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2020年2月号特集

Vol.263 | 英語の「心」を創る

フェイク・フォノロジーからの卒業

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2002/
船津洋『英語の「心」を創る』(株式会社 児童英語研究所、2020年)


Don’t think! FEEL. ならぬ、Don’t read! SENSE.

特集イメージ1 今月号は英文を「読む」ことがテーマです。英語の発音のコツも伝授しますので、是非最後までお読みください。成人日本人が日本語を読むスピードは、「かな」にしておおよそ1秒間に7~10文字です。漢字は一文字で複数の音を表せるので、漢字かな交じり表記では、文字数の3割増しくらいの「音」の情報が入っています。100文字の日本語の表記にはざっと130程の音が含まれていることになります。本稿がだいたい9000文字ですので、平均的な日本人なら19分〜22分程で読み上げることができます。(もっとも、そのスピードで完全に内容を理解できるかどうかは人によります。)

 ということで、毎月20分ものお時間を割いていただき大変恐縮です。

 このように、日本語はササッと読める日本人ですが、これがひとたび英語となると、なかなかにそんな猛スピードで読むことはできません。成人のネイティブ英語話者なら1秒間に4~5語のペースで英文を読むことができます(『アメリカ最先端の英語習得法』参照)が、日本人が英文を読むとその半分以下のスピードに落ちます。
 文字を読むとき、私たちは一文字ずつ読んでいるわけではありません。日本語なら5文字、あるいはそれ以上の塊で次々に読み進めていきます。文字一つずつを読むのではなく複数のかなや漢字の塊を、串に刺さったダンゴのように知覚しているのです。それどころか、次にどんなダンゴが現れるのか予測までしながら読み進めているのですから、ヒトの能力には驚きです。
 私たちはこのスーパーパワーによって、自然と口にされるような、あるいはそれ以上のスピードで日本語を読むことができるのです。もちろん、文字を読むことと理解することは密接に関わり合っていますが、ひとまずここでは「理解する能力」は「読む能力」から切り離して考えることにします。
 この段階、つまり純粋に「文字を音声に変換する」部分を切り取って、専門的には「音韻符号化」などと呼んだりしますが、ここでは「読解力」から「解」の字をはずして「読力」と呼ぶことにします。

 日本語においてはこのような能力を発揮する私たちですが、これが英語となるとどうでしょう。すでに述べたように、ネイティブの英語話者の半分以下のスピードに落ちてしまいます。これが日本人の英語の処理の有り様に大きな影を落としているのです。


読もうとしなくても目に入った瞬間に分かってしまう

特集イメージ2 街に出ると、どこもかしこも看板だらけです。もちろん、ロゴマークのようなものもありますが、ほとんどの看板には文字が書かれています。文字は漢字かな交じり、あるいはローマ字を含めた日本語の表記だったり、あるいは英語で表記されていたりします。
 さて、自然と目に入ってくるそれらの看板ですが、皆さんはそこに記されている文字から、どのように情報を取っていますか?看板の文字を読むともなく、パッと目にしただけで、何が書かれているのか、少なくとも店名や店の種類などは知覚できているのではないでしょうか。

 それもそのはず。ヒトはものすごいスピードで視覚情報を処理しているのです。

 私たち一人一人は頭の中に「レキシコン」と呼ばれる辞書を持っていて、目に入った文字や、耳に入った音声をその辞書から検索して意味を取り出します。
 この「レキシコン」へのアクセス・スピードについて調べる、「プライミング」という心理実験があります。プライミングの実験では、まず0.03秒とか0.05秒の素早さでプライムと呼ばれる情報を、それこそ目にもとまらぬ早さで見せ、その後に現れるターゲットと呼ばれる情報へのアクセス時間に、いかにプライムが影響しているのかを調べます。
 例えば「患者」というターゲットなら、その意味にアクセスするのにかかる時間に、他の情報、例えば「病院」や「学校」というプライムが、どのように影響するのかを観察するわけです。
 すると、プライムとして「学校」という無関連の情報ではなく「病院」という関連した情報を与えた方が、「患者」という語の意味(ターゲット)にアクセスするスピードが速いのです。
 このことから、それらのプライムはほんの一瞬しか目に入っていないのですが、しっかりと知覚されていることが分かります。「サブリミナル」というとピンと来る方もいらっしゃるかも知れません。

