パルキッズ通信 特集 | 地頭, 子供の成長, 子育て論, 早期教育, 男の子
2022年7月号特集
Vol.292 | 男の子の子育てが楽しくなる方法
「できそこないの男たち」との楽しい付き合い方
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2207/
船津洋『男の子の子育てが楽しくなる方法』(株式会社 児童英語研究所、2022年)
「地頭力講座」第2期生募集について
7月末より第2期生の募集を開始予定です。開始につきましてはメルマガ・地頭力講座特設ページにて改めてご案内させていただきます。
男子育児中の皆様、ご苦労様です
男の子は弱い。男の子は幼い。男の子は単純。男の子はこだわりが強い。男の子は何を考えているのか分からない。
男の子を持つ母親なら、この中のひとつ、あるいはいくつか、または全部を、一度は、いやいや、毎日でも感じていらっしゃるかも知れません。そこから冒頭の「ご苦労様」と相成るわけです。
唐突で恐縮ですが、我が家では妊娠にあたり性別を敢えて聞くことはしませんでした。信念があるわけではありませんが、何となく楽しみを取っておきたくて、そうしていました。もっとも、アクシデントで見えてしまうこともありはしましたが…。そして、一人目は男の子。男の子であろうが女の子であろうが、授かりものですから、ありがたく頂戴いたします。
世では「一姫二太郎」なんてことを言います。我が家には継ぐべき身代もありませんが、それでも総領息子です。健康に産まれてくれれば良いわけです。「男の子か。大きくなったらキャッチボールでもするか」などと、当時は我が子の成長に思いを馳せたものです。
そうこうしているうちに、二番目ができます。こちらは前者の轍を踏まないように、助産院での出産でした。なんと定期検診は心音を聞く程度。これで性別は判りません。こちらは「二番目は女の子が良いな」と思っていますし、周囲も妊婦のおなかの張り具合から「これは女の子だな」などと言うものですし、次は女の子だ、と勝手に思い、さらに信じ、それどころか疑いもしなかった。
ところが、生まれてみると立派な男児です。まぁ、それでももちろん可愛いものです。2歳違いの男の兄弟。少し大きくなると子犬がじゃれ合うように、突っついたり絡んだり。仲良く遊んでいると思ったら、喧嘩が始まる。賑やかな楽しい毎日です。
かく言う私も長男で、2歳下に次男がいたので、「ああこんな感じで両親は我々を見ていたのか」などと、育ててくれた親へ思いを馳せたこともあります。
ところで、私の友人たちにも子どもができるわけです。すると、家族ぐるみで遊びに出かけたりもするのですが、どうやら我が家以外は女の子ばかり。ご近所さんに子どもができても、女の子ばかり。
そして、彼らの子育てを見ていると、どうも我が家のそれとは少し様子が違うわけです。まず静か。そう。どこか和やかで穏やかな空気が流れている。潤いがある。
男の子は声が大きいんです。彼らは腹から声を出す。すると自然と声帯の振動数が上がって、つまりピッチも高くなる。うるさいだけでなく、声の高さも上がるわけ。まるでボリュームつまみの壊れたラジオのようにうるさい。そこに来て、2人いるわけですから、それ掛けることの2で、倍うるさい。
ああ、女の子が欲しい。
それから幾星霜、再び子どもを授かることになり「今度こそは」と、「いや、しかし…。でも今度は」などと逡巡しつつ待ちわびる。蓋を開けてみると、こちらも立派な男の子。
こうなると最早悟りの境地です。男の子は可愛い。いや、男の子でも女の子でも、子どもはみな可愛い。その後、ようやく孫娘ができることとなるのですが、さて、今回は、そんな男の子について書いていきたいと思います。
なぜ、この子は…
男の子は可愛い。いつまで経っても、幼くて甘えん坊、素直で単純。一方で、静かにしているなぁ、と思ったら、箱の中の石を大切そうに眺めながら、ぶつぶつと独りごちている。この子は一体何を考えているんだろう…。
いや、そもそもですよ。男の子だけでなく、男性一般がそうじゃありませんか?つまらないことでくよくよするし、いつまで経っても気分転換できない。同じことが大好きでこだわりが強く、気分がコロコロ変わる。ついでに、何を考えているのか分からないけど、大体いつも同じことを考えている。従って、一度理解してしまえば、女性にとってはこれほど手玉に取りやすい対象はない。
それを小さくしたバージョン、可愛くしたバージョン、良い香りのするバージョンが、今目の前にいる男の子です。
