ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | 語彙, 読書
2023年6月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.144 | ボキャブラリーを育てる
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2306
船津徹「ボキャブラリーを育てる」(株式会社 児童英語研究所、2023年)
アメリカの学校に通うバイリンガルの子どもが共通してぶつかる問題が語彙力の弱さです。アメリカの小学1年生が「認知できる語彙数」は約6000語と言われています。小学2年生で8000〜13000語。小学2年生以降は毎年3000〜4000語が加算されていき、高校までに平均約45000語のボキャブラリーを獲得することが目安とされています。
英検1級合格に必要な語彙数が10000〜15000語ですから、英語がペラペラなバイリンガルと言えども、ネイティブと同レベルの語彙力を獲得することは簡単ではありません。バイリンガルの子どもは学校では英語を話し、家庭では日本語を話します。そのため、日本語も、英語も、単一言語環境で育つ子どもに比べてインプットが不足する傾向があります。
語彙力不足の原因は読書不足
バイリンガルの子どもに起こる語彙力不足を補うためには「読書量」を増やすことが必要です。世界中のどの言語でも、日常会話で使う語彙数は多くて「1000単語」と言われています。「話すことが大好き!」という子であっても、会話だけで、毎年、新しい言葉を3000語も獲得していくことは不可能なのです。毎年3000語を新たに獲得していくためには、学校の授業に加えて、家庭でも「読書」を通してボキャブラリーを強化する作業が必要です。
「うちの子は本好きですが、ボキャブラリーが弱いです」という相談を受けることがあります。そのような子どもは「偏った読書」をしています。読書を子ども任せにしていると、好きな作家の本、好きなジャンルの本に読書が偏ってしまいます。新たなボキャブラリーを獲得していくには「幅広い読書」が必要です。自然科学や科学技術の本、政治や経済に関連する本、歴史や偉人伝など、子どもの年齢に応じて多様な分野の本に興味が持てるように導いてあげましょう。
言葉には「生活言語」と「学習言語」があります。日本では英語力といえば「生活言語」を指す場合がほとんどです。「英会話ができる=英語ができる」と思っている人が大多数だと思います。しかし実際には、言語能力が高い人は「学習言語力が高い人」なのです。
学習言語力というのは「思考の道具になる言葉」です。日常会話のようにオートマチックに使う言葉でなく、読書や学校の授業、自習を通して子どもが思考し、「能動的に獲得していく言葉」です。学習言語力が弱いと、授業の内容がわからない、先生の指示がわからない、抽象的な語彙や複雑な文章になるとさっぱりわからないということが起こるのです。
事実、アメリカで暮らすバイリンガルの子どもの多くが小学3〜4年生になると算数の文章題で苦労するようになります。計算は得意でも文章になると趣旨がわからない、何をどう答えていいのかかわからくなってしまうのです。同様に、社会や理科で「抽象語」や「概念語」が出てくると、言葉の意味が理解できないということが起こります。
子どもがアメリカの学校に通い「英語ペラペラになったからもう英語は大丈夫だろう」と、学習英語力のサポートを怠ると、学校の授業についていけなくなっていくのです。家庭で親が目を向けるべきは「学習言語力」の発達です。
学習言語力の弱さは海外で暮らすバイリンガルの子どもだけの問題ではありません。日本でも「9歳の壁」と呼ばれ、小学3〜4年生になると学力低下現象が起こりますが、これも「学習言語力」のサポート不足が原因です。子どもに高度な言語力(思考力)を与えたければ、家庭でも「幅広い読書」を行い、豊かな語彙力の土台を構築してください。
子どもを本好きに育てるには?
子どもの学習言語力を伸ばすには「読書活動」が必要なのですが「本嫌いの子ども」にはどう対応すればよいのでしょうか?
