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2022年5月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.131 | 日本語の読書力の育て方

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2205
船津徹「日本語の読書力の育て方」(株式会社 児童英語研究所、2022年)


 日常的に「英語を話す環境がない」日本で子どもをバイリンガルに育てるには「英語のリーディング力」を育てることが最高の方法です。子どもは読書を通して、語彙力、文法力、表現力、発音力、リスニング力、読解力など、高度な英語運用能力を「自分の力で」身につけていくことができます。
 でも、どうしたら子どもが英語の本を自分で読めるようになるのでしょうか?
 その答えが「日本語の読書力を育てること」です。
 「英語の話じゃないの!」と思うかもしれませんが、日本語で本好きに育てば英語のリーディング力も育てやすいのです。本を読むという作業は、活字を音声化し、音声から想像力を働かせて内容をイメージすることです。つまり日本語でも英語でもまったく同じ処理プロセスなのです。
 子どもの読書教育で注意しなければならないのが、「活字に対する抵抗感(苦手意識)」を持たせないことです。「難しい」「読めない」「できない」「わからない」という経験を繰り返させないためにも、親の母語である「日本語で」本好きに育ててあげてください。


日本語で毎日読み聞かせを行う

 本好きと英語学習は関係がないように思えますが、高度な英語力を育てる上で「読書力」は絶対に欠かせない要素です。
 本好きに育てば、英語も「読書」を通じて、子ども自身の力で向上させていくことができます。言葉の力は会話の積み重ねで伸びるものではなく、読書によって「語彙力」と「読解力」を鍛えることで豊かになるのです。
 まずは日本語で「絵本の読み聞かせ」を毎日実践しましょう。読み聞かせは子どもを本好きに育てることはもちろん、「音声から想像力を働かせて内容を理解する力」を育ててくれます。
 日本語で育った読書力と読解力は英語にも応用されます。日本語で本好きに育てば英語でも本好きになりやすく、日本語で理解力が高い子は、英語でも高い理解力を発揮できるようになります。
 毎日コツコツと読み聞かせを実行し、子どもを本好きに育てましょう。子ども専用の本棚を作り、好きそうな本を並べておくと、子どもが「読んで!読んで!」とせがむようになります。同じ本を何度も読まされますが、根気強くつき合ってあげてください。
 読み聞かせをする時は「タイミング」に注意しましょう。子どもの情緒は、明るく元気のいい時と、暗く落ち込む時が交互に波のように変化しています。
 「元気 → 落ち込み → 元気 → 落ち込み」と、1日の間にも大きく変動しているのです。
 読み聞かせをするベストタイミングは「元気から落ち込みに入る時」です。活発に遊びたい時に「一緒に絵本を読みましょう」と言っても子どもは逃げていきます(特に男の子にその傾向が強いです)。
子どもの情緒が落ち着いている時、情緒のリズムがスローダウンしてきた時、夜寝る前やお昼寝の前などを見計らって読み聞かせをすると上手くいきます。もちろん子どもが「読んで!」と本を持ってきた時は最大のチャンスですから「あとで!」とは決して言わずに読んであげてください。


文字教育を行い本が読めるようにする

 絵本の読み聞かせに加えて「日本語の文字教育」をしましょう。理想は子どもが小学1年生に上がるまでに「自分で本が読める」ようにすることです。子どもがストレスなく本が読めるようになるには最低1年かかりますから、逆算すると(遅くても)4〜5歳から文字教育を始めることが大切です。
 小学1年生というのは、子どもが人生で初めて「勉強ができる・できない」という評価を学校の先生からされる時であり、自分が「勉強できる・できない」ことを客観的な比較によって知る時です。
 「教科書が読める子はいますか?」という先生の質問にパッと手を挙げられる子は、「自分は勉強ができる!」という自信とプライドを持ち、英語を含めた勉強全般に対して「前向きな態度」を持つことができます。
 家庭で読み聞かせをして、本に親しませ、文字を教えてあげれば、どの子も自分の力で簡単な本が読めるようになります。ただし、家にいる段階では「自分は勉強ができる」と子どもは思っていませんし、勉強に対する自信も大きくありません。
 ところが小学校に通い始めると「勉強ができるね!」「頭がいいね」と先生や周囲からやたらと褒められるのです。「本が読めるのはすごいことなんだ!」と、その時に初めて子どもは実感します。
 「自分は勉強ができる」という自信を持つと「自分から進んで勉強する子」になります。「勉強ができる」というプライドがあるので、今さら勉強ができない子になるわけにはいかないのです。だから人一倍頑張るようになります。
 小学1年生までに「本好き」に育てることができれば、「自分は勉強ができる → 負けられないからがんばる → もっとできるようになる」という「プラスのスパイラル」に入ることができます。すると。英語のリーディングにも前向きに向き合えるようになるわけです。


