ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | 子供の成長, 子育て論, 言葉がけ
2022年3月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.129 | 子どもの「やる気」の育て方
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2203
船津徹「子どもの「やる気」の育て方」(株式会社 児童英語研究所、2022年)
「将来、どんな子どもに育ってもらいたいですか?」私の学校に教育相談に来た保護者に質問すると「経済的にも精神的にも自立した子どもになってもらいたい」「自分らしく生きる子どもになってもらいたい」「グローバル社会で活躍できる子になってもらいたい」など、皆さん素晴らしい子育ての目標をお持ちになっていることが分かります。
「ではご相談内容は何ですか?」
そう私が尋ねると「中学受験をするのですが、どうしたらいいでしょうか?」「◯◯大学に合格するために、何からスタートしたらいいですか?」など「受験」に関する相談がほとんどなのです。
多くの親が、子どもに「やりたいことを見つけて、自分らしい人生を歩んでもらいたい」と願っています。ところが、子どもの夢を後押しする「手段」であるはずの受験が、いつの間にか子育てのゴールにすり替わってしまうことが多いのです。
子どもの「好き」「やりたい」を見逃さない
「受験をする理由が見つからない」「何のために勉強するのか分からない」「将来何になりたいのか分からない」そんな場合は、受験からちょっと離れて、子どもの「好き」や「やりたい」に目を向けてみてください。
私は日本、アメリカ、中国で教育に関わり、たくさんの親子を見てきましたが、国籍や人種に関わらず、優秀な子どもを育てている親は、例外なく、勉強以外の「特技」を子どもに与えています。勉強以外のことに本気で取り組む経験が、子どもの「やる気」を伸ばし、結果として勉強面にも良い影響を与えることを知っているのです。
子どもの「好き」「やりたい」は自発的な「やる気」の源です。親の仕事は子どもの「好き」「やりたい」を見つけて応援すること。好きなことをとことん追求させて高いレベルに引き上げてあげると、やるべきこと(勉強など)も自分でできる子どもに育ちます。
たとえば絵を描くことが好きな子であれば、上手に描けた絵を額縁に入れて家中に飾ったり、コンテストや絵画展に出品して周りから評価してもらえるように環境を整えてあげます。もちろん絵画教室に通わせて技術を高めるサポートも充実させます。
自分の作品が周囲から認められ、賞状を貰ったり、ママ友や親戚から「◯◯ちゃんは本当に絵が上手ね」とほめてもらうと、子どもの自信は大きくなり「自主的なやる気」がさらに伸びていくのです。
コンピューターに興味がある子ならば、プログラミング教室やロボティック教室に通わせて、知識と技能を高める環境を作ってあげます。すると周囲から「コンピューター博士」と認めてもらえますから、子どもは「自主的なやる気」で技能と知識を伸ばしていくようになるわけです。
親が子どもの「好き」や「やりたい」を見つけて、それを伸ばす環境を作ってあげると、子どもの自信は大きくなります。そしてその自信が「自主的なやる気」につながっていくのです。
子どもの「好き」の見つけ方は?
子育てで大切なことが、子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えることです。理想を言えば、時間にゆとりがある小学校時代に「好き」「やりたい」を徹底的にやらせて「自主的なやる気」を大きく育ててあげてください。
子どもが「何が好きなのかわからない」という方は、遊んでいる様子を観察してみてください。何をするのが好きか、どんなことに興味があるか、どんな場所で、誰と、どうやって過ごすのが好きなのか、すぐに分かります。
外で思い切り身体を動かすことが好きな子どもでしたら、父親や知り合いに頼んでスポーツを紹介します。サッカー、バスケットボール、テニス、水泳体操、いくつかの異なる種目に挑戦させて、どんな分野に向いているのか、子どもの「適性」を見極めてください。
家の中で絵を描いたり、レゴを組み立てたり、本を読んだり、一人で遊ぶことが好きな子どもでしたら、親も一緒に絵を描いたり、クラフトをしたり、パズルに取り組んだり、お菓子を作ったりしてみましょう。
歌やダンスなどを人前で披露することが好き、人を笑わせるのが好きという目立ちたがり屋の子どもでしたら、ダンス、カラオケ、楽器演奏、マジックなどを披露する場を作ってあげってください。人前でパフォーマンスする緊張と楽しさを経験させてあげるのです。
子どもの「好きなこと」に親が付き合っていると、子どもの「得意」が見えてきます。たとえば、子どもと一緒にゲームをやってみると「手先が器用で、細かい作業が得意なこと」が分かります。