現在ではすべてオンラインに移行していますが、かつて我が社では、ピーク時には400名ほどの生徒を抱える幼児教室と英語教室を運営していました。実際に私も、幼児・英語教室で指導に当たっていました。
そんな中、目にするのは…、ピシャッと暗唱したり、プリントをしたり、はたまた背筋を伸ばしてフラッシュカードを見たりゲームを楽んだりする女子。そんな女の子をうらやむかのように横目で見つつ、手元でグデグデてれてれ、もじもじキョロキョロする愛しむべき我が男子に「ほら、ほれ、こら、もう…!」とイライラ気味の男子のママたちです。
母親は女子です。女子は小さい頃からピシャッとしています。なので、どうしてうちの子(男子)はこんな簡単なことができないのだろう?と、感じるのは当然のことでしょう。そして、どうしたら「女の子のように」ちゃんとできるようになるのだろう、と思い悩むようになるのです。
ところで、男子とはどのような生き物なのでしょうか。まずは、少し具体的に男子の生態を眺めていくことにしましょう。そこから、なにか対策におけるヒントが見えてくるかも知れません。
幼い
男子は女子に比べて発達が遅い。もちろん、思春期には身体的な特徴は逆転して、雄々しくなりますが、幼児期は特にことばの発達を中心に、語彙も理解力も女子のようにスムーズに発達していきません。
言語の発達がゆっくりということは、思考力もゆっくり発達していくわけです。思考がゆっくりしか発達しないので、論理性もなかなか育たない。つまり、自分の置かれている環境や周囲の状態の理解があまり進まないわけです。
当然のことながら、自分の感情や想い、体調などもうまく言語化することができない。結局、どこが悪いのか分からないまま、何が気にくわないのか不明のまま、愚図り続けたりします。
同時に、乳離れも遅い。女の子は比較的さっぱりと断乳できますが、男の子は、機会を逸すると、いつまで経ってもずるずるとおっぱいを吸い続けることになります。我が家の場合、長男は、可哀想なことに次男がおなかにできて暫くすると強制的に断乳することになりました。
これが、次男坊の時には、次の子がいなかったので、のんびりしたもので、実に2年保育に入る頃までチュウチュウやっていました。もう既に栄養は食事から十二分に取っていたので、身体面では必要なかったのですが、精神面で必要だったのかも知れません。
三人目もゆっくりしていましたが、こちらは、3歳直前で自然とバイバイできました。個人差があるものの、男の子の授乳事情はこのように結構深刻です。
また、甘えん坊の面が強い。乳離れができても、母親にべったり。少し疲れると、すぐ「抱っこ」。眠くなるとすぐ「抱っこ」。何もなくても(本人の心の中では何事かあるのかも知れませんが)すぐ「抱っこ」。
抱っこも片手で軽くできるうちは大歓迎です。10キロくらいまでは問題ない。しかし、15キロを超えて、身長も110センチ、いやいや120センチともなれば、抱っこするのは相当キツい。
ちなみに、「抱き癖」などという言葉がありますが、あれは癖で抱っこを求めているのではなく、抱っこが足りないから抱っこを求めているのです。母親との身体の物理的な接触は、子どもの心の健康のためには不可欠です。抱っこを求められたら、どんどん抱っこをすれば良い。
とはいえ、ですよ。家の中で座っているときに抱っこを求められるのであれば、まだしも、外出先となると、荷物もあるし、当方も疲れている。そんな中15キロを超えた我が子を抱っこするなど現実的ではありません。甘えられるのも可愛いけれども、そろそろもう少し私から離れてくれないかしら、「少しはパパに甘えて」と感じる母親も少なくないでしょう。
単純
とまあ、男子は幼い。それに加えて単純です。単純というか、単細胞というか、あまり考えずに直感的に行動します。先にも述べたように、言語の発達がゆっくりなので、状況把握が苦手。日本特有の文化になぞらえると、空気が読めない。空気が読めなければ、場もわきまえない。思い立ったが吉日宜しく、衝動的に行動する。
もっとも、あれこれ逡巡して結局何もしない大人よりは、余程マシかも知れませんが、何が面白いのか分からないことを繰り返し口走って、1人で笑っていたり。これまた何が面白いのか分からないふざけた行動を取ってみる。気付けばコップを吸いつけて口の周りに丸く跡がついている。