家庭で読書教育をする手順

 文字を教えはじめる最適期は、子どもが「本に興味を持った時」です。
 一般的には3〜4歳の頃です。この時期の子どもに文字を教える時は「遊び」でなければなりません。くれぐれも「勉強」や「教育」にならないように注意してください。活字への苦手意識を持たせないように慎重に進めましょう。
 文字を教える時は家庭内の文字環境作りが重要です。
 0歳〜6歳の子どもは身のまわりの情報を何でも身につけられる優れた力(環境適応力)を持っています。ですから、ひらがなチャート・カタナカチャートを子どもの目の高さに貼ります。また文字ブロック、文字カード、文字マグネットなど、文字に関連したおもちゃを与えてみましょう。
 子どもの持ち物には名前を書いてあげます。さらに家中の物の名前をカードに書いて貼ります。冷蔵庫には「れいぞうこ」、壁には「かべ」、床には「ゆか」、椅子には「いす」といった要領です。これで文字環境を作ることができます。
 次に文字と音の関係を教えます。
 ひらがなチャートの文字「あいうえお」を指でさしながら一文字ずつ読んで聞かせます。「これは〝あ〟だよ」とは教えず、一つひとつの文字を指し「あ」「い」「う」とはっきりと発音して聞かせます。
 文字カードを並べて子どもの名前を作って読む練習をします。家族全員の名前が読めるように教えてあげてください。
 カード取りゲームで遊びます。ひらがなカードを並べて、お母さんが「あ」と言って子どもにカードを取らせます。「い」と言って、カードを取らせます。コミュニケーションをとりながら遊び感覚で文字に親しませることが大切です。
 ひらがな五十音を覚えたら、「いぬ」「ねこ」「さる」などの二文字言葉の読み方を教えます。文字カードや文字ブロックを使って練習しましょう。
 子どもに文字を教える時は絶対に強制してはいけません。カード取りや言葉遊びを通して親子で楽しみながら教えてください。文字を覚えるのは「ママと遊ぶ楽しい時間」と子どもが感じている状態が理想です。
 五十音(+濁音、半濁音、拗音、促音)を一通り覚えると、子どもは簡単な本が読めるようになります。そうなったら短い絵本(1ページに1行くらいの文字量)を与えて音読練習をさせます。
 もちろん最初は上手に読めませんし、時間がかかります。でも必ず親は子どもが読み終わるまで横で聞いてあげてください。そして読めたら「上手に読めてすごいね。またママ(パパ)にお話を聞かせてもらえると嬉しいな」と伝えてください。
 子どもが一人で本を読めるようになっても「読み聞かせ」は継続してください。自分で読むことに慣れてないと本を読んでも内容理解が伴わないのです。同じ本をお母さん(お父さん)が読んであげるとストーリーの世界に入り込むことができ、理解が深まります。


難しすぎる本を読ませない

 読書嫌いという子どもの多くは「難しすぎる本」を読まされています。子どもの読書レベルや興味に合った本をたくさん読ませなければ、活字に対する抵抗感が取れず、読書スピードが上がらず、読解力が身につかないのです。
 アメリカでは小学1年生になると、毎日本を1冊読むこと。あるいは20〜30分の読書をすることが宿題として義務づけられます。アメリカには子どものレベルに合った簡単な本、20〜30分で読み終わる本がたくさん売られています。これらの簡単な本を多読することによって、子どもは達成感を味わえると同時に、本(活字)に対する抵抗感を取り除くことができるのです。
 小学低学年のうちに大量の読書をさせることが、将来の読解力になることをアメリカの教師たちは経験から学んでいます。読解力を鍛えるには本を読むことが必要です。しかも10冊、20冊では足りません。100冊、200冊と読んだ成功体験が「読める」という自信になるのです。
 また読ませる本の内容についてはとやかく言わないことが大切です。日本では読書というと真面目な本を読まなければいけない、という雰囲気がつきまといますが、アメリカでは子ども向けのふざけた本でも読書は読書です。中にはオムツをつけたスーパーヒーローのような下品な本もありますが、先生や父兄がそれを問題視することはありません。
 本を読み始めの子どもにとって、活字に向き合う作業は多くの集中力と想像力を要するものであり、疲れることなのです。せめて、楽しみというモチベーションがなければ、読書活動を継続することは困難です。子どもが読みたい本であれば、内容に関わらず、どんどん読ませてあげてください。くれぐれも難しすぎる内容、長過ぎる(ページ数が多すぎる)本は与えないように注意してください。1〜2日で一冊読み終えることができる本を選びましょう。


英語のリーディング力を育てるプロセスも同じ

 ここまで読み進めていただいた方は「英語のリーディング力」を育てる方法も全く同じであることに気づかれたと思います。すなわち、以下のステップを踏むことで、子どもに抵抗感を持たせることなく、英語の独力を育てることが可能になります。

1)子どもに英語の音を大量インプットする(日本語の読み聞かせに相当)
2)フォニックスで文字と音の関係を教える(ひらがな指導に相当)
3)簡単で短いリーダーズを音読させる(日本語の多読に相当)


ハワイイメージ1【編集部より】
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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2205年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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