 さて、目から入った情報を、瞬時に知覚できる能力を持っている私たちですが、これは残念ながら日本語に限定されます。英語が目に入っても「あ、英語だな」と感じることはあっても、内容にはほとんどアクセスされることなく、無視されてしまうことすら少なくありません。「心ここに在らざれば…」の状態です。つまり、英語に関しては、残念ながら我々は「心」を持っていないのです。そして、それは、偏に英語の「読力」が欠けているからに他なりません。

 ということで、前置きが長くなりましたが、今回は英語の「読力」について、その育て方を含めて考えていくことにします。
 ちなみに「そんなの私には関係ない」とお感じの方もいらっしゃるかも知れませんが、少なくともお子さんの今後の英語力には決定的に関わってくる問題です。「読力」が身につかない限り、それは英語の習得、特にまともな英語話者として認められる「学習言語」として英語を習得しているとは言えないのです。せっかく『パルキッズ』でバイリンガルになっても、そのメリットをフル活用するためには「読力」が欠かせないのです。
 また、ご自身に関しても、この「読力」は劇的な英語の知覚力の向上をもたらします。何しろ、今まで目に入っても見えなかったものが見えるようになるのですから、ある意味「悟り」あるいは「開眼」と言っても言いすぎではありません。
 さて、それでは、次に「読力」とはどんなメカニズムなのか、さらにはその育て方、英語を「音声化」する際の注意点などを述べていくことにします。これを読むだけで、英語の発音が良くなること請け合いです。


静的な「文字記号」を活き活きとした「音声情報」に変換する

特集イメージ3 「はじめにことばありき」。どうやらこれは神の御言葉を指し、言語の存在自体を指してはいないようですが、人間を人間たらしめるその本質は「ことば」にあることは間違いありません。ことばの起源に関しては諸説ありますが、ざっと10万年、あるいは6万年ほど前に突然変異でことばの使用が可能になったと考える言語学者は少なくありません。
 さて、その「ことば」です。現代に生きる我々からすれば、「ことば」は音声であり、文字でもあり、おそらく情報の大半は音声ではなく文字から取得していると思われます。現に今、読者の皆様はそのように情報を取っているわけです。

 しかし、「ことば」の本質は、文字ではなく音声にあります。数万年にわたる音声言語の使用の歴史に比べて、文字の歴史は浅く、5000年とか3000年前といった比較的最近になって始まったことです。まず「ことば(音声)ありき」だったのです。

 先ほどの「プライミング」の例でも、無意識のうちに私たちは「ことば」の影響を受けています。また、科学的な実験で証明されるまでもなく、「言霊」などといわれるように、「ことば」に不思議な力が宿っていることを、人々は昔から感じていました。呪術や催眠、洗脳などの怪しげな効果ばかりではありません。身近な例では育児においても、周囲から投げかけられる「ことば」の通りに、子どもたちが育っていくのを感じる方も少なくないでしょう。
 繰り返しますが、このように「ことば」の本質は音声であって、文字は副次的な体系に過ぎません。しかし、現代を生きる我々やその子どもたちにとって、重要なのは「如何に多くの情報を知覚出来るか」という点であり、その点で最も有用なのが物理的制約をうけない「文字情報」なのです。
 そして、その「(記録媒体としての)文字情報」と「(活き活きとした)音声情報」とのかけはしが「読力」なのです。


フォニックスとサイトワーズ

特集イメージ4 さて、その「読力」ですが、育て方には2通りあります。ひとつ目は絵本の暗唱を通して自然な獲得を目指す方法で、もうひとつは「文字」と「音」の変換方法を教えるやり方です。
 絵本の暗唱を通しての「読力」の獲得が最も自然で好ましいのですが、これは幼児期に限定される方法なので、それ以降の子どもたち、あるいは大人も含めて後者による獲得方法が一般的に行われています。(絵本の暗唱による英語の「読力」の育て方に関しては『子どもの英語「超効率」勉強法』p.203〜参照)

