってしまいます。


| 小学校で英語が始まることの「隠れた現実」

特集イメージ6 小学校で英語が始まることは、すでに決まったことなので、我々下々はお上の方針に従う以外ありません。しかし、英語学習の開始が前倒しされても、大学受験に耐えうるほどの英語力が担保されるとは言いがたい現状があります。そのような安心できない現状の一方、英語が前倒しになることで、ひとつの大きな変化が起こることを想定しておかなくてはいけません。
 大変ちぐはぐなことなのですが、すでにある現象が起きています。英語とは関係ないはずの「中学受験」に、英語の影がちらつき始めているのです。まだ受験科目に英語を課すとは行かないまでも、英検などの英語の検定資格を持っていることが中学受験に有利に働きます。例えば、試験で合格を逃しても、検定資格を持っていることによって、学校側から「うちに来ませんか」とのお誘いがかかることもあるのです。
 これは考えてみれば当然のことです。なぜなら、中高一貫校の究極の目的は、少しでも良い大学へ学生たちを送り出すことです。小学生のうちから英検3級や準2級を持っている子は、英語力を活かして難関校へ進学することも可能ですから、学校側としては、喉から手が出るほどそのような子たちが欲しいのでしょう。
 いわば水面下では、英語力を持った子がすでに優遇されているのです。さらに、小学校での英語が教科化されれば、英語力を持った子が欲しい中高一貫校にとっては、限りない福音をもたらします。入学試験で英語力を問うことが、大手を振ってできるようになるのです。つまり、英語力を持った子の「青田刈り」の時代が始まるわけです。
 また、中高一貫校にとってはさらに有り難いことに、文科省は大学入試センター試験の英語を外部検定へ丸投げする方向で調整に入っています。すでに早慶MARCH(明治・青学・立教・中央・法政)などの私立の大学では英検準1級以上、または TEAP(ティープ)などを英語選抜の代用としています。一貫校側にすれば、英語ができるように育てる手間が省けるのですから、初めから英語のできる子を受け入れ、その子たちには早めに英検準1級を取らせてしまい、私立難関大学を滑り止めとして確保させ、旧帝大クラスの受験に専念させることができるのです。
 つまり、小学校での英語の教科化は、中高一貫校にとっては、入学後の学生の英語習得度に影響されることなく、安心して大学進学指導ができる環境を提供することに繋がります。これは学生の側から見れば、早い段階で(つまり小学生のうちに)どのような英語力を身につけているかが、中高一貫校への進学、ひいては難関大学への進学の可否に、これまで以上に大きく影響する現実と今後直面することを意味します。

 さて、今回は今まさに変わりつつある子どもたちと英語との関係について書いて参りました。結論を言えば、すでに英語ができることで、進学・就職に限りないメリットがもたらされるのですが、今後はこの傾向がさらに強まることになるということです。現状でも中学入学の段階で二極化している英語力は、今後はさらに、小学生の高学年まで前倒しされることになるのです。そして、当の英語力の育成に関しては、学力下位の学生に関わる部分は、文科省が学校教育を通して行う一方、学力上位学生の育成は、言ってしまえば、家庭に丸投げされることになりそうです。
 パルキッズで学習中のご家庭におかれましては、そのあたりも念頭に、日々の取り組みに励んで頂けるよう切に願っております。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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