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2024年8月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.157 | 世界標準化する日本の大学入試

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2408
船津徹「世界標準化する日本の大学入試」(株式会社 児童英語研究所、2024年)


 少子化が急速に進む日本。大学の入学希望者数が、大学の入学定員数を下回り、数字の上では、希望者全員が大学に進学できる「大学全入時代」になりました。大学全入時代と聞くと「難関大学に入りやすくなる」イメージがありますが、現実には、正反対の現象(難関大学の競争の激化)が起こっています。
 その理由は「選抜方法の世界標準化」です。人口減少が続く日本で、大学が生き残るためには世界中から優秀な学生を集めなければならない!これを実現する手段として、多くの大学が学生の選抜方法を世界標準に寄せてきているのです。
 日本で最難関大学の一つである早稲田大学政治経済学部。定員900人の内訳は以下の通りです。

一般選抜:300人
共通テスト:50人
内部進学:280人
指定校推薦:90人
グローバル入試:40人
英語入試:100人

 入学試験の点数だけで合否を決める「一般選抜」「共通テスト」の入学枠は350人で、全体の合格者のわずか「38%」まで減少しています。その一方で、「グローバル入試」「英語入試」「指定校推薦」などの総合型選抜の入学枠は230人と増加しています。生き残りをかけた大学が、学生選抜の重点を日本人現役(浪人)受験生から、外国人・帰国生・社会人へとシフトした結果、「一般選抜枠」が減少し、日本人受験生の間で偏差値競争の激化が起こっているのです。
 今後も国際的な知名度アップ(世界大学ランキングの順位向上)を目指す難関私立大学を中心に「選抜方法の世界標準化」は拡大していくでしょう。わかりやすく言えば「一般選抜」は減少し、代わって、学生の「伸び代」や「尖った才能」を評価する「総合型選抜」が大学入試の主流になることが予想されます。


一生懸命勉強すれば幸せになれる時代は終わった

「一生懸命勉強して、良い大学に入り、良い企業に就職する。」言葉は悪いですが、「平均的によくできる人材の大量生産」を行なっていた高度経済成長期には、このゴールデンルールが通用しました。一生懸命勉強を頑張れば、誰でも明るい未来が開ける時代だったのです。
 しかし、少子化が続く日本でこれから起こるのは「格差の拡大」です。学力だけでトップ大学に合格し、トップ企業へ就職できるのは、生まれつき天才的能力を有する少数精鋭のみ。大多数の子どもは激化する偏差値競争から脱落していきます。(事実、超少子化が進む韓国では学歴格差→職業格差の拡大が社会問題化しています)
 この大きな変化に、今、子育て中の保護者は気づき、早急に対応しなければなりません。世界標準化(難化)する大学受験で合格を勝ち取るには「一般選抜一本勝負」はリスクが大きすぎるのです。もちろん第一優先として一般選抜を目指すのは構いません。しかし、同時に、AO、推薦、内部進学などの「プランB」も念頭に置きながら、大学へのルートを再検討することを強くお勧めします。
 トップ大学附属校の中学・高校受験を突破して内部進学を目指す、文武・文芸両道でAOや推薦を目指す、海外留学をさせて英語力を磨き、帰国生資格で日本のトップ大学を狙うという変化球も最近は増加傾向にあります。
 いずれのルートを目指すにせよ、これからの大学受験で成功するカギは「学力」と「強み」の両面を伸ばすことです。受験勉強に偏らず、子どもに備わっている「強み」を見極め、高いレベルに引き上げる。「強み育て」を実践することで総合選抜でも頭一つ突き抜ける子どもに育てることができるのです。
 人口知能やロボットが「平均的な技能」を担うようになった今、トップ大学が求めているのは、AIやロボットに負けない高度な技能、創造力、独創性を発揮する可能性を有する人材です。言い換えれば、尖った才能や、自分のやりたい何かに「情熱」を持っている学生です。