 英語の場合、文字と音を関連づけて学ぶ方法の代表格は、フォニックスと呼ばれる体系の活用です。さらに、ライミングやサイトワードのアプローチもありますが、これらは後述します。
 まず、フォニックスとは、アルファベットの文字と音の対応規則を学ぶ方法です。アルファベットのそれぞれの「文字 (’abc…’)」には「名前 (/ei/, /bi/, /si/…)」と「音 (/æ/, /b/, /k/…)」が割り振られています。こんなことはしたくありませんが、無理矢理カナで書くと、名前が「エイ、ビー、スィー(シーではない)」、音が「ア、ブ、ク(’b, c’は子音のみ)」です。
 子音は文字に使用されるときには、主に「音」が使われる一方、母音は「名前」と「音」の両方が使われます。「’cap’ /kæp/」、「’cut’ /kʌt/」、「’I’ /ai/」といった具合です。このように文字と音の対応で読む練習をするのがフォニックスです。
 ただ、それだけでは ‘cape’ は /kæpe/ になってしまうので、直前の子音に母音が先行する場合の ‘e’ は読まない、などといった規則があります。さらに ‘book, bee, sea, father, coat’ などなど、読めない母音がたくさんありますので、それら母音のルールも教えます。

 また、英語は日本語と異なり、’consonant cluster「子音連結」’ といって母音を挟まずに子音をいくつか並べることができます。これは閉音節と呼ばれます。逆に日本語は開音節で、撥音「ん」や促音「っ(実際には無音のポーズ)」を除いて子音だけでは音節が成立せず、必ず母音で終わる規則に縛られています。ただ、子音を繋げられるといっても、自由に繋げられるわけではありません。語頭の ‘st’ のあとには ‘r’ のみ許されるなどパターンには制限があります。  これらの子音の塊を、頭韻 ‘start, stand, strike, strange…’ や脚韻 ‘old, sold, cold, bold…’ ‘and, sand, stand, strand…’ を用いて教える方法が、先のライミングを使った教授法です。

 ところが、このフォニックスやライミングも万能ではありません。「例外」が多すぎるのです。

 例えば、’the, to, my, who, friend, tomb…’ など、フォニックスの規則では読めない語がたくさんあります。そこで、サイトワードという考え方が登場します。
 サイトワードとは「頻繁に現れる語で、子どもたちが1つの塊として直感的に認知できるようになるべき語」のことです。
 すでに「人間の認知力はすごい」ので、文字を読むのではなく「ダンゴの連続として知覚」できることは書きましたが、本来備わっているそんな優れた知覚力を発揮させる、あるいは自然と発揮して文字を音声化する能力です。
 これはフラッシュカードなどで、インプットすることもできますし、特に指導しなくても、大量の英文に触れているうちに、自然と獲得される能力でもあります。

 付け加えるまでもありませんが、学校では「暗唱」も「フォニックス」も「ライミング」も「サイトワード」も特に教えません。読めるようになることの成否は学習者の我武者羅な努力に委ねられているのが現状です。
 それは別として、このように、文字記号を音声情報に変換する手段はいくつかありますが、「では、フォニックスとサイトワードをやれば良いのね!」というほどシンプルな話ではありません。
 「文字→音声」と単純化して話を進めて参りましたが、実はこの「音声」は「心の中の音声」であって「実際に口にしたり耳にしたりする音声」ではないのです。
 さぁ、困りました。この辺で「ああ、また例の面倒な話か」と投げ出さないで、もう少しだけお付き合いください。この部分を”テキトー”に処理してしまうために、日本人は英語を話せないし聞き取れないのです。


心の声と実際の音

特集イメージ5 文字を音声に変換する作業(音韻符号化すること)を、その様子をよく表していることから便宜的に「読力」と呼びましたが、これはまだ、「心の中の音」に変換できたに過ぎません。言語学ではこの「心の中の音」を「音韻」と呼び、「実際の音」を「音声」と呼んで区別しています。
 「そんなのどうでもよいではないか」という声が聞こえてきそうですが、なかなかそうはいかないのです。実は、私たちが日常的に耳にしているのは、物理的な空気振動を経て入ってくる「音声」の方であってそれを、心が「音韻」に直して知覚しているのです。
 日本語の場合には、「音声」から「音韻」へ、また「音韻」から「音声」へと自動変換されるのですが、英語の場合には、特に実際の音である「音声」から、心の中の語である「音韻」への変換(専門的には「音韻規則」と呼ばれます)ができないのです。つまり、音声を語として知覚できないのです。これは、以下のようなことによります。まずは日本語において、いかに「音韻」と「音声」が異なるのか見て参ります。


