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2025年1月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.162 | 英語にお金と時間をかける価値はあるのか?
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2501
船津徹「英語にお金と時間をかける価値はあるのか?」(株式会社 児童英語研究所、2025年)
子どもの習い事で常に人気トップ3に入るのが「英語」です。しかし、本当に英語教育にお金と時間をかける意味があるのでしょうか。日本よりも一足先に英語教育改革を行い英語力向上に成功した韓国の例を見ながら考えていきます。
20年前までは日本と並んで「英語下手」で知られていた韓国ですが、ここ20年で急速に英語力を伸ばしています。2017年のTOEFL iBT平均スコアを見ると、アジア29カ国中11位と、英語が公用語である香港と肩を並べるレベルまで英語力を向上させています。同年の日本のスコアは29カ国中27位で、過去20年間、下から3〜4番のままです。
通貨危機でグローバル化に飲み込まれた韓国
韓国が本気で英語と向き合うきっかけとなったのが、1997年に起きたアジア通貨危機です。通貨危機で韓国ウォンが暴落。外貨建て債務が膨れ上がり経営難に陥った韓国企業は生き残りをかけてグローバル化に着手しました。この改革は成功し、サムスン電子、現代自動車、LG電子などが国際プラットフォームで活躍するグローバル企業へと躍進したことは記憶に新しいと思います。
企業のグローバル化に伴い、韓国の大企業に就職するためには「高い英語力」が要求されるようになりました。たとえば、サムスン電子に採用されるにはTOEIC900点以上、かつ、英語圏への留学経験が当たり前と言われるほど高度な英語力が求められるようになりました。
ウォン暴落が企業のグローバル化を加速させ、もともと世界一教育熱心で知られる韓国人の親たちの「英語熱」に火をつけたのです。韓国の裕福層は早期留学をさせたり、英語学院と呼ばれる英語塾に毎日子どもを通わせるなど、私教育を充実させることで子どもの英語力をどんどん強化していきました。
その一方で、そこまで英語に教育費はかけられない中間層以下の家庭の子どもたちは学校教育頼みのままであり、結果として、家庭の経済力による「英語力格差」が広がっていったのです。
韓国の例は他人事ではありません。日本でも急速な「円安」が進んでいます。日本の基幹産業である自動車や家電企業も簡単に外資のターゲットにされる時代です。もはや大企業だけでなく中小企業もガバナンスと人材の世界標準化を進め、マーケットを世界に広げていかなければ生き残ることができないのです。
すでに多くの日本企業が国籍や人種を問わず、英語ができる人材を積極的に雇用し始めています。同時に日本人の間で「英語力格差」が広がっています。この動きはますます加速し、英語力の有無によって就職、転職、キャリア形成、さらには人生設計において大きな差が生じる時代が到来しつつあります。そんな「英語格差時代」を、これからの子どもたちは生き抜いていかなければならないのです。
英語力が所得を左右するグローバル社会
グローバル社会の共通言語は「英語」です。研究、ビジネス、エンターテイメント、政治、あらゆる分野において「英語ができる人が有利になる」ことは言うまでもありません。先日、真田広之さんが主演およびプロデュースを務めたドラマ『SHOGUN』がアメリカのエミー賞で作品賞を受賞し、大きな話題となりました。真田広之さんは制作スタッフや共演者とのコミュニケーションをすべて英語で行い、さらに海外メディアからの取材にも英語で対応しています。このように、世界的な成功の要因の一つとして「英語力」が重要であることは間違いありません。「英語ができると所得が増える」という記事が2012年8月9日付けの「THE NATION」誌に掲載されました。Education First社が英語力と所得の関連について世界40カ国、200万人を対象に分析したところ、英語の熟達率が高い国ほど国民総所得が高いことが分かりました。
また「英語力が高い国ほど経済力が高い」という記事がハーバードビジネスレビュー誌(2013年11月15日付)に掲載されました。英語力と経済力を調査した所、英語力が高いとされた60カ国ほぼ全てにおいて、国民総所得と国民総生産の向上が確認できました。ちなみにアジアではシンガポール、香港、マレーシアなどが英語力の高い国に分類されます。
同誌は、その理由を「英語力が高くなる→収入が高くなる→政府や個人が英語力をさらに伸ばすために英語教育に投資する→英語力がさらに向上する→収入がさらに上がる」という好循環が生まれるためと分析しています。
「グローバル就活」という言葉をご存じでしょうか?グローバル化が進む現在、多くの企業が採用対象を世界規模に広げています。たとえば、日本企業が英語ができる優秀なアジア人材を採用したり、海外の企業が英語ができるアジア人材を積極的にリクルートしたりしています。英語ができることで、国内の就職活動で優位に立てるだけでなく、海外での採用機会も大きく広がるのです。
「ボストンキャリアフォーラム」はアメリカのボストンで開催される留学生やバイリンガル学生向けの就職イベントです。就職イベントと言っても実質は「英語ができる学生を青田買いする場」です。グローバル化を進める日本企業はもちろん、国際プラットフォームで活躍する外資系企業が一同に集まり、学生のリクルートを行ないます。
ボストンキャリアフォーラムの3日間で内定が出るのは当たり前。うまく自己アピールできれば世界トップ企業への就職が即決することも珍しくありません。英語ができると就職で有利(より良い企業に就職でき)になり、その結果、所得が増える(可能性が高まる)のです。
どの程度の英語力が必要になるのか?
