2020年12月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.114 | 大人になっても英語は身につく?
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2012
船津徹「大人になっても英語は身につく?」(株式会社 児童英語研究所、2020年)
「高校生の子どもに英語は手遅れですか?」という相談を受けることがあります。子どもといえども年齢を重ねるにつれ、日本語の発声(発声筋)と日本的思考が固定化していくので、英語の発音や英語思考への切り替えが難しくなることは事実です。でもご安心ください。高校生以上でも高度な英語力を身につける有効な方法があります!
高校生になってから高度な英語力を身につけた!
東京都内の中高一貫校に通うT君は、高校1年生から2年間アメリカに留学しました。T君が英語を本格的に習い始めたのは中学1年生になってからです。学校の英語の成績は普通。英語は嫌いでないが、好きでもないというT君でしたが、両親の熱心な勧めと、学校生活に物足りなさを感じていたこと、アメリカに何となくあこがれを抱いていたことが相まって、留学にチャレンジすることを決意したのです。
英語があまり得意ではなかったT君ですが、なんと留学して1年も経たないうちに日常会話をこなすようになり、学校の勉強にもついていけるようになり、さらにクラスメートからクラスプレジデント(学年生徒会長)に推薦されるなど、アメリカの学校で人気者になったというのです!T君は一体どんな魔法を使ったのでしょうか?
T君は日本で「演劇」を学んでいたのです。子どもの頃から歌、ダンス、演技の訓練を通して、高いコミュニケーション力を身につけていました。舞台経験も豊富で、台詞を覚えたり、声色や表情やしぐさを真似たり、ジェスチャーを駆使してニュアンスを伝えたり、その場の雰囲気から空気を察知する能力が人一番高かったのです。
演劇で培った高度なコミュニケーションスキルが英語習得と異文化適応を促進してくれたのです。さらに舞台で培った度胸と目立ちたがり屋精神を大いに発揮してクラスの人気者になり、友だちとの頻繁なコミュニケーションを通して英語力をメキメキ伸ばしていったのです。
コミュニケーションは言葉よりも非言語情報が重要
ティーンエイジャーになってから英語を身につけるポイントは「コミュニケーション力」です。ここで言う「コミュニケーション」とは、決められた会話を反復練習する「英会話」のことではありません。言葉や文化の壁を越えて、世界中の人たちと仲良くなる力、打ち解ける力、信頼関係を築く力のことです。
皆さんの周りにも「誰とでもすぐに打ち解けられる人」がいると思います。そのような人は皆おしゃべり上手で、話が面白いかといえば、そんなことはありません。コミュニケーション力が高い人というのは、親しみやすさや愛嬌の演出が上手い人、人と共感する能力が高い人です。
文化人類学者のレイ・バードウィステルは、人間同士のコミュニケーションは「言語情報」が30〜35%、そして「非言語情報」が60〜65%と言っています。つまり人間は言葉よりも、表情、言葉の強弱、身振り手振りなどの「非言語情報」により強く依存して意思疎通をしているのです。
ところが多くの人が「英語を話す」場面に直面すると、コミュニケーションのルールを忘れてしまい、100%言葉に頼って意思疎通しようとするのです。すなわち相手の言葉を一語一句もらさず聞き取り、一語一句日本語に翻訳し、自分の言いたいことを文法法則に則って英語に置き換えようとします。
コミュニケーションが上手い人は、相手が外国人であっても「相手と共感すること」に意識を向けています。相手の様子や表情から何を伝えようとしているのかを推察したり、その場の状況から会話内容を想像する能力に長けているのです。また自分の気持ちや思いを、アイコンタクト、表情、ボディランゲージなどの「非言語情報」を駆使して「伝える」ことも上手です。
日本では家庭や教育現場でコミュニケーションの仕方を子どもに「教える」ことは少ないですが、いくら英語知識を詰め込んでも、肝心のコミュニケーション力が育っていなければ宝の持ち腐れです。子どもに本当に使える英語力を身につけさせたければ、コミュニケーション力の育成に目を向けることが大切です。
コミュニケーションは誰でも身につけられる技術
ほぼ単一民族(言語)国家である日本では、コミュニケーションの重要性がほとんど認識されていません。その結果、子どもたちは手探りで「正解」を模索している状態です。どの子も実験と失敗と修正を繰り返しながらコミュニケーション力を身につけていきますが、その過程で挫折してしまうケースも多くあります。
2016年に内閣府が実施した調査では、引きこもりの総数は約70万人。引きこもり予備軍がその倍の約155万人というのが日本の現実です。引きこもりの原因は「人間関係がうまくいかない」「不登校になった」「就職活動がうまくいかない」「大学になじめない」「職場になじめない」など、コミュニケーション力不足であることは明らかです。
アメリカのように様々な文化、人種、価値観が共存する社会では「コミュニケーションスキル」がなければ人間関係が構築できません。相手に自分の気持ちを察してもらうことを期待しても無理なのです。ですから人と関わり合う入り口として「世界標準のコミュニケーションスキル」が必要なのです。
とはいえ、一つひとつのアクションは単純なものです。親が子どもの手本となって人付き合いのルールや友だち作りの方法を教えればいいのです。
たとえば「相手の目を見て笑顔であいさつする」。