「ばあば」と「じいじ」

特集イメージ6 専門的には異音とか自由変異などと呼びますが、心の中で思い浮かべている音と、実際の音声は随分と違います。
 身近な例ですと「サ行」の「シ」や「タ行」の「チ・ツ」が挙げられます。サ行は ‘s’ + ‘a, i, u, e, o’ の組み合わせですが、’s’ にイ段の ‘i’ が付いたときだけ /si/ の音は /ʃi/ に変異します。/ʃi/ は音声的には「サ行」ではなく「シャ行(シャ・シ・シュ・シェ・ショ)」の音ですね。同様に /ti/ は「チャ行の」 /tʃí/ に /tu/ は「ツァ行」の /tsu/ に変異します。また、「ハ行」の「ヒ・フ」も「ヒャ行」や「ファ行」の /ci/, /ɸu/ となります。イ段は「イ」の音に引っ張られて舌が口蓋の方へ持ち上がってしまう(「口蓋化」する)のです。(ウ段に関してはローマ字やローマ字教育のあり方論にまで話が及んでしまうので省略)
 これらの変換ルールは、専門家でもなければ気づかないことですし、知らなくても日常的に支障はありません。これらの変換(音韻規則)は意識することなく、自動的に適用されるので、子どもたちは特に教えられることもなく、自然と身につけます。ただ、日本語を学ぶ外国人には厄介者のようです。
 これらは異音と呼ばれ、特定の環境の時に自動的に現れる音です。異音とは「意味を変える単位」ではないので、「寿司」のことを /susi(ススィ)/ といっても意味は通じますし「アツシ君」を /atusi-kun(アトゥスィクン)/ と発音する人がいたとしても「少し変わった発音だなぁ」とは感じるかも知れませんが、それで意味が変わってしまうことはありません。

 これに似た現象で、自由変異という存在もあります。
 「ばあさん」と言うときと「おばあさん」と言うときでは、「ば」の音が違います。これも、普段気づけないとは思いますが、「おばあさん」の「ば」は弱化(lenition)しているのです。呼び捨てで「ばあさん」の時には完全に唇を閉じた段階から「ば (/b/)」と破裂させますが、丁寧に「おばあさん」のというケースでは唇が完全に閉じない状態(/β/)で発音されます。
 同様に「じいじ」も最初の「じ」は /dji/ と破裂していて、2番目の「じ」は /ji/ となり破裂していません。2番目の「じ」は「ザ行」に属し、最初の「じ」は本当なら「ぢ」で「ダ行」に属する音ですが、今では区別がありません。語頭の「じ」もゆっくり発音すれば「ぢ」になりますが、どちらで発音しても意味は変わりません。

 また、これも普段気づきませんが、関東方言では子音に挟まれる母音は無声化します。試しに、のど仏に軽く指を当てて「きくちかん」と言ってみると /kikutʃíkaN/ ではなく /kktʃkaN/ と、「か」に至るまでは声帯が動いていないことが分かります。

 このように心の中の「音韻」は無意識の変換を経て実際の「音声」となって空気を振動させているのです。つまり、我々が聞き取っている日本語は、この「音声」の方なのです。


‘water’ はなぜ「ワラ」なのか

特集イメージ7 英語も同様に「音韻」と「音声」では異なります。それが日本語の変換規則とまったく違うので、英語の「音声」を「音韻」として知覚できないのです。有名な例では、 ‘water’ を「ワラ」と発音するとよく通じる、というのがあります。
 英語の変換規則で「母音に挟まれた /t/ は /ʈ/ に変異」します。付け加えると、これは主に米語に見られる現象です。この /t/ の下にヒゲが付いたような /ʈ/ は「そり舌」と呼ばれます。 /t/ は舌先を歯茎(歯と硬口蓋に挟まれたエリア: ググると断面図を検索できます)につけ、閉鎖を作ってから破裂させますが、「そり舌」音はその歯茎の歯から離れた部分をポンと1回叩く音です。「ラ行」を順に発声すると舌が歯茎を軽く叩いているのが分かると思いますが、ほぼその音と思って間違いありません。
 さらに母音に挟まれていると、声帯の振動が止まらないまま発音されるので、有声音(例えば「ダ」とか「ラ」)に聞こえます。

 なぜこんなことが起こるのかと言えば、理由は単純明快で、「面倒だから」の一言に尽きます。
 つまり、/wa/ と口を開け、舌の位置を下げて声帯を振動させてから、舌先を歯と歯茎の間まで持ちあげて声帯の振動を留めて/t/を発音してから、さらに声帯を振動させるのが「面倒」なのです。そこで、①舌を /t/ の位置まで持ちあげない②有声音(声帯振動)を保つために閉鎖を作らずポンと叩くだけにする、と手抜きをしているわけです。
 お気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、日本語では母音が無声化するのに対して、英語では声帯振動を止めないためにラクをするあたり興味深いと思います。

