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2019年8月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.98 | どう違う?英語の会話力と読書力

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-1908
船津徹「どう違う?英語の会話力と読書力」(株式会社 児童英語研究所、2019年)


 子どもをバイリンガルに育てる秘訣は、英語を「話す力」と「読む力」を区別することです。この二つを「英語力」と一緒くたに考えていると、子どもの英語力は伸び悩みます。英語を「話す力」と「読む力」は全く異なるプロセスで発達します。この二つの英語力を区別し、それぞれに必要な環境作りと教育サポートの実践を心がけてください。


英語を話す力は「環境」で育つ

 子どもの「話す力」を育てるのは環境です。英語だけの環境に浸り、英語話者とコミュニケーションする機会が多いほど「話す力」は短期間で身につきます。子どもは周囲の人とのコミュニケーションを通して、生きるために必要な英語表現を覚えていきます。
 日本で「話す力」を育てるには、英語オンリーの環境を作ることが必要です。英語ネイティブが指導してくれるプリスクールに通わせたり、英語のテレビ番組や動画を見せたり、英語の歌を聞かせたり、英語が常に身の回りに(当たり前に)ある環境を作ることが近道です。
 英語オンリーの環境に浸ると、子どもの思考スイッチが「英語」に切り替わります。すると頭脳に英語情報がどんどん溜まっていきます。日本語と英語をミックスして教えたり、英語を日本語に翻訳させたり、日本人の先生(または親)から英語を習っても子どもの思考スイッチは「英語」に切り替わりません。
 子どもの頭脳は、環境に合わせて無意識に言語回路を切り替えることを知ってください。英語を話す力を効果的に育てるには、日本語を一切介さずに英語だけで思考する環境を作ることが最良の方法です。英語を話す力は親が教え込むよりも「環境任せ」にする方がはるかに効果的に育つのです。


読む力は教育と学習で育つ

 英語の「読む力」を育てるのは教育指導と子ども自身の学習です。「読む力」はどれだけ長く英語オンリーの環境に浸っても自然に身につくことはありません。家庭や学校で「英語を読む指導」を受け、さらに子ども自身がコツコツと読書訓練に取り組まなければ、英語を「読む力」は定着しません。
 アメリカではキンダーガーテン(5歳)から「読む力」の指導が始まります。日本語のひらがなに該当するフォニックスでアルファベットの音を学び、3文字単語、4文字単語と段階的に単語が読めるように教えていきます。
 もちろん子ども自身もワークシートやアプリを使って学習を積み重ねることで文字をスムーズに読めるように努力することが必要となります。この時に家庭でどれだけ読む力をサポートしたかが、子どもの将来のリーディング力(読解力)の発達を左右します。
 当然、家庭で多くのサポートを得た子どもほど「読む力」は短期間で、高度に発達します。家庭でサポートを得ることができなかった子どもは、読む力の定着が遅れ、学校の勉強でも遅れが目立つようになっていきます。キンダーガーテンから小学1年生の終わりまでの「2年間のサポートの差」が、子どもの将来の学力を決定づけると言っても過言ではありません。
 英会話が流暢にでき「読む力」のサポートが必要なさそうな子でも、この時期に読む訓練が不足すると英語力は伸び悩みます。「読書力の弱さ=読解力の弱さ」であり、学力不振、自信喪失、非行、不登校を引き起こす大きな原因となっているのです。
 ロサンジェルスタイムズ紙は「9歳までに読書力を身につけよう(Reading By 9)」という活動を1998年から行なっています。移民が多い南カリフォリニアを中心に「読む力」の重要性を父兄に広めようというという試みです。
 移民子弟の学力不振が社会問題となっているアメリカのケースですが、日本で英語を学ぶ子どもも「英語を第二言語で学ぶ」という点において共通しています。日本で育つ子どもであっても英語を「読む力」のサポートが不足すると、満足な英語力を身につけることはできないのです。


「読む力」は家庭のサポートがカギ

 トロント大学のジム・カミンズ博士は、英語を第二言語で学ぶ子どもが「学習英語力」(授業についていける英語力)を身につけるには5〜7年かかるという研究結果を発表しています。少し想像力を働かせれば分かりますが、5〜7年も授業が分からない状態が続けば、子どもは「自分は勉強ができない」とやる気を失ってしまいます。
 カミンズ博士の研究は「教育サポートを得られない移民家庭」を想定しています。私の経験から言えば、家庭で十分な「読む力」のサポートを得ることができれば、英語を第二言語で学ぶ子どもであっても、最短で3年前後でネイティブレベルの読書力を身につけることが可能です。
 「親が英語苦手だから」と、子どもの「読む力」のサポートを怠ってはいけません。今はYouTubeやNetflixなどのメディアやフォニックスアプリやゲームなどを上手に活用すれば、日本人家庭でも「読む力」を育てることができるのです。
 ネイティブの家庭教師を雇う経済的なゆとりがある場合は、「英会話」ではなく英語を読む力を指導してもらうことが大切です。英会話だけでは高度な英語力は実現できないことを肝に銘じてください。


アルファベットチャートで教える

 フォニックス指導の必需品は「アルファベットチャート」です。お勧めは大文字と小文字の両方がプリントされているもの、イラストが含まれるものです。年齢の小さい子どもはイラストを見ているだけでボキャブラリーを増やすことができます。

 親がチャートの文字を指差しながら「A,a,ant/エイ、ア、アント」「B,b,bed/ビー、ブ、ベッド」と読んで聞かせます。大文字[A]を指して「エイ」、小文字[a]を指して「ア」、[ant]の文字(イラスト)を指して「アント」という要領です。子どもが文字に興味を示さない場合でも「親が楽しそうに読むこと」がポイントです。
 26文字を一度に教えても飽きてしまいますから、まずは「A,B,C,D,E」の5文字を教えてみましょう。「A,a/エイ、ア」「B, b/ビー、ブ」「C, c/シー、ク」と「名前と音」だけを教えたり「a, a, ax、b, b, bug、c, c, cap」という要領で「音と単語」だけを教える方法もバリエーションとして取り入れてください。
*フォニックスチャートと音声は以下から無料ダウンロードできます。
https://ameblo.jp/tlcforkids


フォニックスは英語オンリーで教える

 フォニックスは日本語を介さずに、英語だけで教えることがポイントです。日本語が発達途上の子どもに「これはエイよ、発音はアよ」というように日本語と英語をミックスして教えると、何が日本語で、何が英語なのか、よく分かってもらえないことがあります。英語教育を成功させるには、英語のコップ(英語思考)に英語情報を大量インプットすること、すなわち「A,a,ax/エイ ア アックス」と英語オンリーで教えることが原則です。
 「発音に自信がない親が教えても大丈夫なの?」と心配されるかもしれませんが、YouTubeなどでネイティブ英語をしっかり聞かせていれば大丈夫です。子どもは大人よりも聴覚が優れていますから、ネイティブ音声を聞くだけで正しく再現することができます。
 YouTubeで「Phonics」「Alphabet and Letter Sounds」と検索すれば、たくさんのフォニックスビデオが見つかります。日常的にネイティブ発音を聞かせていれば、親の発音でフォニックスを教えても何ら問題ありません。


ハワイイメージ1【編集部より】
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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2001年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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