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2021年12月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.126 | 日本人の英語学習は「多読」が効果的

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2112
船津徹「日本人の英語学習は「多読」が効果的」(株式会社 児童英語研究所、2021年)


 一般的に英語習得に必要な学習時間は約2500〜3000時間と言われています。平均的な日本人が学校教育を通して英語に費やす時間が1500時間程度ですから「学校+1000時間の家庭学習」が、英語習得に要する時間の目安です。
 この「プラス1000時間の家庭学習」をいかに達成するのかが、年齢に関わらず、日本人が英語力を身につける上で重要なポイントです。ここで言う家庭学習とは「学習者が能動的に英語に向き合う時間」です。英語のテレビ番組や英語の歌のかけ流しなど「受動的な学習は含みません」ので注意してください。
 能動的な学習で最も効果的なのが「英語の読書」です。英語の本を読む時、学習者は目で英語を読み取り、口で英語を音声化し、耳で音声化された英語を聞き、想像力を働かせて内容を理解する、という一連の作業を瞬時に行います。このプロセスを繰り返し訓練することで、英語を英語のまま理解する力が徐々に養われていきます。
 たとえば毎日30分英語の本を読書すれば、目標の1000時間を5年間で達成できます。5年は長すぎる!と感じるかもしれませんが、子どもが小学低学年で英語の読書を始めれば、中学1〜2年生までに目標達成です。(ちなみに目標英語レベルは英検準1級です)


3年間で英語の児童書が読めるようになった!

 父親の仕事で5歳から7歳までの丸3年間をハワイで過ごしたサラちゃん。日本に帰国後は近所の公立小学校に通っています。しかしコツコツと英語力を伸ばし、小学5年生の時に「英検1級」に合格しました。
 「アメリカで3年も暮らしていたならあたりまえだ」と思われるかもしれませんが、アメリカで生活していたのは幼稚園から小学2年までの3年間です。サラちゃんのように小学校低学年で帰国する子どもの多くは、日本で英語をまったく使わなくなりますから、英語力が低下するのが一般的なのです。
 ところがサラちゃんは、英語力が低下するどころか、帰国後もぐんぐん英語力を伸ばすことができたのです。なぜでしょうか?
 それは、英語のリーディング力を身につけていたからです。
 サラちゃんがアメリカに来た時は英語力ゼロでしたが、私の英語学校で3年間徹底的に英語のリーディングを指導しました。その結果、小学2年生の時には学年レベルのリーダーズが楽しめるレベルの読書力を身につけていました。日本帰国後も大好きな英語の読書を通して英語力を上達させていったのです。
 英語を話す機会がなくても、英語の読書を続けていけば、語彙力、読解力、表現力、リスニング力、英語の全技能を上限なく伸ばしていくことができるのです。
 英語を使うことが少ない日本で、実用的な英語力を獲得するには「リーディング力」を鍛えるのが、唯一にして最良の方法です。
 子どもの英語教育は、英語ネイティブ向けに書かれたリーダーズ(段階的な本)やチャプターブック(児童書)がスラスラ読めるように導くことが最初のステップになります。


英語多読はリーダーズから始める

 子どもに与える英語の本は「やさしく、短く、楽しい」が原則です。難しすぎる本、長すぎる本、教育的な本を読ませようとすると子どもが逃げていきますので注意してください。
 子どもの多読に最適の本は「リーダーズ」です。リーダーズというのは学齢期の子ども、あるいは、英語を第二言語で学ぶ子どもが自学自習で読書力をつけることを目的とした本で、単語や文法の難易度、単語数(ページ数)が徐々に上るようにレベル分けされています。
 内容は古典文学、映画や演劇の原作、自伝、ミステリー、コメディー、SF、ノンフィクションなど多種多様であり、学習者の好みや興味に合った本を選ぶことができます。
 世界的に有名なリーダーズといえば、Pearson English Readers(旧ペンギンリーダーズ)です。Pearsonのウェブサイトでは、年齢、レベル、ジャンル、英語の種類(アメリカ英語・イギリス英語)を入力して本を検索するシステムがあります。これを活用することで子どもにベストマッチの本を見つけることができます。(https://readers.english.com/catalogue/teens-and-adults)
 Pearsonのリーダーズは、単語数200語(英検4級レベル)から、単語数3000語(英語準1級レベル)まで、7レベルに分かれています。まずは今の子どものレベルよりも1ランク低い本からスタートすることをお勧めします。最初から難易度の高い本、長すぎる本にチャレンジすると、挫折することが多くなります。
 Pearsonリーダーズには、英語の文字学習を始めたばかりの子ども向けのシリーズもあります。アニメや漫画のキャラクターが登場する本、グリムやアンデルセン童話など、子どもたちに人気のストーリーが豊富にありますので、ぜひお子さんの英語教育にも活用してください。
 アメリカの子どもに人気のリーダーズは、I can read seriesです。こちらはテレビや映画でお馴染みの人気キャラクター本がたくさんありますので、子どもが好きそうな本を探してみましょう。最近は日本の図書館でもリーダーズを見つけることができますので、ぜひ足を運んでみてください。


