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2024年12月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.161 | 英語で突き抜ける子どもの育て方

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2412
船津徹「英語で突き抜ける子どもの育て方」(株式会社 児童英語研究所、2024年)


 少子高齢化の打開策として移民、労働者、研修生、留学生など、外国人の受け入れを拡大しグローバル化が加速していく日本。その先にある社会とはどのようなものなのでしょうか。
 これについては日本よりも一足早くグローバル化の波に巻き込まれた隣国、韓国を見ると参考になります。
 1997年のアジア通貨危機によって韓国ウォンが暴落、外貨建て債務が膨れ上がり経営難に陥った韓国企業は生き残りをかけてグローバル化に着手しました。その結果、サムスン電子、現代自動車、LG電子などは国際プラットフォームで活躍する世界企業へと躍進しました。
 企業のグローバル化が進む中、人気のある大企業での就職には「高度な英語力」が求められるようになりました。たとえば、サムスン電子の新入社員の平均TOEICスコアは900点以上で、留学経験者が半数を占めると言われています。このように、人材の国際化が急速に進展しています。
 さらに、大企業が採用対象を韓国人に限らず外国人にも広げたことで、従来の韓国人同士の競争から、外国人を含む国際的な競争へと移行し、その競争の水準も格段に上がったのです。


英語ができなければ「負け組決定」の韓国

 大企業に就職するために高い英語力が求められるようになったことに伴い、韓国人の親の間で、小学生、中学生を英語圏に留学させる「早期留学」がブームとなりました。
 韓国教育開発院の統計によると、早期留学生数は2000年から急増。ピークの2006年には2万9000人となり、韓国の全生徒(小・中・高)のうち38%が海外留学経験者という大変大きな数字となっています。 
 特筆すべきは「小学生」の留学者数が中高生よりも多いことです。この背景には、日本よりもはるかに熾烈な大学受験戦争が存在する韓国では、中学、高校での留学は大学受験で不利になると考えられているからです。
 時間に余裕がある小学生のうちに留学させて英語力を身につけ、韓国へ帰国後は大学受験に備えるというパターンが定番化しているのです。
 小学生の留学には保護者である母親が同伴することが一般的です。父親は韓国に残って働き、生活費を留学先に送る生活を余儀なくされます。子どもの留学のために多額のお金を稼がなければならない上に、韓国に一人残された父親が寂しさから鬱になったり、家庭崩壊につながったりするなど、英語熱の弊害が社会問題化(ギロアッパ問題)したことはご存じの方も多いかと思います。
 韓国が英語ブーム真っただ中であった2001年に、私はハワイでバイリンガル育成を目的とした英語塾を開校しました。韓国語での広告を一切出していないにも関わらず、早期留学生と思われる韓国人親子がたくさん私の塾に訪れるようになり、とても驚いたことを覚えています。
 母子留学中の母親に話を聞くと、韓国では「英語ができなければ負け組」という風潮があるため、借金をしてでも子どもを留学させ、英語力を身につけさせることが「当たり前」だそうです。
 グローバル化に飲み込まれた韓国では、子どもの英語力の「差」が、将来のキャリア形成の「差」に直結するため「英語は絶対に避けられないもの」になっているのです。


日本でも英語力がキャリア形成に影響する

 円安と人口減少が続く日本も韓国ほどではありませんがグローバル化がじわじわと進んできています。多くの日本企業はマーケットを世界に広げていかなければ生き残れない、という段階に差しかかっています。また、企業が変化を望まなくても、外国資本のターゲットになれば、グローバル化せざるを得ないというのが金融資本主義の宿命です。
 このような背景から、日本企業の就職戦線においても、英語ができる人の価値が年々高まっています。楽天やファーストリテイリングのように英語を社内公用語にする動きは今後も広がっていくでしょう。当然、英語ができれば就職で「有利」になりますし、キャリア形成もスムーズに進みやすくなるのです。
 また英語ができると日本のトップ企業だけでなく、外資系企業への就職も視野に入ってきます。世界中の大企業は雇用対象を「世界に」広げています。日本企業がアメリカや東南アジアで採用活動を行なったり、外資系企業が日本やアジアで優秀な人材をリクルートしているのです。
「ボストンキャリアフォーラム」は毎年11月にアメリカのボストンで開催される留学生やバイリンガル学生向けの就職イベントです。就職イベントと言っても実質は「英語ができる学生を採用する場」です。日本のトップ企業の他、国際プラットフォームで活躍する外資系企業約200社が一同に集まり、学生のリクルートを行ないます。
 ボストンキャリアフォーラムの3日間で内定が出るのは当たり前。うまく自己アピールできれば世界トップ企業への就職が即決し、入社1年目から年収1000万円を実現することも夢ではありません。(私の塾生でも外資系企業に就職し、日本人平均の3倍以上の年収を得ている若者がたくさんいます)
 英語ができる人が極端に少ない日本では、英語ができる人は貴重な存在です。子どもに英語力という宝を与えることができれば、英語を武器に、より良い企業に就職でき、より高額な所得を得ることができるのです。


子どもにどの程度の英語力が必要なのか?

