2021年3月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.118 | 日本で子どもの英語力を育てる方法は?
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2104
船津徹「日本で子どもの英語力を育てる方法は?」(株式会社 児童英語研究所、2021年)
日本で子どもの英語力を育てるには、何歳から、どのような方法で学習するのがベストなのでしょうか?「英語教育は早ければ早いほど良い」「英語教育の臨界期は6歳だ」「英会話力は幼児期でなければ身につかない」など、インターネットには様々な情報が飛び交い、親たちを惑わせています。
私は日米で25年以上子どもの英語教育に携わってきましたが、大切なのは英語教育をスタートする年齢よりも「どの技能にフォーカスするか」です。日本のように日常的に英語を使わない環境では、会話力中心の英語学習は定着しないことは明らかです。
また乳幼児期は楽しく英会話教室に通っていた子でも、小学校に上がり日本語の教科学習が始まると、日本では英語はさほど必要ないことに気づきます。すると日本語の勉強で良い成績を取ることが重要と感じるようになり、英語への学習意欲は下がってしまうのです。
日本では英会話力を維持できない
年齢の小さい子どもほど英会話を短期間で身につけることができるのは事実です。これが多くの親を「英会話」へと掻き立てています。頭が柔らかい子ども時代に英会話を習わせれば、効率良く英語が身につくように思えます。
しかし乳幼児期に身につけた英会話力というのは、日常的に英語を話す環境がなければ次第に失われていき、最悪の場合、すっかりなくなってしまうのです。
私の友人に0歳〜6歳までをアメリカで過ごした人がいます。2歳から現地のプリスクールに通い、4歳の頃には英語ペラペラに育ちました。その時は「自分はアメリカ人だ」と思っていたそうです。
ところが6歳で日本に戻り、日本の小学校に通い始めたら、あれだけ得意だった英語をすっかり忘れてしまった!というのです。この友人は今大人ですが、残念ながら子どもの頃のように流暢に英語を話すことはできません。
同じように日本で英語保育を行うプリスクールやキンダーガーテンに通い、ある程度の英会話力が身についても、子どもが日本語の小学校に通うようになると、英会話力はあっという間に衰えてしまうのです。
日本で子どもの英会話力を維持・向上させるには、少なくとも小学校時代を通してインターナショナルスクールに通い、毎日英語でコミュニケーションをとり、英語で教科学習を受け、英語で思考力を鍛える以外に良い方法が見当たりません。
早期英語教育に大きな効果があることは私の経験からも明らかです。しかし「早期英語教育をすれば英語が身につく」わけではありません。肝心なのは、早期英語教育で培った会話力を「リーディング力」へとつなげていくことです。
早期英語教育を実践している人の多くがこのことを知らず、小学生になってからも「会話中心」の英語学習に終始しています。いくら豊かな会話力を身につけても、リーディング力へつなげていかなければ、年齢と伴に、英会話力も英語学習に対するモチベーションも下がってしまうのです。
英語のことわざ「Use it or lose it.(使わなければ無駄になる)」を心に留め置くことが大切です。
小学校からはリーディング力の育成にシフトする
ではごく普通の日本人家庭に育つ子どもが、ごく普通の日本の学校に通いながら、バイリンガルレベルの高度な英語力を身につけるにはどうすれば良いのでしょうか?