 これはほんの一例です。複数形の /s/ はそれがくっつく直前の音環境によって /z/ や /iz/ に、また過去形の /d/ も無声音のあとでは /t/、’t, d’ のあとでは /id/ となります。(これもライマンの法則などに関わりますが、煩雑なので省略)

 さらに英語の場合に面倒なのは、その音節構造が日本語と異なる点です。すでに述べたように日本語は開音節で、母音や子音+母音が音節(「モーラ」ともいう)を構成します。しかし、英語は閉音節なので、子音が母音を挟まずにくっつき合うことができます。
 そして、語末の子音が次にやってくる語頭の母音とくっついてしまって(「子音誘引」)別の音節を作ってしまうことが、極めて頻繁に起こるのです。例えば、’Once upon a time’ は /wansaponataim/ という音となって実現します。英文で書かれているときには、語が分かち書きされているので一目瞭然です。ところが、発声されるとその境界が消えてしまうのです。

 以上は米語のケースを中心に見て参りましたが、英語(イギリス英語)ではまたまた異なる変換ルールがあります。幾つか例を挙げてみましょう。

 teacher → /titʃər/(米語) → /ti:tʃə/(英語)。/r/を発音しない(「米語では発音する」とも言う)。
 bird → /bɜrd/(米語) → /bɜ:d/(英語)。こちらでも/r/が発音されない。
 can’t → /kænt/(米語)→ /ka:nt/(英語)。母音が入れ替わり長音になる。

 ほんの一例ですが、英米だけでもこれだけ違います。余談ですが、そんなことから『パルキッズ』では混乱を避けるため、比較的スペルに忠実な発音をする米語を中心に学習を進めるように作られています。


日本語の規則を無意識のうちに英語に当てはめてしまう

特集イメージ8 さあ、お待たせいたしました。ここまでの知識があれば準備万端です。いよいよ本題に入ります。
 繰り返しますが、日本人が英語を聞き取れない理由の1つに、英語の変換規則を知らない点が挙げられます。そのため、「読力」を発揮して変換した心の中の英語の「音韻」と、耳に入ってくる実際の英語の「音声」との連携ができていないのです。これではいくら耳に入ってきても、聞き取れるわけがありません。
 さらなる問題は、英語の音声を聞き取るのに、日本語の音韻知識を使用したり当てはめたりすることなのです。
 思い出してください。「はじめにことばありき」「ことば」は「言霊」です。機械のような棒読みや、でたらめ読みではなく、本来の英語のあり方に沿って発音しなければ、それは「ことば」をフルに使いこなしていることにはならないのです。

 日本人の英語の聞き取りや、発声の問題に関して、原因はいくつもありますが、その中で特に多き難題を孕んでいるのは、①「開音節」で聞き取ろうとすること、②音挿入、③拗音や促音に当てはめる、④撥音の適当さを適用する、さらに当然のこととして⑤日本語には無い音や似た音の識別の課題、などが上げられます。
 簡単に例示しながら説明します。

 ①閉音節→開音節でリスニング

 英語の子音のくっつき現象を例に取ると、英語話者の心の中の ‘Once upon a time’ は発声されると /wansaponataim/ となります。この音声振動が空気を伝わって日本人の耳に入ると「かな」の知識による聞き取りが自動的に始まります。つまり、開音節 /wan sa pon na taim(ワン・サ・ポン・ナ・タイ)/ と聞こえてしまうのです。この中で正しく聞き取れたのは ‘time’ だけです。しかも、語末の閉鎖音は破裂を伴わないことが多いので、子音で終わる習慣のない日本語の環境で生活している我々には ‘taim’ すら /tai/ に聞こえてしまうのです。

 ②音挿入

 日本人の英語の聞き取りに関すると、音挿入とは、母音を添加してしまうことを指します。日本語は子音の連続を許さず、必ず母音が必要となります。これは心の中での音韻に関してで、現実的には先に示したように弱化によって、母音の有声性が失われることもあります。ただ、音と意味のつながりという意味で重要なのは、実際の音声ではなく、心の中の音韻です。その音韻の知覚の段階で英語の子音に母音が付け加えられるのです。
 すると、’strike’ という1音節の英単語は、 /su to ra i ku/ (ス・ト・ラ・イ・ク)と5音節の日本語のカナに置き換わるわけです。もちろん、これは文字記号を音韻に変換する際、つまり発音の作業にも影響します。これがいわゆる “Japanese English” になるわけです。