どうしたらCEFR B2を達成できるのか?
ではどうしたら(海外留学せず)CEFR B2レベルに到達できるのでしょうか?これに対して私は明確に答えがあります。それが「英語多読」です。日本の英語教育では「英語を読む訓練」がほとんど行われていないため、英語学習の効率が上がらず、語彙力が増えず、読解力が育たないのです。
「英語の本を一冊読み切った!」という人が日本にどれだけいるでしょうか?作家の村上春樹さんは、英文学の翻訳をしたり、英語で講演するほど高度な英語力を身につけていますが、学生時代は英語が得意ではなかったそうです。しかし、好きな洋書を読み漁ることで高度な英語力を獲得できたと言っています。
私の30年の指導経験からも言えますが、「CEFR B2レベル」に到達できる最も確実な学習法は「英語多読」です。英語多読といっても村上春樹さんのようにペーパーバックをひたすら読む「修行」は必要ありません。今は英語を第二言語で学ぶ子ども向けに「リーダーズ」と呼ばれる短い、読みやすい本がたくさん開発されています。リーダーズを読むことで(誰でも)高い英語力を身につけることができるのです。
英語多読の一番のメリットは自学自習できることです。英語の本があれば、いつでも、どこでも、いくらでも英語学習をすることができます。英会話のように話し相手は不要ですし、英語の先生から講義を受ける必要もありません。
日本では英語ができる人=英会話ができる人というイメージが強く、英語学習の重点が英会話に偏りがちです。しかし、CEFR B2レベルの高度な英語を目指すのであれば、英会話から「英語多読」へ学習方法を変えることが重要です。
リーダーズの多読は日常的に英語を話す機会がない日本人にとって極めて有効な学習法です。やさしくて短い本を一冊、また一冊と読み進めることで、「英語の本を読み切った!」という成功体験を積み重ねることができる上、効果的に英語の全技能を向上させていくことができます。
英語多読を成功させるカギは音読練習
NAEP(National Assessment of Education Progress/全米学力調査)は全米規模で定期的に行われている児童・生徒の学力測定です。その時々に関心の高いテーマについての調査・計測をする他、長期的な学力のトレンドや州別の学力到達度などが公表されることから「国民の成績表」と呼ばれています。
2018年にNAEPは小学4年生の「口頭での読みの流ちょうさ」を調査しました。(The 2018 NAEP Oral Reading Fluency Study)自動音声分析システムを使用して、児童がテキストを音読する様子をAIが測定したところ、「読みの流ちょうさと読解力に相関関係があること」がわかりました。
NICHD(国立子どもの健康と発達研究所)所長リード・リヨン教育学博士(Reid Lyon)は、読みの流ちょうさと読解力の関係について次のように述べています。「自転車に十分なスピードで乗らないと転ぶのと同様、読み手が十分なスピードで文字を認識できなければ、意味が失われてしまう。読んだ内容を思い出すことができず、ましてや読んだ内容を自分の経験や背景知識と関連付けることなどできない」
英語多読を成功させる前提として「英語をスラスラと流ちょうに読めること」が必要です。近年、日本の国語教育においても「音読が読解力を高める」ことが知られてきましたが、英語も全く同じです。英語力を伸ばしたければ、単語や文法ルールを覚える以前に「英語を流ちょうに読む練習」をすれば良いのです。
日本の学校教育では「いかに流ちょうに英語を読むのか」はほぼ100%生徒に任されています。その結果「自己流の英語の読み方」が身についてしまい、読書スピードが上がらず、英語力が伸び止まってしまうのです。
今はネイティブの英語講師を雇わなくても、英語圏に留学しなくても、インターネットを活用すれば、ネイティブの本の朗読音声や動画を視聴することができます。これらを上手に活用することで、経済的に恵まれない家庭の子どもでも、高度な英語力を身につけることが実現できるのです。
まとめますと、子どもの英語にお金と時間をかける価値は間違いなくあります。ただ英語に取り組ませる場合、学習方法への配慮が必要です。英語の本を流ちょうに読む訓練からスタートし、英語多読へ導いていく。この順序で英語に向き合えば、日本人も世界標準の英語力に近づくことができるはずです。
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2501年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。