子どもの「得意」をゲームをするだけで終わらせずに、積極的に伸ばしてあげましょう。プラモデルを作ったり、ジグソーパズルで遊んだり、科学キットで機械作りに挑戦させたり、ゲーム以外の「手先を使うこと」に取り組ませてみると、それまで気づかなかった子どもの「強み」が見えてくるはずです。
「手先が器用」というのは才能なのです。誰もが平等に持っている能力ではありません。でも親がそれに気づかず「ゲームばかりしないで勉強しなさい!」と否定していると、子どもは自分の能力を活かすことができないのです。
親が子どもの「得意」を見つけて応援してあげると、子どもは「得意」をより強く意識するようになり、その部分が伸びていきます。そうなったら「得意」に関連する習い事や競争会、たとえばレゴリーグやプログラミングなどに参加させて、技能に磨きをかけていけばよいのです。
勉強以外の「強み」が自己確立には不可欠
子ども時代を受験勉強だけで過ごしてしまうと、青年期になった時に「自分は何がしたいのか?」「自分は何ができるのか?」「自分はどう生きたいのか」というアイデンティティをスムーズに確立することが難しくなります。
スポーツ、音楽、アートなどに本気で取り組んできた子どもは、自分の「才能」や「能力」を自覚できるようになるのです。たとえば、サッカーを真剣にやってきた子は、自分はどのポジションに向いているのか、自分はどの面が優れているのか(優れていないのか)、チームの中でどういう役割なのか、自分自身についての理解を深めることができます。すると人生の重要な選択においても、自分が何に向いているのか、何ができるのか、現実的で明確な目標設定がしやすくなるのです。
「強み」を持つことの大切さは、大人になれば誰もが痛感しますが、子ども時代にはなかなか気づくことができません。だから人生の先輩である親が子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えてあげなければならないのです。
「人生の目標は大人になってから見つければいい!」「小学校の時に夢や目標はなかったけど、今は立派に生きているぞ!」という人もいるかもしれません。しかし、時代は変わりました。著しいスピードで変化するグローバル競争社会でそんな悠長なことを言っていては、周りから取り残されてしまいます。
小学校時代に受験勉強しかしてこなかった子どもが、中高生になってから「強み」を持つには大変な時間と努力が必要です。たとえば、中学になって部活で初めてスポーツに関わった子と、小学校時代を通してスポーツに真剣に打ち込んできた子の間には、既に埋め難い「差」がついているのです。
自分のキャリア選択も同様です。大学進学の時点で自分の目標が明確な子どもは、自分のやりたいことに合わせて学部を選択します。大学名も大切ですが、それ以上に学部名で進学先を考えられるようになるのです。
当然入学してからも自分の目標実現のために努力を継続しますから、回り道することなく、自分に必要な知識を身につけ、キャリア形成に必要な職能経験(インターンなど)を積み重ね、就職活動の時点で、既に頭一つ抜け出すことができるのです。
一方で何となく大学に進学した、名前だけで大学を選んだという子どもは、自分が何をしたいのかわからず、何に向いているのかわからず、学業に身が入りません。目的を持って勉強に励む周囲の学生と比較して劣等感すら感じるようになり、気を紛らわすために遊んで過ごすという学生も少なくありません。
好きなことが見つかれば、勉強は心配ない!
私はアイビーリーグ大学出身の若手エリートたちにインタビューをしたことがありますが、「小学生の時は好きなことばかりしていた!」という回答が多くて驚きました。遊んでばかりいたということではなく「スポーツや音楽やコンピューターなど、自分がやりたいことを好きなだけやっていた」という意味です。
この子たちが本当に好きなことばかりして、勉強をしていなかったかというとそんなことはありません。でも「好きなことばかりしていた」と言うのです。この答を聞いた時に「できる親の成せる技!」と思わずうなってしまいました。
親が子どもの「好き」を見つけて、思い切りやらせてあげると、子どもは勉強などの「やらねばならないこと」についても「自主的なやる気」で取り組める前向きな性格に育つのです。
子どもの「やる気」を大きくすれば、受験やキャリア形成がスムーズに進むことはもちろん、人間関係や趣味などにも積極的になります。つまりより自分らしく、豊かな人生を歩めるようになるのです。
子ども時代に「強み」を持つことは人間形成全体にプラスの影響を与えてくれます。スポーツ、音楽、アート、演劇、何でも構いません。子どもが本気で取り組める「何か」を見つけてあげて下さい。
【編集部より】
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2203年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。