ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | グローバル人材, サードカルチャーキッズ
2013年06月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.24 | サードカルチャーキッズとは
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
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引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal1306/
船津徹『サードカルチャーキッズとは』(株式会社 児童英語研究所、2013年)
ハワイに移住した日本人家庭の子ども。香港に引っ越したイギリス人家庭の子ども。日本で暮らすブラジル人家庭の子ども。フランスに移住した中国人家庭の子ども。この子どもたちに共通するのは、親の仕事の都合などで母国を離れ、両親の持つ文化とは異なった文化で育ったことです。
異文化の中で学齢期の大半を過ごした子どもたちをサードカルチャーキッズ(Third Culture Kids)と呼びます。彼らは両親の文化(第一文化)と、居住国の文化(第二文化)の二つを経験し、それらに適応していく過程で、第三文化と呼ばれる独特のブレンド文化を創造します。
グローバル化の進行に伴い、国境を越えた人の移動は、もはや一部の国や地域の問題ではなくなりました。世界人口の30人に1人が自国以外の土地に暮らす現代、海外で育つ子どもたちがどのように異文化を受け入れ、アイデンティティを確立していくのか、少し勉強してみましょう。
|Where are you from?
東京で生まれ、ハワイで育ち、ロンドンの大学に通うタロウ君。新しく出会った人に「Where are you from?」と聞かれる度に答えに困ってしまいます。相手は深い意味で聞いているわけではないのでしょうが、タロウ君は「今住んでいる場所なのか」「育った場所なのか」「生まれた場所なのか」「親の出身地なのか」様々な答えが頭に浮かび考え込んでしまうのです。
日本で生まれ育った人であれば「ジャパン」と即答できるでしょう。でも日本生まれハワイ育ちのタロウ君の場合、見た目は日本人であっても、自分は日本に属していると純粋に感じられなくなっているのです。
ではタロウ君が学齢期を過ごしたアメリカ人としてのアイデンティティを持っているかというと、そうでもないのです。アメリカ人やアメリカ社会とは密接に接触しながらも、どこかに内面的な距離を保っている自分がいます。
家庭で日本語と日本人的価値観が継承され、学校教育では英語とアメリカ的価値観が教え込まれる。多文化の中で育った子どもたちは、日本にもアメリカにも属さない独特な「世界人/グローバルシチズン」としてのアイデンティティを形成します。
| 母国語の習得が世界人を育てるカギ
多様な文化、価値観、言語、それらと共生していくことが求められる現代社会において、国境を越えたアイデンティティを持つ子どもたちは優れたリーダーとなる素質を秘めています。高度な言語力、異文化適応力、コミュニケーション能力、欧米的思考スキル、そして彼らだけが持っている独特な世界観、これらはかけがえのない財産です。
彼らのポテンシャルを活かし、グローバル人材に育てていくためには、何よりも母国語の土台を構築することが必要です。日本的価値観や文化アイデンティティは、親とのコミュニケーション、すなわち母国語の発達を通して親から子どもへ継承されます。幼児期に母国語が十分に育っていないまま海外の学校に通い始めると、生活国の言語が優勢となり、子どもの文化アイデンティティも、その土地の主要文化へと同化する恐れがあります。
母国語と現地語、二つの文化にそれぞれの言葉で接触することによって、物事を二つの視点から見ることができる感覚が養われます。世界は異質なものから成り立っていて、文化や習慣には上下や優劣はない。自分の文化を大切にするのと同じように他者の文化も尊重し受け入れる。そんなグローバル感覚を身につけさせるためにも第一文化の継承は必須です。
|サードカルチャーキッズの故郷は「家族」
言語と文化の狭間で見失いがちな「自分」を国際社会の中で位置づけ自己実現してゆく、子どもたちがそのプロセスを可能にできるのは、自分をいつでも受け入れ、見守ってくれる「家族」がいるからです。サードカルチャーキッズにとっての「Home」は特定の場所ではなく「家族」そのものなのです。
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2001年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。