理解よりも、スラスラ読めることが重要

 英語のリーディング力を育てる原則は「理解よりも流暢に読めることが先」です。英語を読み始めの子どもに「読むこと」と「理解すること」の二つを要求すると、必ず読書スピードが遅くなります。内容の理解は横に置いておき、流暢に読むことだけに専念させましょう。
 人間の脳は素晴らしい能力を秘めていますが、2つの作業を同時に処理することは苦手です。流暢に読むことにフォーカスしながら、頭の片隅で意味を考えていると、脳の処理スピードは遅くなり、学習効率が下がってしまいます。
 日本語の文字を習い始めた子どもを観察すると、これは一目瞭然です。ほとんどの子どもは文字を「読むこと」に集中しているので、読み終わっても内容をまったく覚えていません。子どもに「内容を考えながら読みなさい」と指示すると、読書スピードがさらに遅くなり、読んだそばから内容を忘れていき、いつまで経っても理解が伴わないという悪循環に陥ってしまうのです。
 まずはやさしい英語を流暢に読むこと1つに集中させます。理解することよりも英語の活字に慣れ、読書スピードを向上させることが先です。英語に対する抵抗感がなくなり、英文をスラスラと読めるようになったらリーダーズの「多読」によって読解力を育てていくのです。  これは、日本語の読書指導でも同じです。まずは日本語の本をスラスラと読めるようにならなければ内容理解は伴いません。
 リーダーズには「グレードレベル」や「リーディングレベル」が記載してあるので、それを参考にレベルに合った本を選ぶことができます。レベルがはっきりしない場合、最初の数ページを子どもに読ませるとよいでしょう。1ページに読めない単語が3〜4個以上ある場合、難しすぎる内容です。


英語多読は「正しい発音」を覚えることが大切

 日本の子どもが小学校で「ひらがな五十音」を学ぶように、英語圏の子どもは「フォニックス」で英語の正しい読み方を学びます。フォニックスは「A=ア」「B=ブ」「C=ク」というように、アルファベット26文字と「音」の関係を教える指導法です。
 多くの日本の学校ではフォニックスを教えずに、いきなり単語を指導しますが、これは「ひらがなを読めない子どもに本を読ませる」ようなもの。この方法ですと「上手に読めない」「知らない単語は読めない」という壁にぶつかります。そして「英語は難しいから嫌い!」となってしまうのです。
 フォニックスを学べば、どの子も自力で未知の単語が読めるようになります。フォニックスは文字と音を一致させる学習なのでゲーム感覚で取り組むことができます。最近では子ども向けのフォニックスアプリがたくさん開発されていますので、それらを活用して、楽しみながら「正しい発音」を教えてあげてください。
 フォニックスを覚えれば、小学生でもシェークスピアが読めるようになります。日本語は「漢字」を覚えていかなければ、難解な本が読めるようになりませんが、英語には漢字がありませんから、フォニックスだけで、大人向けの小説や専門書だって読めるようになるのです。
 もちろん英語が読めても、書かれている内容を全て理解できるわけではありません。しかし英語が読めるようになることは、子どもにとって大きな成功体験であり「自分は英語ができる」というやる気を大きくしてくれるのです。
 そこから先は、子どもの興味とレベルに合った本を多読していくことで、ボキャブラリーを増やし、文法知識を身につけ、表現力を伸ばしていけばいいのです。さらに付け加えると、本を読む時は、黙読していても頭の中で「音読」していますから、スピーキングとリスニングも同時に鍛えることができます。


サイトワーズを300語覚えると、どんな本でも7割読める!

 フォニックスに加えて英語多読で重要な取り組みがサイトワーズです。「the, of, and, a, to, in」を読めない人はいないと思います。これらは英語の「頻出単語」であり、サイトワーズ(Sight Words)と呼びます。
 サイトワーズは、よく見る単語を、よく見る順に覚えるというシンプルな学習ですが、高い効果が期待できます。というのも、あらゆる活字化された英語の「50%は頻出上位100単語」のサイトワーズで、そして、「70%は頻出上位300単語」のサイトワーズで構成されているからです。理屈の上では、サイトワーズを300語覚えれば、どんな本でも7割読めるのです。サイトワーズもYouTubeで検索すれば動画を見つけることができます。
 サイトワーズにはいくつかの異なるリストが存在します。アメリカの小学校で最もよく使われるリストは、Dolch Sight Wordsと呼ばれる220単語です。このリストが発表されたのは1948年で、当時の子ども向けの絵本から単語が抽出されています。「The Cat in the Hat」で人気のDr. Seussの絵本シリーズはDolch Sight Wordsの220単語をベースに書かれています。
 次にメジャーなものが、Fry Instant Wordsです。こちらは1980年に最新版が発表されました。このリストには小学3年〜高校1年生までの教科書で頻出する1000単語がまとめられています。この1000単語を覚えると、あらゆる英語の本、新聞、ウェブサイトの「90%以上」が読めると言われています。
 オーストラリア(イリギス英語)の小学校でよく使われる単語をまとめたものがOxford Wordlistと呼ばれる500単語のリストです。このリストのオリジナルは2007年に発表されましたが、2017年にアップデートされており、現在最も新しいサイトワーズリストです。


ストーリーを知っているリーダーズから始めてみよう!

 まずは日本語でストーリーを知っているリーダーズを見つけて子どもに読ませてみましょう。アンデルセンやグリム童話、名作文学や映画のシナリオなど、リーダーズ版であれば読み進めることができるはずです。またストーリーを知っていれば、頭の中でいちいち日本語に翻訳することなく、英語のまま読み進めていく力を養うことができます。
 繰り返しますが、英語の読書力を育てるプロセスで優先すべきは「理解よりも流暢に読めることが先」です。細かい内容理解はひとまず横に置いておき、英語がスラスラと読めるように上手に導いてください。


ハワイイメージ1【編集部より】
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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2112年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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