ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | 子育て論, 教育術
2021年9月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.123 | 言葉で伝える技術=ランゲージアーツとは?
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2109
船津徹「言葉で伝える技術=ランゲージアーツとは?」(株式会社 児童英語研究所、2021年)
アメリカの子どもたちは小学校に上がるとランゲージアーツ(Language Arts)という授業を受けます。ランゲージアーツは日本で言えば「国語」の授業なのですが「English」とは呼ばないのです。なぜだと思いますか?
「Art/アート」というのは自分の思いを「伝えること」です。英語では、絵画・造形・写真など目に見える形で伝えるものを「Visual Arts」、歌や楽器などメロディーやリズムで伝えるものを「Music Arts」、ダンスや演劇など、身体の動き・表情・セリフを通して伝えるのを「Performing arts」と言います。
ランゲージアーツは「言葉で思いを伝える技術」です。単に新しい単語を覚えたり、作文を書いたりするだけでなく、「聞く」「読む」「話す」「書く」の四技能を通して、いかに自分の思いを正確に「伝えるのか」、その技術を指導することがランゲージアーツの目的です。
国際社会では言葉で伝える技術が求められる
アメリカは、多文化、多民族、多言語が混在する多様性の高い社会です。そこで人々がスムーズに意思疎通をし、快適な社会生活を送るためには、相手に分かりやすい表現で、かつ、嫌悪感を抱かせないように上手に「言葉で思いを伝える」技術が要求されます。英語がシンプルで直接的な表現を好むのは、自分の考えを押し通すためではなく、ミスコミュニケーションを減らすためなのです。
アメリカの学校に通い始めた日本人の子どもが最初に戸惑うのが、この日米の自己表現スタイルの違いです。
YES・NOをはっきり言う、自分の主張を明確にする、自分の考えの根拠を説明するなど、アメリカの学校では常に自分の考えを明確にし、相手にしっかりと伝えることが求められます。
アメリカの学校で、プレゼンテーション、スピーチ、ディベート、エッセイライティングなどを通して段階的に「ランゲージアーツ」を指導するのは、それが社会で必要とされる基本的な生活スキルだからです。
最近は日本でも外国人とコミュニケーションをとる機会が増えています。文化、習慣、価値観が異なる相手と意思疎通を図る時は、自分の思いを明確な言葉に変換し、さらに相手に理解できるように、シンプルかつ筋道を立てて伝えることが重要となります。
あいまい表現を減らす習慣作りが大切
もちろん日本人の子どもだって意見や自己主張を持っています。ただそれを「言葉で表現する」機会が少なすぎるのです。「以心伝心」や「空気を読む」は国際社会では通用しません。必要な時にはしっかりと自分の思いを「言葉で表現できる」ように日頃から導いてあげましょう。
「言葉で表現する」ための良い練習が、親子の会話に「なぜ?」「どうして?」を増やすことです。「◯◯ちゃんはスイミング教室が好き?」という問いに「嫌い!」と子どもが答えたら「なんでスイミングが嫌いなの?」と、すかさず聞き直します。子どもは「水が怖いから」「つめたいから」など、理由を説明してくれます。会話の中に問いを増やし、自分の考えを言葉で説明することを習慣づけるけるのです。
また、できるだけ「あいまい表現」を使わないように意識してください。子どもがゲームを欲しがっています。「みんな持ってるから僕にも買ってよ!」これに対して親は「みんなっていうのは誰?」と聞き返してください。子どもは具体的に「たかし君が持っているから自分も欲しい」と説明してくれます。
「ママ、あれ取って」と子どもが言えば「あれって何?」と聞き返します。
他にも「それ」「何となく」「ちょっと」「いつも」などの、あいまい言葉を子どもが使った時は「ママ分からないからちゃんと説明してもらえる?」と聞き返してください。もちろん親があいまい言葉を使わないように普段から言葉使いには配慮してください。
英語を学ぶと自己主張できるようになる
日米の子どもは、質問に対する答え方に大きな違いがあります。
質問:What do you want to eat for dinner?/夕飯は何が食べたい?
日本人:うーん。ハンバーグかな。やっぱりカレー。
アメリカ人:I want to eat a hamburger because it is yummy./ハンバーガーが食べたい。おいしいから。
質問:Do you like school?/学校は好き?
日本人:うーん。好きな時と嫌いな時がある。
アメリカ人:I like school because I enjoy learning math./学校は好き。算数の勉強が楽しいから。
上記のように英語では「I like〜」「I want〜」「I think〜」というように自分の意思を「私はこうだ!」と最初に表明します。一方で日本の子どもは、自分の意見を「私はこうだ」と主張するよりも「こうかもね」と、にごすことが多いですね。
英語を学ぶことで、日本でのみ通用するあいまい(控えめ)な自己表現に加えて、世界標準の「明確な自己表現」を身につけることができるのです。英語は自己主張がルールですから「私はこれが好き」「私はこうしたい」「私はこう思う」と、まず自分の意思をはっきりと表明しなければなりません。
自己主張をする前提は、「自分を知る」ことです。一般に日本人家庭では子どもの食べ物や身の回りの物を親が選んで与えることが多いと思います。これを「子どもに選択させる」ように転換してみてください。
食後のデザート、おやつ、飲みもの、洋服、靴、カバン、文房具などを子どもに選ばせてみましょう。ポイントは選ばせた後に「何でそれを選んだの?」と質問することです。すると「何でだろう?」と考える習慣が身につきます。これを習慣づけることで「自分の好き嫌い」が明確になっていきます。
高度なバイリンガルとは?
高度なバイリンガルというのは、日本語と英語の運用能力が優れているだけでなく、日米の文化的な違いにも対応できる人です。アメリカ人と接する時はアメリカ的スタイル、日本人と接する時は日本的スタイルというように、相手に合わせてコミュニケーションスタイルを切り替えることができます。
日本で育つ子どもは、両親から「和」を重視する日本的なコミュニケーションスタイルを継承します。集団内の人間関係を良好に保つことを優先し、率直に意見を言うことを避けたり、年上や目上の人に対して直接的な表現を控えるようになります。
もちろん日本的コミュニケーションスタイルを身につけることは、子どもが日本人社会の中で良い人間関係を築くために必要です。日本人相手にストレートな表現をしたり、年長者に「ため口」を使ったりしたら、すぐに社会からつまはじきにされてしまいます。
しかし日本的なスタイルに加えて、必要な時、例えばアメリカ人と接する時は、世界標準のストレートなコミュニケーションスタイルが使えるように、日頃から「思いを言葉で伝える訓練」を心がけることが大切です。
まずは日本語で構いません。子どもが自分の好きなこと、自分のやりたいこと、チャレンジしてみたいこと、将来の夢などを、しっかりと自分の言葉で語れるように、親子の会話に「質問を増やす」を実践してみてください。
【編集部より】
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2109年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。