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2024年5月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.154 | 多読を成功させるコツ

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2405
船津徹「多読を成功させるコツ」(株式会社 児童英語研究所、2024年)


 日常的に英語を話す必要がない日本で、実用的な英語力を身につけるには「英語多読」が最も効率的&効果的な方法です。英語多読と聞くと、分厚いペーパーバックを、一字一句辞書を調べながら、長い時間かけて読み解く「修行」を連想する人が多いと思います。しかし、多読の本質は「やさしくて短い本」を辞書なしで読み進める学習法です。日本に昔から伝わる「素読」を思い出してもらうと、英語多読が少し身近に感じるかもしれません。


素読の効果は読解力の向上

 素読とは解釈を加えず「本の文字を声を出して読み上げる」こと。すなわち意味を考えずに本を音読する学習法です。その昔、江戸時代の日本では、早い子は 3歳くらいから、四書五経の素読を、毎日行なっていました。
 明治になっても子どもの勉強といえば「素読」が当たり前でした。明治初期に東北から北海道を旅行したイギリス人女性イザベラ・バードは「夕方になると、ほとんどの家から、予習をして本を読んでいる声が聞こえてくる」「休暇中でも晩になると、学課のおさらいをする声が一時間も町中に聞こえてくる」と、子どもが日常的に素読している様子を「日本奥地紀行」に書いています。
 明治から大正までの日本では「勉強する=素読する」だったのです。ところが昭和に入り、標準日本語が普及してくると、正しい発音で読むことよりも内容解釈が重視されるようになりました。さらに都市化の進行と共に本を声に出さずに本を読む「黙読」が一般的になっていったのです。
 なぜ音読が効果的なのか?その理由は「内容理解が深まる」からです。文語化された言葉を声に出して、文章のまとまりとして読む練習を重ねると、複雑な文章を文法的に捉える力、未知の言葉や抽象的な言葉をイメージ的に理解する力が向上し、内容理解が深まるのです。
 さらに本を声に出して読む時、子どもは自分の声を、自分の耳で聞くことができます。子どもの言語理解は「目」よりも「耳」から先に育ちますから、音読した文章を「耳」で聞くことでより読解力を高めることができるのです。
 子どもに本の読み聞かせをしている親は多いと思いますが、読み聞かせでも同様の効果が期待できます。いつもの話し言葉とは異なる「書き言葉」を大量にインプットしてあげると、想像力を働かせて言葉からイメージを想起する力、さらにイメージを操作して内容を理解する力が高度に発達します。
 素読を英語学習に応用したものが「英語多読」です。やさしくて短い英語の本をたくさん音読することで、英語の正しい発音やリズムはもちろん、読解力を高めることができるのです。単語の意味や文法解釈を教えるよりも先に「英語素読」を取り入れることで、英語の本を辞書なしで読み進める力が発達し、高度な英語力を(楽に)身につける土台を構築することができます。


英語多読の前提は正しい発音

 日本人で最も早く英語を学んだ一人である福沢諭吉は、英語を本から学びました。当時は「生の英語に触れる」ことが簡単ではありませんでしたから、本に書かれている内容は理解できるようになったのですが「正しい発音」がわからず、渡米した時も英語が通じず、大変苦労したそうです。
 英語多読の前提は「正しい発音」を学ぶことです。いくら英語の本が読めても、自己流の発音、間違った発音やリズムで読んでいては学習効果が半減してしまうのです。正しい発音(標準的な発音)で英語を読むことで、実際の会話の場面でも役立つ「実用的な英語力」を身につけることができます。
 正しい発音を身につけるための学習が「フォニックス」です。ご存知の通りフォニックスは「英語のひらがな」であり、英語の文字を正しく読むために欠かせません。フォニックスではアルファベット26文字の発音に加えて、特殊な綴りの発音など「44種の音」を学びます。
 現代社会はインターネットにアクセスすれば「ネイティブの英語」にいくらでも触れることができます。日本から一歩も出ずに、家にいながら、いつでも正しい英語の発音やリズムに触れることができます。このツールを子どもの英語学習に取り入れない手はありません。
 まだお子さんが英語多読をスタートしていないという方は、フォニックスで正しい発音とリズムに慣れさせることから始めてください。日本語の文字学習が「ひらがな→カタカナ→濁音・半濁音」と進むように、フォニックスにも学習順序があります。この順序に沿ってフォニックスを学ぶことで、どの子もスムースに英語の発音を身につけることができます。
 【私が開発したTLCフォニックスは子どもが家庭でフォニックスを身につける」ためのオンライン教材です。面倒で複雑なフォニックス学習を「毎日の5分の動画レッスン」で学ぶことができます。ご興味ある方はウェブサイトからフリートライアルにお申し込みください。▶︎フリートライアルはこちら


