ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | アイデンティティ, 子育て論
2013年11月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.29 | バイリンガルとアイデンティティ
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal1311/
船津徹『バイリンガルとアイデンティティ』(株式会社 児童英語研究所、2013年)
海外で暮らすバイリンガルの子どもは、二つの言葉と文化の狭間で成長していきます。彼らは成長の中で、多かれ少なかれ、アイデンティティの揺らぎを経験します。自分は日本人なのかアメリカ人なのか、集団主義と個人主義どちらの価値観で行動すべきなのか、日本文化とアメリカ文化、どちらを優先すべきなのか。異文化へ適応する道のりは、自己を見つめ、アイデンティティを確立していくプロセスでもあります。
国際社会では、多様な背景を持つユニークな個性こそが尊重されます。日本で育つ子どもは、なかなか自己の文化やアイデンティティを深く見つめるという機会を持てないかもしれません。しかし、将来子どもを国際社会で活躍できる人材に育てたければ、日本人である自己に気づき、誇りを持たせること。そして、日本以外の文化や価値観にも多く触れる機会を作ってあげることが必要です。
|多文化意識を持った子育てが大切
日本からアメリカに移り住んできた家庭で、一番苦労するのは学校に通う子どもたちです。家庭では日本語を話し、日本的な生活をしていても一歩外はアメリカ。学校ではアメリカ的個人主義、アメリカ的合理主義に基づいた教育が与えられ、子どもたちはアメリカ式の行動様式でふるまうことが期待されます。これは子どもにとって大きなストレスでありカルチャーショックです。
子どもを異文化にスムーズに適応させるには、まず親自身が、自分の文化と異文化を客観的に観察し、両者のよい点を積極的に受入れる態度を持つことが必要です。親の文化観が偏っていると、子どもはどの文化に対しても誇りを持てなくなります。異質な文化を受け入れる前提は、自文化への誇りを持つことです。自己への自信があるから他者を受け入れる余裕が生まれるわけです。
世界は異質なものから成り立っていて、文化や習慣に上下や優劣はない。自分の文化を大切にするのと同じように他者の文化も尊重する。そんな多様な価値観に触れる機会を日常生活の中でたくさん経験させることが大切です。
| 欧米流の子育て文化に学ぶ
日本と欧米のコミュニケーション方法には大きな違いがあります。欧米では自分の意見や考えを表現しないと「理解していない」「表現する能力がない」と判断されてしまいます。子どもに国際性を身につけさせる第一歩として欧米流の子育てを少し勉強してみましょう。
(1) 子どもの人格を認める
欧米では子どもといえども「一人の人格者」として扱います。子どもの意見や考えを尊重し、一人前に扱うことによって自立心を育てます。同時に一人の人格者としてのマナー、エチケット、道徳など社会的責任を教えます。欧米の子育ての根底にあるのは自立心の強い子どもに育てることです。
(2) コミュニケーション能力を育てる
コミュニケーション能力の育成は、家庭教育で最も重視されます。幼い頃から自分の考えを言葉で伝えることが訓練されます。親は子どもの話を真剣に聞き、同時に子どもは相手の話をしっかり聞くことが要求されます。意見の衝突があった時には当事者の話し合いによって解決することを学びます。
(3) 自主的な積極性を育てる
自主的な積極性がなければ、欧米社会で生き抜くことはできません。幼い子どもでも自分でできることはやらせます。また自分でしたいことを子どもに選ばせ、やらせます。親はできるだけ手出し口出しをせずに見守ることで子どもの自主性、積極性を育てます。
(4) 家事分担で社会性を育む
欧米社会はコミュニティの一員として自覚と責任ある行動が強く求められます。家事の手伝いを子どもに分担させることで、家族の一員としての自覚と社会性を育てます。また手伝いの報酬として小遣いを渡すことで労働の意味と価値、金銭感覚を育てます。
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2001年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。