付き合って、愛想笑いでもしようものなら、「お、ママも笑ってる!もっとやってやろう」となり、さらにつけあがることに。本人にしては楽しいのでしょうから、結構なことですが、付き合わされる身になったら、そろそろ勘弁してくださいな。
時には、この単純さ、思い立ったらすぐ行動の単細胞的衝動が、危険にも繋がりかねません。歩行中の事故件数、死者数共に男子の方が多い。もちろん、青年期になると危険なこともするので、突出して男子の事故死が多くなりますが、6歳未満だけ見ても、男子の方が断然多いのです。
男子をお持ちの皆様、ヒヤッとしたことはありませんか?ちなみに我が家の息子たち。さすが僕の子。道路に飛び出したりすることはありません。当たり前です。なぜなら、5歳くらいまでは必ず手を繋いで歩くからです。
しかし、スーパーやデパートなどでは手を離す場面もある。すると、あっという間にいなくなったりする。ほら、彼らの行動は衝動的です。前後のことを考えずに、気になるものがあれば、そこで立ち止まる、いなくなるわけです。特に、男子の手は離すべきではありません。
しかし、意味不明の行動には時に困り果てすが、彼らになぜそんなことをするのかと問うてみても、当の本人すらよく理解できいていないようなのですから、処置無しです。男子を授かったら、「なぜ」を考えてもらちが明かない。もう「仕方がない」と潔く諦めるがヨシです。
こだわる
何が気に入らないのか機嫌が悪い。朝の忙しい時間に、食事も進まない、着替えもはかどらない。しかめ面しつつぐずぐずしていると案の定、粗相をする。イライラして、母親に当たるのかも知れないし、何かの拍子に水をこぼしたりする。
そこで、親としては「もう何やってるの」「ぐずぐずしているからそんなことになるのよ」となるわけですが、その発言すら、素直に聞き入れることができません。自分が失敗したことは十二分に分かっている。母親が怒っているのも分かっている。でも、そんな環境が、火に油となり、彼らをしてより悪い状況へと導いていくわけです。
少量の水をこぼすことから始まり、箸を落とす、床に食べ物を落とす、終いには、味噌汁をひっくり返す。
繰り返しますが、彼らも分かっているんです。そんなことはしたくないんです。でも、止められないんです。自分の不機嫌が産み出した環境から抜け出せず、そこに拘泥して、自らその悪循環の中に身を沈めていくのです。
男子は、こだわります。一度はじめてしまうと、なかなか止められない。一度動き始めた感情を制御できず、どんどん突き進んでいく。一度止まって冷静に考えることが苦手。いや、そんなことをすれば、自分の行動、あるいは、自分自身を否定することになる。そこで、さらに突き進んでしまうのかも知れません。
男子は、変化が嫌いです。同じことを繰り返すのが大好きです。40年以上も前 “Happy Days” というアメリカのTVドラマがあり、折しも留学中の僕も毎週楽しみにしていました。その主人公の Fonzie という青年は、いつもジーパンと白いTシャツに革ジャンを着ていました。
具体的なストーリーは忘れましたが、いつも “同じ服を着ている” と指摘された彼が、彼のクロゼットを見せてくれます。すると、そこには1週間分の同じ服が並んでいるわけです。つまり、彼の友人たち彼が服を着替えていないと思っていたわけですが、本人はいたって清潔、同じ服を日替わりに着ているのでした。
ちなみに、僕も毎週気づけば同じことをしています。店も同じ、食べるものも同じ、終いには同じ話を繰り返していたりしますので、我ながら呆れてしまいます。
このように、男子は本人が意識しているか否か、好き好んでいるかどうかは別として、同じことをするようにプログラムされているのかも知れません。
加えて、悪いことに気分転換が苦手です。そして、同じことを繰り返すわけです。それが問題なく進んでいるうちは、効率的で良い。しかし、一度歯車がかみ合わなくなると、先の男子のように状況をどんどん悪くするような自体にもなりうるのです。
夢を見ている
彼らの頭の中では、どんな化学反応が起こっているのでしょう。なぜ男子は石を拾ってきては大切そうに箱や缶にしまい込み、それらを眺めては悦に入っているのでしょうか。石ころを眺めているときの彼らは、こちらの角度から見たり、あちらの角度から見たり、あるいは石庭を作るが如く石の配置をあれこれ変えてみたりします。一体全体、彼らは何をしているのでしょうか。
その段階で、運良く彼らに「言語」という強力な思考・表現のツールが身についていれば、ひょっとすると何を考えているのか説明してくれるかも知れません。しかし、もともと言語発達もゆっくり、思考も苦手なら、表現も苦手な彼らです。彼らに説明を求めること自体、実りのあることではないのかも知れません。