その答えが、英語学習の焦点を「リーディング力の育成」に置くことです。
父親の転勤に伴ってハワイに移り住んできた6歳の女の子がいました。英会話では苦戦していましたが、私の塾でフォニックス(英語のひらがな)とサイトワーズ(英語の頻出単語)を通してリーディングを集中指導することで、数ヶ月後には現地校の授業になんとかついていけるようになりました。
その後もリーディングの育成を中心に英語学習を継続することで着実に力を伸ばし、帰国する9歳の時には、ネイティブの小学3〜4年生レベルの英語の本を、辞書なしでスラスラと読み進められるようになりました。
日本に帰国してすぐ英検を受験したところ、日本の大学卒業レベルである「準1級」に楽々合格。単語力をもう少し強化すれば1級にも手が届く高得点での合格でした。現在は日本の公立小学校に通いながら「家庭で英語の読書を楽しんでいます」という報告を両親からもらっています。
上記はアメリカの話ですが、日本で子どもの英語教育を行う場合も原則は同じです。英語学習の中心を「リーディング力の育成」に置くことで、日本から一歩も出ることなく、高いレベルの英語力を育てることが可能なのです。
東京都に住むT君は小学3年生の秋に「英検2級」に合格しました。リスニングは満点で、総合でも東京都内受験者上位2%という好成績でした。でもT君は帰国生でもインターナショナルスクール生でもありません。家庭学習で英語のリーディング力を身につけた「国産バイリンガル」です。
子どもの英語学習の焦点を英会話から「リーディング力の育成」にシフトすることで、日本国内で高度な英語力を達成することが可能になります。英語の本が読めるようになれば、子どもが自学自習で英語力を限りなく向上させていってくれるのです。
リーディング力は誰でも身につけられる技術である
英語の読書を通して、新たな語彙を獲得し、文法法則を理解し、豊かな表現力を身につけることができます。英会話のように話す相手は不要ですし、本が一冊あれば、いつでも、どこでも、いくらでも、一人で英語学習ができます。
ここで明確にしておきますが、私が言うリーディング力というのは、日本の受験英語や学校英語に出てくる「長文読解」のことではありません。リーディング力とは「英語の本を、早いスピードで、読み解ける力」です。
「そんなの日本人には絶対無理だ!」と思いましたか?
無理ではありません。日本人ならば誰でも日本語が読めるようになりますね。同じように英語のリーディング力も、正しい方法と順序で取り組めば、誰でも身につけることができる技術です。その証拠に、私が指導してきた日本人(中国人や韓国人も)の子どもたちは、皆、自力で英語の本を読むことができます。
リーディング力の育成はいわば「計算」を教えるようなものです。たとえば「1+1=2」を子どもに理解させるには「1」「+」「=」というそれぞれの記号の意味を教えることが必要です。このプロセスを飛ばして「1足す1は何?」と聞いても、子どもは答えられません。
同様に英語のリーディングも「The cat sat on the mat」という記号の羅列から意味を読み取る作業です。フォニックスとサイトワーズで英文を構成する単語の読み方と意味を教えることで、誰でも一定レベルのリーディング力を獲得することができます。計算力を高めるために計算ドリルが必要なように、リーディング力を高めるには、英語をたくさん読む訓練を取り入れればよいのです。
リーディング練習は「超簡単で短い本」からスタートする
リーディングと聞くと、分厚いペーパーバックを読む「厳しい修行」を連想するかもしれませんが、子どものリーディングは「超簡単で短い本」からスタートします。それこそ1ページに英文が1〜2行、全体で8〜16ページ程度の超薄い本で、ページにイラストが含まれていることがポイントです。
移民の国アメリカでは、家庭で英語以外の言語を話す子どもが無理なくリーディング力を身につけられるように、単語数、単語の難易度、文法の難易度などの読書レベルが細かく分類された短い本(Guided ReadersやLeveled Booksと呼ぶ)がたくさん開発・販売されています。
これらのレベル分けされた「超簡単で短い本」を活用することで、英語を第二言語で学ぶ子どもでも、自分の力でリーディング力を伸ばしていくことができるのです。習熟度に応じて少しずつ本の難易度を上げていけば、やがてどの子もネイティブレベルの英語の本が読めるようになります。
くれぐれも難しすぎる本を与えないように注意してください。最初に与えるのは8〜16ページ程度のページ数で、単語数は1冊あたり20語〜200語程度を目安にしてください。1冊を読む時間は3分以内。文字に慣れている子どもであれば1分以内で読めます。
日本で人気のOxford Reading Tree(ORT)のステージ1(First Sentences)に含まれる本は1冊の単語数が24単語〜65単語です。このレベルであれば、どの子もすぐに読めるようになるはずです。まずはこのステップで「英語の本が読める!」という自信を大きくしてあげましょう。
児童英語研究所から出版されている「アイキャンリード」は1冊の収録語数が24〜50語程度のアーリー・リーダーズのセットです。オーディオはもちろん、オンラインレッスンもセットになっているのでお勧めです。
【編集部より】
船津徹先生の新著『失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方』(KADOKAWA)全国書店にて発売中。困難に負けない「心の強い子」の育て方を詳しく紹介する一冊です。ポストコロナを生き抜くたくましい子どもを育てる知恵が満載です。ぜひご一読ください。▶︎詳細・お申し込みはこちらをクリック
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ブログはこちら▶︎https://ameblo.jp/tlcforkids/
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2104年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。