本を読む訓練が少なすぎる日本の英語教育

 米Renaissance Learning社が行なった調査によると、アメリカの子どもは小学1年生〜3年生までの3年間で「平均141冊」(28万単語)本を読むことがわかっています。28万単語を141冊で割ると約2000語ですから、ネイティブの小学生は単語数が2000語程度の「やさしいリーダーズを多読している」のです。
 これは日本人の英語学習にとっても大きなヒントです。いきなり100ページもあるチャプターブックを読ませれば子どもを英語嫌いにしてしまいます。まずはやさしいリーダーズをたくさん読ませてスラスラと早いスピードで本を読む力=読みの流ちょうさを鍛えることが重要です。
 流ちょうなリーディングは、より長く、複雑な文章を読むためのスタミナをつけてくれます。多読を実践し、英語が流ちょうに読めるようになるにつれ、理解力(読解力)が向上していくことは科学的にも明らかになっています。子どもの読書で重視すべきは「流ちょうに読めているか」なのです。
 英語の本が流ちょうに読めるようになるために必要な読書量の目安は、ずばり!「文字数が200語〜500語のリーダーズを100冊読破」です。
「100冊なんて無理だ!」「できっこない!」と思いましたか?
 読書スピードが1分間に60語(アメリカの小学1年生の平均)の子どもでしたら文字数300語の本を5分で読み切ることができます。300語の本でもストーリーはしっかりと完結していますから、子どもは読書後に達成感を得ることができます。毎日5分間の読書を習慣化し、1年間続ければ「10万語」読む練習を積み上げることができます。
 読む量が増えるにつれ読書スピードは向上していきますから、読書時間は同じ5分でも、読める量が徐々に増えていきます。分速115語(アメリカの小学2年生の平均)で読めるようになれば、5分間で575語の本が読めます。これを1年間続ければ20万語達成です!
 あくまでもざっくりとした目安ですが、多読1年目で10万語、そして、多読2年目で20万語を目標に実践すれば、ネイティブに負けない力強い「リーディングフルエンシー」を手に入れることができます。


ORTで本当に英語は身につく?

 日本で人気のリーダーズが「Oxford Reading Tree/ORT」です。ORTは文字数、単語、文法に制限をつけて、段階的に読む力を向上させていくためのテキストです。実際にイギリスでは小学生のリーディング力を育成する教科書として使われています。
 ORTのステージ1〜9までの全228冊を読破するとトータル文字数は15万語です。多読の目標は20万語ですので、少し足りませんが、同じ本やお気に入りの本を繰り返し読む練習を取り入れれば、ORTだけで高度な英語力の土台を築くことができそうです。
 最近は日本でも多くの図書館が「英語多読コーナー」を設けています。ORTも見つかるかもしれませんので、まずは図書館に足を運んでみましょう。蔵書がなければ図書館にリクエストを出してみましょう。
 多読は、2〜3分程度で読み終える超簡単な本からスタートし、徐々に読書スピードを上げていくことが大切です。くれぐれも子どものレベルに合わない本(単語数が多い本)を与えないように注意してください。
 また、最初から上手に読めることを期待してはいけません。フォニックスやサイトワーズ学習が十分でない子どもは「単語読み」でつまずきます。そのような場合は、あせって本読みをスタートせず、フォニックスとサイトワーズに戻り、基本的な単語が一目で読めるように練習してください。
 英語多読は「音読」からスタートします。音読で大切なのが「感情を込めて読むこと」です。ロボットのように一本調子で読むのでなく、抑揚をつけて、感情を込めるほどフルエンシーはアップします。感情を込めて読むと言っても難しく考える必要はありません。ORTのウェブサイトにはプロの声優による音源がありますから、それを子どもに聞かせればよいのです。
 ORT以外にも多くのリーダーズの朗読音声をYouTubeで見つけることができます。手元に英語の本があれば、そのタイトルをYouTubeで検索してみてください。有名な本であればネイティブの朗読音声が見つかる可能性大です。最初にネイティブの朗読音源を聞かせて、次に、子どもに同じ本を音読させてみると、読みの流ちょうさを向上させることができます。