ひょっとすると、彼ら自身、何が起こっているのか理解できていないのかも知れないのです。こうなると、これも処置無しです。
男子たちの脳内では、忙しく電気がスパークしつつ、様々な衝動的なイメージを産み出しています。
手元にミニカーや電車の模型があれば、それを使って、頭の中のイメージを部屋の中に再現しているかも知れません。玩具で遊んでいるときの彼らは、単に玩具で遊んでいるのではなく、彼らの頭の中にあるイメージを、あるいは記憶を、あるいは新しいオリジナルの状況を夢想しながら、それを具現しているのです。
突然、変な遊びを発明するかも知れません。突然、変なことを言い出すかも知れない。「単純」の節では「衝動的」と書きましたが、「夢」の世界をそのまま現実世界に持ってきているのです。つまり、夢現(ゆめうつつ)の状態。
夢というものは衝動的で、大人が見る夢も、理路整然とはしていません。少なくとも大人はそんな夢を見るとき、「これは夢である」と自覚できますが、男の子たちは夢と現実の区別がついていないのです。
そして、彼らは彼らの夢の世界を現実に持ち込むことになり、母親は「何が起こっているのやら」と呆れたり、面食らったりすることになるわけです。
からだが弱い、心が弱い、とにかく弱い
男の子は風邪を引きやすい。冬に限らず、春と言い、秋と言い、夏の暑い最中に至るまで、年がら年中鼻を垂らしている。しかも、旅行や家族の集まり、はたまた、何事かのイベントの前に、まるで図ったかの如く具合が悪くなる。
統計を見ると、乳幼児の死亡数は男子の方が女子より1割方多い。インフルエンザなどの病気にも男子の方がかかりやすいのです。後述しますが、つまり、もともと身体が弱いのです。
それに加えて、心の弱さがある。
ちょっとしたことにこだわり、めそめそくよくよする。こだわりが強く、同じことが好きな彼らは、例えば、毎日朝食の後に食べるヨーグルトが、うっかり冷蔵庫から欠品していたりすると、もう機嫌が悪くなってしまう。悲しくなってしまう。無いことが分かっていても、それを母親が謝っても(謝る筋合いでもありませんが)、気分転換ができないので、それを引きずる。こうなると、朝の準備もはかどらなくなる。そんなことすらクリアできないほど、彼らの精神は脆弱なんです。
これは、大人になっても同じです。帰宅後、風呂上がりの一杯のビールを楽しみにしている男子があり、そんな男子が冷蔵庫にビールが冷えていないことを発見することで、彼らの心はずたずたに引き裂かれてしまうのです。
たかがビール、と思うなかれ。こだわりが強く、同じことが好きな彼らにとっては、それは欠かすことのできない “儀式” なのです。いや、ホント。たかだかビール一杯のことで、機嫌を悪くされた方はたまったものではありません。全男子を代表して頭を下げておくことにします。
どうやら遺伝的なダメらしい
ところで、ずいぶん古い本になりますが、『できそこないの男たち』(福岡伸一著 光文社新書)を読まれたことのある方も少なくないと思います。今回、男子の子育てを書くにあたり、書架を漁ったところ運良く発見できたので、十年ぶりに読み直してみました。
すると、確かに、男子は弱い。読み返しながら、内容を思い出しつつ、さらにはその内容(つまり男子の弱さ)に改めて呆れつつ、世の女性たちに奉仕するためだけに生まれてきた男子の儚さを、我が身や倅たちの身に置き換えつつ、何やらいたたまれない思いに駆られます。
曰わく「ママの遺伝子をほかの娘の元に届ける使い走り」が男子。生命の「基本仕様だったメスの身体を作り替えることで産み出され」た「オスの身体の仕組みには急造の不整合や不具合が残り」「寿命が短く、様々な病気にかかりやすく、精神的・身体的ストレスにも脆弱なものとなった」そうです。
確かに、男性は女性に比べて寿命が短い。男性の平均寿命81歳に対して、女性のそれは87歳です。これには様々な理由が考えられます。
例えば、喫煙率は男性の27%に対して女性は7%です。男性はストレスに弱いので、精神安定剤宜しく喫煙するのかも知れません。また、口が寂しくなり、それが習慣化するので、ヘビースモーカーとなり必要以上にタバコを摂取するのかも知れません。そうして身体を壊して行く。これも寿命の短さの一因かも知れません。