本嫌いの子に共通するのが「面白くない」「読んでも頭に入らない」というものです。なぜ本の内容を楽しめないかと言うと想像力を働かせてイメージすることが苦手だからです。その結果、ストーリー理解や感情移入が深まらず、本の世界の面白さを体験することができないのです。
イメージ化の力を育てるには「読み聞かせ」が効果的です。親が本を読んであげると、子どもは物語を頭の中に具現化して、まるで映画を見ているかのようにイメージの世界を楽しむことができます。この経験が多いほど想像力が豊かになり、読書を楽しめる子どもに育ちます。
子どもに英語教育を実践している家庭でも「読み聞かせは日本語で」行ってください。日本語で培ったイメージ力は英語にも応用されます。日本語でイメージ力が豊かな子は英語のイメージ力も高度に発達しやすいのです。
日本の昔話、イソップやアンデルセンなど西洋の童話や寓話、世界の偉人伝などを「毎日」読んであげることで子どもは「語彙力」を高め、「イメージ力」を伸ばしていくことができます。親にとっても努力が必要になりますが、子どもの学習言語力を伸ばすための努力ですからぜひ実践してください。
また、幼い子どもは何度も同じ本を「読んで、読んで」せがんできます。子どもが新しいボキャブラリーを定着させるには、同じ単語を4回〜12回繰り返し聞く必要があると言われています。ですから、子どもが「読んで!」と言ってきたら語彙力を伸ばすチャンスだと思って付き合ってあげてください。
アメリカで行われたある研究で、親が1日5冊の本を読み聞かせて育った子どもは、読み聞かせをしてもらわなかった子どもよりも「約140万語」多くの言葉を聞いて小学校に上がることがわかりました。小学校入学時点で140万語の理解力の「差」が生まれているのです。
子どもが小学生になり、自分で本を読めるようなると読み聞かせをやめてしまう家庭が多いですが、読み聞かせは小学生になっても継続してください。子どもは自分で本を読む時は「読むこと」に多くのエネルギーを要しますが、親が読み聞かせをしてあげると安心して「イメージの世界」を楽しめるようになります。
最初に読む本はイラストが多いもの
日本では多くの親の目の敵であるマンガですが、本を読み始めの子どもにとっては優れた日本語の教科書です。事実、海外在住者にはマンガを読むことで日本語を身につけたという人がたくさんいます。マンガはイラストがありますから内容理解がしやすい上、漢字にルビがふってありますから、日本語が未熟な子どもの読書訓練には最適な教材です。
子どもが好きなスポーツや活動に関するマンガ、知的好奇心に合ったマンガ、年齢に合ったマンガなどを(親が)見つけてきて、紹介してあげましょう。トイレなどに置いておくと子どもが自分で手にとって読むようになります。日本のマンガには様々なトピック(歴史、文化、科学など)がありますから、それらを読むことで新しい語彙を獲得する助けになります。
また、自分で(マンガ以外の)本を読み始めた子どもには「音読」がお勧めです。音読は読書スピードを向上させ、イメージ化を補助してくれます。音読をする時、子どもは自分が読んでいる声を自分の耳で聞いています。「読む」と「聞く」を同時に行うことでイメージ化がしやすくなり、内容理解が深まるのです。
音読は子どもにとって疲れる活動です。ですから子どもが音読する時は親が聞いてあげてください。親が横について聞いてあげることで子どもは感情を込めて、上手に読めるようになっていきます。子どもの読み方がぎこちないという場合は親が抑揚をつけて読んであげてください。棒読みから感情を込めて読めるようになると、さらにイメージ化が促進され内容理解が深まっていきます。
音読は、1)読書スピードの向上、2)イメージ化の補助、3)語彙力の強化の三つを同時に訓練できる優れた学習法です。最近は音読を取り入れる家庭は減っていますが、子どもの読書教育の一環として実践することをお勧めします。
少し前までの日本では「音読」が当たり前の勉強法でした。明治初期に東北から北海道を一人で旅行したイギリス人女性イザベラ・バードは、その著書の中で「夕方になると、ほとんどの家から、予習をして本を読んでいる声が聞こえてくる」「晩になると学課のおさらいをする声が一時間も町中に聞こえてくる」と、訪れた先々で子どもたちが音読している様子を書いています。
音読の効果は科学的にも証明されています。音読している人の脳波を測定した所、記憶や思考、判断などを司る脳の前頭前野が活性化されること、記憶力が向上することが明らかになっています。このシンプルで優れた学習法を「語彙力」と「読解力」の強化に活用してください。
「音読」は英語力の向上にも大きな効果があります。簡単な文法で書かれた本(リーダーズと呼ぶ)を音読することで、英語を英語で理解する力を育てることができます。さらに、音読する時は自分の口で英語を話し、自分の口で英語を聞いていますから、読む、話す、聞くという英語の技能を同時に訓練することができるのです。子どもの発音やイントネーションがぎこちないという場合はYouTubeを活用しましょう。読んでいる本のタイトルを検索するとネイティブが朗読している動画が見つかるかもしれません。
英語の学習言語力を強化する方法は?