 ③拗音や促音の知識に当てはめる

 英語には拗音は促音はありません。日本人は「猫」のことを英語で「キャット」といいますが、当然のことながら英語の ‘cat’ は /kæt/ であっても /kyaQto(/Q/は促音記号)/ではありません。
 ここには2つの問題があります。まず、/kæ/ を /kya/ と思ってしまう、つまり拗音に置き換えてしまっている点です。さらに /æ/ と /t/ の間には音は存在しないのですが、ここに /Q/ の声門閉鎖を伴うモーラを付け加えてしまう点です。もう少し具体的にいえば、声門閉鎖とは声帯をピタッと閉じることを示し、促音を加えることによって1音節の/kæt/を「キャ・ッ・ト」と三拍で感じることです。

 ④撥音の適当さ

 これに関しては、すでにいろいろなところで書いているのでここでは省略します。(『子どもの英語「超効率」勉強法』p.239~参照)

 ⑤日本語にない音や似た音の処理

 これに関しても「パルキッズ通信2018年8月号」で述べているのでここでは省略します。


語認識

特集イメージ9 さて、長々と書いて参りましたが、目標とする地点とそこへの到達方法を簡単に示しておくことにします。
 「タイポグリセミア」という用語をご存じの方もいらっしゃるかと思います。タイプミスの「タイポ」と「ハイポグリセミア」の混成語で、日本語の場合には、単語の最初と最後の文字をそのままにしておけば中間の文字をかき混ぜても、あるいは英語の場合には語頭と語末の文字(列)をそのままにしておけば中間をかき混ぜても読めてしまう現象のことです。(例:こちにんは→こんにちは)
 これから分かることは、ヒトは読解に習熟してくると文字を読むのではなく、いくつかの文字をそれを構成する要素の塊として読むことができるということです。
 日本語でも英語でも、検索するとたくさん出てくるので、是非読んでみてください。

 おそらく、日本語は語内の文字にかき混ぜが起きている文でもスラスラ読めるはずです。問題は英文をどこまでスラスラ読めるかなのです。外国人の日本語初学者は、このような文をスラスラ読めません。なぜなら、文字単位、単語単位でゆっくりゆっくり読んでいるからです。
 逆に言えば、私たちがかき混ぜてある英文をスラスラ読めるようになれば、それは、英語の「読力」が付いてきたとも言えるのです。なぜなら、そこにあるものは語ではないのに、その要素だけで特定の語であると判断できるほどの「語認識」力が身についていることに他ならないからです。


最後に

特集イメージ9 さて、長々とお付き合い頂きありがとうございました。
 今回は、文字から「日本語」の音韻(心の中の音)へ、そこから音声(実際の音)へとどのような経路でことばが発させるかを見て参りました。また、その逆のルートの英語版、つまり「英語」の音声を音韻に正しく置き換えるルートにあたって、私たちが犯している過ちも指摘しました。
 そして、英語も日本語と同様にスラスラ読めるようになるためには、アルファベットを読むのではなく塊で次から次へと知覚していけるほどの「読力」が必要であることもお分かりいただけたと思います。

 『パルキッズ』で育つ子たちは、英語の音韻ルールを知っているので、上記の①~⑤で示した課題を気にする必要は、ほとんどありません。彼らがすべきことは、ひたすら「素読」することです。素読とは「読力」育成の王道で、「理解」の部分を外して、ひたすら「音韻符号化(音から文字へ、文字から音への変換)」を行うことです。
 それによって、読力が身につけば、音声言語よりも情報量の豊富な文字言語へのアクセスが可能となるのです。この能力を身につけさせてやることが、お子さまたちの未来にどれほど多き福音をもたらすかは、将来のお楽しみにとっておくと良いのかも知れません。
 最後の最後になりますが、「素読」に関しても『子どもの英語「超効率」勉強法』にその方法を記してあります。また、素読に限らず、英検準1級を当面の目標に据えた英語教育のあるべき姿もまとめてありますので、是非そちらも併せてご一読いただけるようお願いいたします。

【編集後記】

今回の記事をご覧になった方におすすめの記事をご紹介いたします。ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。
英語が出来ないただひとつの理由
フォニックスと単語と文法でいいじゃない?
素読で育つ「英語の読解力」


【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)

特集イメージ9 児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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