また、アルコール依存症の割合も圧倒的に男性が高い。男性の2%がアルコール依存の経験者あるいは傾向があります。実に50人に1人。知り合いに1人や2人はアルコール依存症の男性がいることになります。それに対して女性は0.2%で500人に一人。中堅高校の全学年の女子に一人程度の割合です。
これも、ストレスに弱く、酒に逃げて一時しのぎをする男性の精神の弱さの反映でしょう。タバコ吸いでアルコール飲みともなれば、天寿を全うできないのも仕方がないかも知れません。
しかし、このようなストレス対策としてのタバコや飲酒などの不健康要因を除いてもそもそも男子の方が、生物プログラムとして病気にかかりやすく,寿命が短いわけです。そして、その短い寿命をさらに短くしているのが事故です。
交通事故、転落事故、水の事故など、これも男子に圧倒的に多い。君子危うきに近寄らずなのか、本能なのか、女子はそのような事故に巻き込まれることが少ないようです。全体の割合にして男子7で女子が3です。男子である,と言うことがそれだけで危険であることになります。
男子が女子より劣るのは、健康面や精神的な弱さだけではありません。学力にしても然りです。
学力の上位には、女性の方が多いようです。もちろん、一部受験対策の塾などでは、必ずしもこのような結果とはなっていないようですが、肌感覚で言えば、成績上位者の多くは女子です。ただし、男子の名誉のために言っておきますが、成績上位中の上位、つまり頭の良い人全体の上澄みには男子が多いようです。
これに関しては、とある医大で男子生徒より成績の良い女子学生が不合格だったとか、都立高校では女子の合格点が男子のそれよりも高く設定されていたことなどが聞かれます。少し調べてみたところ、私立中学では、確かに女子の合格点が300点満点中10点から1割近く高く設定されていることが珍しくないようです。
これは、一部の極めて優秀な男子校を除けば押し並べて女子の方が成績が良いので、男女区別せずに単に点数だけで足切りをした場合、蓋を開けると学生は女子ばかり、気づけば女子校になっていた、などということになるのを防ぐ意味があるようです。
入試に限りません。就活でも同じです。こちらも、単に学生の優秀さのみで判断すると、女性社員ばかりになってしまう。そこで、男子の枠を設けなくてはならないというケースもあるそうです。しかし、優秀な人材を企業は求めているわけです。そして、結果的に内定率も女子の方が男子より2~3ポイント高くなってしまう。もう、仕方がないのです。
それはそうでしょう。ちょっとしたことで、くよくよしていじける社員ばかりだと困ります。また、同じことの繰り返しを求め変化を嫌っていては、IT化など社会の変化にも追いついていけないので社員としての資質に欠けてしまう。さらに、自らそのような変化を積極的に課すことができないような社員ばかりだと、DXに対応できない会社になる。そして、まさかの電算大手こそが最もDXが遅れており、あろうことかDXを外注する、などと言うことになっているのです。
男子の子育て
さて、ここまで散々男の子の残念な面を見て参りました。確かに、男子は弱い。確かに男子は、幼くて、単純で、こだわりが強く、夢の世界に住んでいる体も心も弱い生物です。
しかし、ですよ。そんな男子にも、すごいところはあるのです。
同書によれば、「それでもオスは、けなげにも自らに課せられた役割を果たすために、世界中のあらゆるところに出かけていった」のです。「ママの遺伝子をほかの娘に届ける」ために始まった旅かも知れません。しかし、自分の思い描く夢(「石ころの入った箱」)を現実の物とするために、根気強くこだわり(「飽くことなく同じことをし」)続け、時には病と闘い、時には自分の心の弱さと向き合い続けていく。そんな男子が、世紀の発見をし世の中を便利にしていったのです。
女性ばかりの社会は戦争もないでしょうし、皆平和に暮らせることでしょう。しかし、一見すると何をしているのか分からないような、そんなこだわり続ける男子たちが、電気を通し、自動車を作り、電車を走らせて、飛行機を飛ばすのです。現在の便利な社会インフラや、冷蔵庫、エアコン、テレビにインターネットなども、そんな男子たちが中心となって産み出してきたのです。
そう考えてみると、男子の子育ては大変有意義なものと言えます。女性が遺伝子で人類を支えるように、男子もささやかながら、それなりに社会の役割を果たしているのです。
「男子である」と割り切りが肝心