世界では、笑顔は「自分は危ない人ではありません」「私はフレンドリーです」というアピールであり、コミュニケーションの基本です。笑顔であいさつができない人はコミュニケーションの輪に入れてもらえません。輪に入れなければ、人間関係がつくれません。笑顔一つできるかできないかで、人間関係、子どもの場合には人格形成にも大きな影響が出てくるのです。
コミュニケーション力は言葉や文化の壁を乗り越える「万能ツール」です。コミュニケーション力が高い人は、世界中のどこでも、すぐに友だちを作ることができます。友だちができれば外国語を使う機会が増えますし、文化や習慣で分からないことを気軽に聞くことができますから、短期間で異文化適応できるのです。
コミュニケーション力の土台は家族関係が作る
子どものコミュニケーション力を育てるスタートは家族関係です。子どもにとって初めて出会う他人である親や兄弟姉妹との関係が良好であれば、家族以外の人とも良好な関係を構築しやすくなります。
まずは家庭で親が人付き合いの手本を示すことを意識しましょう。そして次の3つのルールを教えてあげてください。1)笑顔であいさつする、2)相手の目を見て話す、3)相手の話をしっかり聞く。この3つを実践するだけで子どものコミュニケーション力は目に見えて向上します。
絶対にしてはいけないのが、子どもの前で親がパートナーや友だちの悪口を言ったり、バカにしたり、嫌味を言ったり、低く扱ったりすることです。子どもは親の行動や言動から自分の行動規範を作りますから、子どもにも悪い人付き合いの習慣が身についてしまいます。
家庭でコミュニケーション力を育てる上で大切なのが「食事の時間」です。フランス人の食事時間の長さは世界でもよく知られていますが、その理由は、家族がその日の出来事を話し合い「コミュニケーション」を密にすることにあります。
この時に行うのは「楽しい雑談」です。子どもにその日の出来事を話してもらい、親も身の回りの事や時事ニュースなどを子どもに分かりやすく話し、お互いに会話を楽しむことがコミュニケーション力の向上につながっていきます。
もう一つコミュニケーション力の育成で重要なのが父親の関与です。母親とは異なる人間関係を持つ父親は、子どもにとって最良のコミュニケーションの先生です。父親と一緒に遊んだり、スポーツをしたり、家族以外の人と関わる中で、子どもは社会のルール、マナー、人付き合いのコツを学ぶことができます。
アメリカの発達心理学者イボンヌ・カルデラ博士が、父親が子育てに積極的に参加している家庭の子どもを調査した所、以下のような共通点を発見しました。
・頼み事を気軽に聞いてくれる。
・初対面の人とでもちゅうちょせず会話ができる。
・他の子どもたちと簡単に打ち解けることができる。
・よく笑う。
・我慢強い。
・新しい遊びへの挑戦を楽しむ。
・父親との関係が良好。
・母親との関係も良好。
演劇(歌、ダンス)でコミュニケーション力を伸ばす
最後に話を冒頭でご紹介したT君に戻しましょう。みなさんは「演劇」にどのような印象を持っているでしょうか?「文化部の代表」「地味」「個性的な人の集団」など、あまり良い印象を抱かない方が多いかと思います。日本では社会的認知度も地位もイマイチな「演劇」ですが、欧米では学校カリキュラムに組み込まれるなど、幅広く教育に活用されています。
イギリスでは「演劇」が必修化されている学校が多くあります。また課外活動としても人気が高く、ほとんどの子どもが大なり小なり「演劇」を経験しています。アメリカでも演劇(シアターやドラマと呼ぶ)はスポーツと並んで人気が高い課外活動です。中学・高校では演劇部に入部するために歌やダンスのオーディションがあり、数少ない役を巡って熾烈な競争が繰りひろげられます。
欧米の学校で「演劇」が重視されている理由は、「コミュニケーション力」を高めてくれるからです。「演劇」を習うことによって、相手に伝わりやすい発声・発音方法、表情の作り方、しぐさやジェスチャーなど、コミュニケーションの基本を身につけることができます。
日本人の子どもは概して自己表現が苦手ですが、それはコミュニケーションの技術やルールを知らないからです。相手の目を見て話さない、小さな声でボソボソ話す、イエス・ノーを明確にしない、感情を表に出さない、ジェスチャーを使わないなど、「控えめ」なのは日本人の美徳の一部なのですが、多様な人との関わりが求められるグローバル社会では、相手に分かってもらえないことの方が多くなります。
家庭でコミュニケーションを教えるのは難しいという方は、子どもの習い事に「演劇」を加えることを検討してください。私は25年以上教育に携わっていますが、稀に英語を短期間で身につける語学の達人に出会うことがあります。そんな人のほとんどは「演劇経験者」なのです。
【編集部より】
船津徹先生の新著『失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方』(KADOKAWA)全国書店にて発売中。困難に負けない「心の強い子」の育て方を詳しく紹介する一冊です。ポストコロナを生き抜くたくましい子どもを育てる知恵が満載です。ぜひご一読ください。▶︎詳細・お申し込みはこちらをクリック
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ブログはこちら▶︎https://ameblo.jp/tlcforkids/
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2012年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。