英語の語彙力を向上させ、学習言語力を手っ取り早く強化する方法が「サイトワーズ」です。サイトワーズは「英語の頻出単語」で、英語の本や学校の教科書によく出てくる単語を、よく使われる順に覚えていくシンプルな学習です。
サイトワーズにはいくつか異なるリストがあります。アメリカの小学校で広く使われているのが「Dolch Sight Words」と呼ばれる約300単語のリストです。英語の本の「65〜70%は300語のサイトワーズ」で構成されていると言われています。つまりDolch(ドルチ)サイトワーズを覚えることで、あらゆる本の7割が読めるようになるのです。
Dolchの次にメジャーなサイトワーズリストが「Fry Sight Words」です。こちらは1980年に最新版が発表されました。Fry(フライ)サイトワーズリストには小学3年〜高校1年生までの教科書で頻出する「1000単語」がまとめられています。この1000単語を覚えると、あらゆる英語の本、新聞、ウェブサイトの「90%以上」が読めると言われています。
オーストラリア(イリギス英語)の小学校でよく使われる単語をまとめたものがOxford Wordlistと呼ばれる500単語のリストです。このリストのオリジナルは2007年に発表されましたが、2017年にアップデートされており、現在、最も新しいサイトワーズリストです。
サイトワーズはフォニックスのように文字を拾い読むのではなく、単語を一目で読めるように教えます。つまり「dog」であれば「ド」「オ」「グ」と分解せずに「ドッグ」と読み方を教えます。
サイトワーズは「読めて書けること」が大切ですが、小学生以下の子どもに教える時は「読むこと」を優先してください。小学以上の子どもに教える場合は「読むこと」と「書くこと」を同時に教えてください。
サイトワーズは丸暗記が原則であり、大多数の子どもにとって楽しい学習ではありません。小学生以下の幼い子どもにサイトワーズを書くことを要求すると英語学習そのものを嫌がるようになるケースがあるので注意してください。
最近はサイトワーズを楽しく学べるアプリが多く開発されています。スマートフォンで「Sight Words」「Sight Words Apps」「Sight Words Games」と検索してみましょう。たくさんのアプリやゲームを見つけることができます。これらを活用して「面白くないサイトワーズ学習を楽しくする工夫」をしてください。またYouTubeで「Sight Words」と検索すればネイティブ発音でサイトワーズを学べる動画を見つけることができます。テクノロジーを駆使してサイトワーズ学習に家庭でも取り組んでみてください!
サイトワーズの次はリーダーズの多読
サイトワーズを一通り学んだ次のステップが「英語多読」です。ドルチサイトワーズの300語を覚えたら簡単なリーダーズ(レベル別の薄い本)を与えて読ませてみましょう。ここで重要なのが「本の選び方」です。いきなり分厚いペーパーバックを与えても子どもが読めるはずがありません。それどころか英語の本嫌いにしてしまうことがあるので「難易度」にはくれぐれも配慮してください。
英語の本には単語や文法が簡易化された「リーダーズ」と呼ばれる「やさしくて薄い本」がたくさん販売されています。リーダーズは子どもが読書力(学習言語力)をつけるために作られた本で、少しずつ難易度が上るように単語や文法に制限をつけて文章が書かれています。
まずは「超やさしい本」からスタートすることで、子どもに過剰なストレスを与えることなく英語の本の世界の楽しさを味わわせることができます。また「自分で英語の本が一冊読めた!」という成功体験を積み重ねることができます。
リーダーズの内容は、名作文学、映画や演劇の原作、自伝、ミステリー、コメディー、SF、ノンフィクションなど多種多様であり、子どもの好みや興味に合った本を選ぶことができます。
世界的に有名なリーダーズといえば、Pearson English Readers(旧ペンギンリーダーズ)です。Pearsonのウェブサイトでは、年齢、レベル、ジャンルなどを入力して本を検索するシステムがあります。これを活用することで子どもにベストマッチの本を見つけることができます
Pearsonリーダーズは、単語数200語(英検4級レベル)から、単語数3000語(英語準1級レベル)まで、7レベルに分かれています。まずは今の子どもの英語レベルよりも1ランク低い本からスタートすることをお勧めします。最初から難易度の高い本にチャレンジすると挫折することが多くなります。
Pearsonリーダーズには、英語を始めたばかりの子ども向け(幼児〜小学低学年対象)のシリーズもあります。人気アニメのキャラクターが登場する本、グリムやアンデルセン童話など、子どもに人気のストーリーが豊富にありますので、年齢の小さいお子さんの英語教育にも活用できます。
まだ学習英語力(リーディング力)の育成をスタートしていないという方は「TLCフォニックス」がお勧めです。「フォニックス」と「サイトワーズ」を通して「学習英語力」を鍛えるオンライン学習教材です。ご興味ある方は無料トライアルにお申し込みください。
【編集部より】
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2306年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。