最初の方に書きましたが、女の子のいる家庭は潤いがある。和やかな空気が流れています。しかし、男子ばかりの家庭ではそれが叶わない。いや、そもそも、そんなものを求めるのは止めましょう。
もう、うちの子は男の子、世の中に貢献する立派な男子に育てる、と志を立て、育児に臨むことです。そのためには、様々な面で割り切りが肝心となります。
ここまで、「幼い・単純・こだわり・夢想・弱い」という点について述べて参りましたが、それぞれを割り切るとどうなるか、ここから簡単に考証してみましょう。
「幼い」わけですから、「こんなこともできないの?」と感じる心をググッと押し殺して、手取り足取り、ひとつずつ根気よく取り組んでいきましょう。
なかなかオムツが取れないなら、これからの暑くなる季節を利用して、じっくり取り組んでみる。何度失敗しても怒らない。ニコニコしながら、「またおねしょしちゃったねぇ」「失敗しちゃったねぇ」と語りかける。必ずいつかは上手に一人でできるようになるのです。焦らない焦らない。
こう書くと、それでは焦らずにずっとオムツをさせておけば良いじゃないかと、感じる向きもあるかも知れません。もちろん、それでも取れるときには取れます。しかし、これからプールの季節。年少さんでもオムツが取れていることを求められるかも知れません。座して待つのではなく、積極的に「目標」に向かいつつ、焦らず怒らず、淡々と取り組むことが大切です。
プリントやオンラインレッスンなどの学習、あるいはピアノの練習なども、一人でさせずに、必ず一緒に取り組むべし。一日数分の取り組みです。ピアノも5分で良い。少しずつ毎日取り組むことが大切です。そうすることで、少しずつ少しずつ、ほんの僅かながらに男の子たちは成長していき、女子よりは遅れますが、結果として一人で取り組めるようになるのです。
ここをサボって、放っておくと、結局小学生になっても中学生になっても学習習慣が身につかないことになります。そして、小学校中学年になってから慌てて塾に入れる。それでも、言われたことを嫌々ながらにするだけで、結局は自発的な学習にならない。結果として、大して成績は伸びないのです。
男子が生まれたら、まずはこの点を押さえて、母親としては手取り足取り、男の子が独り立ちできるようになるまで、不断の努力を続けなくてはならないのです。
単純でこだわりが強く夢想的
「単純」であることは大いに利用すべきです。単純であるということは、おなじことの繰り返しを厭わないということです。また、単純であれば「おだて」に弱い。さらに「こだわり」が強いということは、粘り強さにも通じます。加えて「夢想的」ということは、集中し出すと、とことん自分の世界に入り込めることを意味します。これを利用しない手はありません。
これらが複合的に絡み合い、正のスパイラルを生むと以下のようなことが生じます。例えば、電車に興味を持ち、電車の図鑑を眺めるような子に育つ。最初は衝動的なイメージの集合ですので、彼の頭の中では様々な電車が無秩序に動き回っています。
しかし、電車の名前や種類が分かる程度に電車に詳しくなると、今度は路線図に関心を持つ。そして、(都内や都市部に住んでいれば)母親に電車に乗せるよう求めるようになります。すると、ついでにホームや電車のアナウンスを、英語版も含めて丸暗記してしまう。このくらいになれば、おそらく、そのエリアの路線図や駅名、乗り換え案内などもできるようになってきます。ここで、「すごいすごい!」と褒める。
路線図は、そこから東海道新幹線、山陽・九州新幹線、あるいは東北・上越新幹線へと広がり、飛行場まで知識に含まれるようになる。こうなると、暇さえあれば日本地図とにらめっこ、各県の名前はもちろんのこと、県庁所在地も分かるようになる。ここから、さらに歴史に興味が湧けば、お城や各県の旧国名も分かるようになるかも知れない。ここで、「今度の旅行はどうやって行くか○○ちゃん考えてね」と煽てる。すると、「いいよ」と気恥ずかしげに自分への誇りで表情がパッと明るくなる。これ大切。
さて、このように、幼児期にここまでできていれば、小学校の社会科、あるいは中学の社会科などは赤子の手をひねるようにたやすく学習できてしまいます。
これは、単純でこだわりが強く、夢想的な男子だからこそなせる技です。もちろん、女子でも電車や乗り物に関心の強い子もいますが、この点、圧倒的に男子が有利でしょう。
もちろん、電車に限ったことではありません。昆虫の世界からほ乳類、生物、医学へと関心が向かうこともあるでしょうし、ひょっとすると、夢中になって現実の世界へ戻ってこられないほど物理の世界に入り込んでしまうかも知れない。ひょっとすると、ノーベル賞取ったりして…。