早稲田大学や東北大学の追跡調査でも

 アメリカの大学の入試は、全て「AO入試」です。ハーバードやスタンフォードなどの有名大学が学力だけでなく「AO入試」を使う理由は、勉強だけが得意な学生よりも、特別な「強み」を持つ学生の方が、大学に入ってからも、卒業後のキャリアでも成功し続けることがわかっているからです。これは、過去の多くのデータから明らかになっています。
 日本でも難関大学を中心に、AO入試や推薦入試などの「総合型選抜」に対する評価が高まってきています。これらの入試方法で入学した学生の成績評価や大学満足度が、一般選抜組に比べて高いという調査結果が出ているためです。
 1989年にアドミッションオフィスを設置し、AO入試を導入した東北大学の資料(2015年)によると、4年間で大学卒業した学生の割合は、一般選抜前期80.1%、後期71.1%に対して、AO2期84.1%、AO3期81.8%といずれもAO組の方が高い数字になっています。
 同じく東北大学が公表している学生の成績(GPA)を見ても、4年間のGPA平均は、2020年度卒業生で、一般選抜前期2.52に対して、AO2期2.72、AO3期2.74とAO組の方が文系・理系学部ともに一般選抜組を上回る結果になっています。
 1992年から指定校推薦を導入し、2000年からAO入試をスタートした早稲田大学のデータでも、総合型選抜(指定校推薦、グローバル入試、英語入試)合格者の入学後のパフォーマンスが一般選抜の学生よりも高いことがわかっています。早稲大学の資料では、入学後の学業成績が最も高いのはAO入試、次いで高いのが指定校推薦です。
 一般選抜よりも総合選抜型の学生が入学後に伸び続ける理由として、大学での目標が明確なことがあります。一般選抜には東大や一橋と併願する学生が多く、早稲田に第二志望で入学する学生が少なくありません。また、一般選抜の学生の多くは合格がゴールになってしまい、燃え尽きモードで大学に入学してくるケースが多いことが考えられます。
 早稲田大学の田中愛治総長は「日本の入試は79.8点が79.7点より上という考え方に縛られているが、これは本当に優秀な学生を取るのにふさわしい選抜制度ではない」と述べています。この言葉に集約されているように、これからは「総合型選抜」で自己アピールできる学生=「強みがある学生」が大学受験で成功する確率が高まるでしょう。


子どもの「好き」の見つけ方は?

 大学受験に関わらず、子育てで大切なことが、子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えることです。理想を言えば、時間にゆとりがある小学校時代に「好き」「やりたい」を思い切りやらせて「自主的なやる気」を大きく育ててあげてください。
 子どもが「何が好きなのかわからない」という方は、遊んでいる様子を観察してみてください。何をするのが好きか、どんなことに興味があるか、どんな場所で、誰と、どうやって過ごすのが好きなのか、すぐに分かります。
 外で思い切り身体を動かすことが好きな子どもでしたら、父親や知り合いに頼んでスポーツを紹介します。サッカー、バスケットボール、テニス、水泳体操、いくつかの異なる種目に挑戦させて、どんな分野に向いているのか、子どもの「適性」を見極めてください。
 家の中で絵を描いたり、レゴを組み立てたり、本を読んだり、一人で遊ぶことが好きな子どもでしたら、親も一緒に絵を描いたり、クラフトをしたり、パズルに取り組んだり、お菓子を作ったりしてみましょう。
 歌やダンスなどを人前で披露することが好き、人を笑わせるのが好きという目立ちたがり屋の子どもでしたら、ダンス、カラオケ、楽器演奏、マジックなどを披露する場を作ってあげってください。人前でパフォーマンスする緊張と楽しさを経験させてあげるのです。
 子どもの「好きなこと」に親が付き合っていると、子どもの「得意」が見えてきます。子どもと一緒に絵をかいてみると「手先が器用で、細かい作業が得意なこと」が分かります。次のステップとして、子どもの「得意」を積極的に伸ばしてあげましょう。クラフトを作ったり、ジグソーパズルで遊んだり、科学キットで機械作りに挑戦させたり、お絵かき以外の「手先を使うこと」に取り組ませてみると、それまで気づかなかった子どもの「強み」が見えてくるはずです。
「手先が器用」というのは生まれ持った才能です。誰もが平等に持っている能力ではありません。でも親がそれに気づかないと、子どもは自分の能力に気づくことができないのです。
 親が子どもの「得意」を見つけて応援してあげると、子どもは「得意」をより強く意識するようになり、その部分が伸びていきます。そうなったら「得意」に関連する習い事に参加させて、技能に磨きをかけていけばよいのです。