多読は日本人に向いている英語学習法

 前術の通り、江戸から大正時代にかけての日本の国語教育は、本の素読が中心でした。日本の伝統的な学習法である素読は現代の英語学習に応用しても大きな効果が期待できます。と言っても昔の子どもたちのように1時間も音読する必要はありません。毎日5分の英語音読で大きな学習効果が期待できます。
 英語音読は、素読同様、理解よりも先にスラスラと英語を読む練習をします。まず英語の本が早いスピードで、かつ、正しい発音とイントネーションで読めるように練習し、英語の響きとリズムを身体に覚えさせるのです。その次に多読で内容理解を訓練するというステップを踏むことがポイントです。
 英語多読では日本語訳を教えたり、日本語で意味を説明させたりする必要はありません。ひたすら「正しい発音で読む」だけです。多読を進めていると、子どもは「英語のまま英語を理解できる」ようになります。子ども向けのリーダーズは各ページにイラストが含まれていますので、知っている単語やビジュアル情報を頼りに、意味をイメージ的に理解できるようになります。
 私は5000名以上のバイリンガルの育成に関わってきましたが、バイリンガルの子どもは決して言葉を翻訳しません。日本語を話す時は日本語で、英語を話す時は英語で考え、理解し、コミュニケーションを取っています。翻訳しなくても理解できるのですから、わざわざ効率の悪い訳読式を教える必要がないのです。
 英語多読は日常的に英語を話す必要がない日本で「会話力」を鍛えるツールでもあります。英語を音読する作業を通して、英語を話す訓練と聞く訓練が同時に実践できます。英会話のように練習相手は不要ですし、英語の本が一冊あれば、いつでも、どこでも、いくらでも、自学自習で会話力を鍛えることができます。
 あくまでも私の経験則ですが、日本人の多くは、活発なコミュニケーションを通して英語力を伸ばすやり方よりも、自学自習で英語力に自信をつけてから実践に挑むスタイルがマッチしています。この点においても英語多読は日本人に合った学習法と言えるのではないでしょうか。
 お子さんが自分から英語の本に興味を持つことは少ないですから、英語多読に導くためには家庭の環境作りに配慮してください。簡単な英語の本を購入して子どもの本棚に入れておくと、子どもが引っ張り出して眺めるようになります。またフォニックスを学習し、英単語が読めるようになると、英語の本にも興味を持ってくれます。フォニックス学習をスタートしたい!という方はトライアルにご登録ください。▶︎フリートライアルはこちら


「強み」を生み出すノウハウを解説する本

 拙著【強みを生み出す育て方】は、強みの見つけ方・伸ばし方を、科学的エビデンスをベースに、家庭で簡単に行える35の具体的なメソッドに落とし込んだ1冊です。「この世に強みのない子など、いない。すべての子が“強みの芽”を持って生まれている!だからこそ、1人1人に合った“強み育て”が大切だ」。これが、本書でお伝えしたいことです。
幼児から小学生のお子さんを育てている方、子どもの「強み」がわからない、どんな習い事が向いているのかわからない、何が得意なのかわからないという方におすすめです!ぜひご一読ください。

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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2405年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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