いかがでしょう。少しは男子を持って「良かった」と思えるようになりますでしょうか。
弱い点を意識して補う
さて、最後になりますが、男の子は身体が弱く、心も弱い。結果として学力も低くなりがちです。それをいかに逆手に取るか。いや、これらは逆手に取るのではなく、克服しなくてはいけない点です。
つまり。男の子が生まれたら、できれば生まれた瞬間から、それに間に合っていないのであれば、今この瞬間から、「この子は放っておいてはいけない」「私がなんとかしないといけない」「この子をしっかり育てること、そのことこそが私に課された天命なのだ」と気分を切り替えて参りましょう。
これは、決してプレッシャーを与えているのではありません。子育ての将来、あるいはその子の人生が明るくなることは、そのこと自体、母親や父親の未来の負担の軽減に直結するのです。つまり、今この瞬間は、やることが増えて大変ですが、それは数年後に、今より少し年老いた未来の自分の、精神的、肉体的、あるいは金銭や時間的コストを大幅に軽減する投資である、と考えてみるのです。
生物学的に弱いことの件で書いたように、男子は女子より生命の危険にさらされる確率が高い。このことをまずしっかり脳裏に刻みましょう。
つまり、手を離さない。これはすでに書きましたが、道を歩くときには手を離さない。ちょっとした隙間に魔は潜んでいます。少なくとも小学生くらいになるまでは、必要以上に手を繋ぐように心がけましょう。
3歳を過ぎればそんなことはありませんが、手を引っ張ると腕が抜けることも珍しくありませんので、この点も気をつけましょう。我が家でも二番目と三番目の腕が抜けました。抜けたときの処置法は、予め承知しておくと良いですよ。
また、全体的に身体が弱いので、特に夏場はおなかを冷やさないように、家では腹巻きをつけさせるとか、身体を冷やさないように心がけることが大切です。また、冬場も大切にしすぎて厚着をさせるとかえって身体を弱くするので、大人より少し薄着させることを心がけて、身体を鍛えてやることも病気への対策となります。
さて、身体が弱く命の危険を招きやすい点は十分に気をつけていただくと同時に、最後にもう1点、最後まで取っておくわけですから、最も重要な点と心得て、お取り組みいただきたいことがあります。
つまり、男子は学力すべの元となる言語力がなかなか育たないので、学力全体が思うように伸びない傾向にあります。
つまり、男の子であるということが「国語力が弱い」ことであることに直結する可能性が高い、いや、放っておけば、かなりの高確率で国語力が弱く、従って、すべての学力に伸び悩む子に育ってしまうのです。
これを解決するのは至って簡単。すべきこととは、いかに日々の国語教育に気をつけるか。これに尽きます。
この点に関しては、かなり長くなりますし、すでに『パルキッズ通信2022年3月号』に書いているので、そちらをご参照ください。また、「国語力」からはじめて理数系に強くなるために必要な「論理性」と、社会で生きていく上で不可欠なコミュニケーション能力や人望を育むために必要な「倫理感」を育てるための「地頭力講座」もお役立ていただければ幸いです。
こちらは以下のリンクをご参照ください。
★地頭力講座はこちら
ところで、お気づきでしょうか。今回も毎号と同じようなボリュームで書いていますが、サラッとお読みいただけたのではないでしょうか。サラッと読めただけ、さっぱり忘れてしまわれては困りますが、本稿が、男子の子育て中のお母様の気分転換に少しでも貢献できていれば幸いです。さらに、男子を育てることの社会的意義にハッと気づかれた方がいらっしゃったら、なお幸い。
最後にひと言。今世はもう諦めて、徳を積んでいると思って男子の育児に邁進してください。きっと来世では良いことがありますよ。
【編集後記】
今回の記事をご覧になった方におすすめの記事をご紹介いたします。ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。
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【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)
児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。