ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | 子育て論, 論理的思考力
2018年11月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.89 | 非認知スキルを鍛える!
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-1811
船津徹「非認知スキルを鍛える!」(株式会社 児童英語研究所、2018年)
グローバル化、IT化、ロボット化など社会構造の変化に対応するため学校教育は大きな転換期を迎えています。日本でも2020年から小学校で英語が教科となり、プログラミング学習が必修化されます。さらに「アクティブラーニング」「ロジカルシンキング」など「考える力」の育成も小学校から取り入れる機運が高まっていますから、これからの子どもたちは大変です!
| アメリカの教育の変遷
アメリカの学校教育も社会構造の変化に対応するために、ここ20年で大きく変わりました。一昔前の主要教科といえば、1)英語 2)算数 3)理科 4)社会でしたが、現在は「コンピューター教育」、「STEM教育/科学・技術・工学・数学」の比重が年々増してきています。 また「記憶」から「考える力の育成」へとカリキュラムの重点がシフトしました。一例をあげますと、1994年にアメリカの大学入試共通テストであるSATは、英語テストから語彙の記憶問題を減らし、リーディング問題を増やす改革を行いました。同時に数学では計算機の使用が認められ、計算力よりも思考力問題が中心となりました。(2016年改革で英語テストから語彙の記憶問題は撤廃) 社会の変化によって子どもたちが身につけなければならない「スキル」が次々と増えていく中で、今子育てをしている親たちは「何を、いつ、どう教えればいいのか?」大きな不安を感じていることでしょう。
| 社会が変わっても必要な能力は変わらない
でも慌てる必要はありません。世の中がどう変わろうが、どれだけ新しいスキルの必要性が増えようが、学校や社会で成功する子どもを育てるために親がなすべきことは今も、20年後も変わりません。 それが、学力と非認知スキルをバランス良く育てることです。英語では「Well Rounded Education」と呼ばれ、学力に偏らない全人教育の実践が子どもの将来の成功や幸福感に関わることは幅広く知られています。 コロンビア大学が2000人の中学生を対象に行なった調査では、アート教育を受けた生徒は、受けていない生徒に比べて、創造的思考力が高く、学習に対するモチベーションが高いことが分かりました。 笹川スポーツ財団が日本の小学3年〜中学3年を対象に行なった調査では、スポーツ経験がある生徒は、自制心、忍耐力、自己肯定感、目標志向などの「非認知スキル」が高いことが分かっています。
| 非認知スキルとは何か?
非認知スキルとは何か?具体的な指針として私が紹介しているのが、カリフォルニア州立大学名誉教授、アーサー・コスタ博士の「16 Habits of Mind/16の心の習慣」です。コスタ博士の提唱する「習慣」は、勉強だけでなく、スポーツやアートなどの「課外活動」に参加することで鍛えることができます。
01)やり抜く習慣・・・あきらめない、やり続ける
02)自制する習慣・・・行動する前に考える、落ち着く
03)共感して聞く習慣・・・注意深く聞く、気遣う
04)柔軟に考える習慣・・・見方を変える、別の方法を考える
05)思考を思考する習慣・・・自分の思考の偏りに気づく
06)正確さを追求する習慣・・・見直す、念には念を入れる
07)疑問を持ち問題提起する習慣・・・鵜呑みにしない、根拠は何か?
08)知識や経験を活かす習慣・・・思い出す、以前も同じことが?
09)明晰に考え伝える習慣・・・言葉を選ぶ、はっきり話す
10)五感を使う習慣・・・感じてみる、触れてみる、感性を活かす
11)想像、創造、革新する習慣・・・ユニークであれ、独創的であれ
12)世界の神秘と発見を楽しむ習慣・・・夢中になる、よく観察する
13)チャレンジする習慣・・・勇敢であれ、リスクを冒す
14)ユーモアを見つける習慣・・・楽観的であれ、面白みを探す
15)共に考える習慣・・・協学せよ、殻に閉じこもらない
16)学び続ける習慣・・・興味を持ち続ける、変わり続ける
| 習慣教育で学力停滞校からトップ校へ!
ワイキキ小学校はハワイの小さな公立小学校ですが、コスタ博士の「習慣教育」を導入後、成績優秀な小学校としてブルーリボン賞(アメリカで優れた学校に贈られる最高の栄誉)を07年と13年に2回受賞しました。 ワイキキ小学校は地域に住む子どもであれば誰でも通える普通の公立小学校です。さらに言うと、低所得者家庭が全体の38%、英語を第二言語で学ぶESL生徒が全体の30%と、教育環境としてはかなり厳しい状況です。 ワイキキ小学校は長らく学力停滞に苦しんできました。2003年においては、英語の読解力の習熟度(習熟レベルに達している生徒の割合)が41%、算数の習熟度が28%と、ハワイ州の中でも学力が低い小学校でした。 ところがコスタ博士の習慣教育を取り入れ、劇的に変わることができたのです。2008年には英語の習熟度が83%、算数の習熟度66%を記録。2014年には英語94%、算数93%と、ハワイ州のトップレベルを達成したのです。
| ワイキキ小学校の取り組みとは?
いったい、何をすればそんなことが起きるのでしょうか?ワイキキ小学校の実践はとてもシンプルです。先に挙げた習慣のうち、毎月一つの習慣をテーマに掲げ、学校と家庭が協力して子どもに意識づける、といった地道な活動です。 たとえば「やり抜く習慣」がテーマであれば、授業中にわからない問題に出会ったときに「あきらめないで!」と生徒同士が声をかけ合う。先生も「やり続けよう!」と励ます。家庭でも「あきらめないで!」と声をかけることを取り決めます。 子どもを取り巻く人たちが同じ言葉をかけ続けることで、必然的に子どもの意識が高まるのです。いわば、あいさつのしつけのようなものです。親、兄弟、友達、周囲の人が「おはようございます」と声を毎日かけることで、ごく自然に「おはようございます」とあいさつできるようになりますね。
| 誰でも習慣は変えられる
習慣の力は、家庭の経済環境や家柄、国籍や持って生まれた資質や才能に関わりなく、誰でも訓練によって高められます。ただし誤解してほしくないのは、習慣力は学校や先生主導で鍛えるものではない、ということです。習慣を育てる主役は、あくまでも「親」です。家庭でのコツコツとした努力が子どもに良い習慣を作ります。
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2001年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。