勉強以外の「強み」が自己形成には不可欠

 子ども時代を受験勉強だけで過ごしてしまうと、青年期になった時に「自分は何がしたいのか?」「自分は何ができるのか?」「自分はどう生きたいのか」というアイデンティティをスムーズに確立することが難しくなります。
 スポーツ、音楽、アートなどに本気で取り組んできた子どもは、自分の「才能」や「能力」を自覚できるようになるのです。たとえば、サッカーを真剣にやってきた子は、自分はどのポジションに向いているのか、自分はどの面が優れているのか(優れていないのか)、チームの中でどういう役割なのか、自分自身についての理解を深めることができます。すると人生の重要な選択においても、自分が何に向いているのか、何ができるのか、現実的で明確な目標設定がしやすくなるのです。
「強み」を持つことの大切さは、大人になれば誰もが痛感しますが、子ども時代にはなかなか気づくことができません。だから人生の先輩である親が子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えてあげなければならないのです。
「人生の目標は大人になってから見つければいい!」「小学校の時に夢や目標はなかったけど、今は立派に生きているぞ!」という人もいるかもしれません。しかし、時代は変わりました。著しいスピードで変化する現代社会でそんな悠長なことを言っていては、周りから取り残されてしまいます。
 小学校時代に受験勉強しかしてこなかった子どもが、中高生になってから「強み」を持つには大変な時間と努力が必要です。たとえば、中学になって部活で初めてスポーツに関わった子と、小学校時代を通してスポーツに真剣に打ち込んできた子の間には、既に埋め難い「差」がついているのです。
 キャリア選択も同様です。大学進学の時点で自分の目標が明確な子どもは、自分のやりたいことに合わせて学部を選択します。大学名も大切ですが、それ以上に学部名で進学先を考えられるようになるのです。
 当然入学してからも自分の目標実現のために努力を継続しますから、回り道することなく、自分に必要な知識を身につけ、キャリア形成に必要な職能経験(インターンなど)を積み重ね、就職活動の時点で、既に頭一つ抜け出すことができるのです。
 一方で何となく大学に進学した、名前だけで大学を選んだ、第一志望に落ちたから第二志望に進学した、という子どもは、自分が何をしたいのかわからず、何に向いているのかわからず、学業に身が入りません。目的を持って勉強に励む周囲の学生と比較して劣等感すら感じるようになります。


好きなことが見つかれば、勉強は心配ない!

 私はアイビーリーグ大学出身の若手エリートたちにインタビューをしたことがありますが、「小学生の頃は好きなことばかりしていた!」という回答が多くて驚きました。遊んでばかりいたということではなく「スポーツや音楽やコンピューターなど、自分がやりたいことを好きなだけやっていた」という意味です。
 この子たちが本当に好きなことばかりして、勉強をしていなかったかというとそんなことはありません。でも「好きなことばかりしていた」と言うのです。この答を聞いた時に「できる親の成せる技!」と思わずうなってしまいました。
 親が子どもの「好き」を見つけて、思い切りやらせてあげると、子どもは勉強などの「やらねばならないこと」についても「自主的なやる気」で取り組める前向きな性格に育つのです。
 子どもの「やる気」を大きくすれば、受験突破やキャリア形成がスムーズに進むことはもちろん、人間関係や趣味などにも積極的になります。つまりより自分らしく、豊かな人生を歩めるようになるのです。
 子ども時代に「強み」を持つことは人間形成全体にプラスの影響を与えてくれます。スポーツ、音楽、アート、演劇、何でも構いません。子どもが本気で取り組める「何か」を一つ見つけてあげて下さい。


「強み」を生み出すノウハウを解説する本

拙著【強みを生み出す育て方】は、強みの見つけ方・伸ばし方を、科学的エビデンスをベースに、家庭で簡単に行える35の具体的なメソッドに落とし込んだ1冊です。「この世に強みのない子など、いない。すべての子が“強みの芽”を持って生まれている!だからこそ、1人1人に合った“強み育て”が大切だ」。これが、本書でお伝えしたいことです。
 前半では、わが子が生まれながらに持つ「気質5タイプ」「才能5タイプ」と「ピッタリの習い事」を判定し「強みの芽」を見極めます。さらに、全タイプの強み育てにおいて不可欠な「やる気の引き出し方」「学業と習い事の両立方法」について具体的ノウハウを体系化しています。
 幼児から小学生のお子さんを育てている方、子どもの「強み」がわからない、どんな習い事が向いているのかわからない、何が得意なのかわからないという方におすすめです!ぜひご一読ください。将来、お子さんがスカラシップを得てアメリカのトップ大学へ進学するかもしれません!

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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2408年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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