 では、子どもにどの程度の英語力をつければ「武器」になるのでしょうか?目標とする英語力について私は明確な答えがあります。それが「CEFR B2レベル」を「高校までに」達成することです。
 CEFRとは、英仏独などヨーロッパ言語の習熟レベルを「A1、A2、B1、B2、C1、C2」の6段階で統一するためにつくられた基準で、A1が最低、C2が最高です。B2は世界標準で言えば、真ん中よりちょっと上、英語圏の大学への留学が可能になるレベルの英語力です。CEFR B2レベルを他の英語検定試験と比較すると以下のようになります。

○英検準1級以上
○TOEFL iBT 80
○IELTS(アカデミック) 6.5
○GTEC CBT 1250
○TEAP(4技能) 340

 英語の外部検定試験を受験で導入している大学の多くは「B2レベル」を達成していれば、英語試験は免除、加点、もしくは満点扱いとなります。(大学によって異なりますので、あくまでも目安です)つまり、大学受検において英語の勉強をする必要がなくなり、他の教科に集中できるようになるのです。
 またCEFR B2レベルの英語力があれば、返済不要の奨学金を得て(タダで)英語圏へ留学することも実現できます。
「トビタテ!留学JAPAN」は文部科学省が立ち上げた官民協働の海外留学推進プログラムです。高校生と大学生を対象に海外留学希望者へ返済不要の奨学金を支給しています。(高校生プログラムはB1レベルで合格可能/帰国後はB2以上を実現できる)
 世界最高峰と言われるアメリカの大学は授業料が高額なことから私費留学はハードルが高いですが、CEFR B1を達成すれば奨学金を獲得できる可能性は飛躍的に高まります。


CEFR B2はどうやって実現できるのか?

 問題はどうやって高校卒業までにCEFR B2レベルを達成するのかです。日本英語検定協会が2016年に公表したデータによると、CEFR B2に相当する「英検準1級」の高校生の受験者数は1万2285人で、合格者数は1986人。合格率は16%とかなり低い数字です。
 文部科学省が全国の高校3年生、約7万人を対象に2014年に実施した英語力調査の結果によると、CEFR B2レベル達成者は「読むこと」0.2%、「聞くこと」0.3%、「書くこと」0%と、やはりかなり過酷な結果となっています。
 これらの数字を見る限りでは、高校時代にCEFR B2レベルを達成するのは「相当に難しい」と感じてしまいますが、実際のところ、高校生がB2レベルまで英語力を高めることは、数字ほど難しくはありません。
 私の指導経験においても、高校生どころか、小学・中学生で英検準1級に合格した生徒がたくさんいます。中には日本から一歩も出ず、英会話教室に通うことなく、私の塾のオンラインレッスンだけで、小学4年生で英検準1級に合格したツワモノもいます。
 日本で高度な英語力を身につけることに成功した人(子ども、大人に関わらず)に共通するのが「英語を読む力」を鍛えていることです。
 子どもの英語教育というと真っ先に「英会話」を思い浮かべる人が多いと思います。読み書きは学校で勉強するからわざわざ習わせる必要はない。それよりも日本人が苦手な「英会話」を子どもには習わせるべきだ、という考えです。 
 実はこの「子どもの英語=英会話」という思い込みが、日本人の英語力を停滞させている原因の一つであると私は考えています。英語を日常的に話すことがない日本で「会話中心」の学習をしても技能が定着しないのです。
 日本で英語力を高めるには「英語多読」が最も効果的です。英語多読とは、読んで字のごとく、英語の本をたくさん読む学習法です。
 英語多読を実践すれば、独学で英語の全技能を向上させることができます。英会話のように話し相手が不要ですし、本一冊あれば、いつでも、どこでも、いくらでも、自学自習で英語力を伸ばしていけるのです。


英語多読の前提は「フォニックス」と「サイトワーズ」

 英語多読の前提となるのが「正しい発音」を身につけることです。自己流の読み方、日本語アクセントが強い読み方では、読書スピードが遅くなる上、実際の会話の場面で通じないことが多くなります。これを解決するためには「フォニックス」で英語の正しい発音を身につけることが重要です。
 フォニックスとは、「A=ア」「B=ブ」「C=ク」というように、アルファベットの「文字」と「音」の関係を教える指導法です。日本の子どもたちが「ひらがな五十音」で文字読みを習うように、英語圏の子どもたちは「フォニックス」で文字読みを身につけます。
 今はインターネットを活用すれば、ネイティブ講師からフォニックスを学ぶことができます。YouTubeで「Phonics」「フォニックス」と検索してみましょう。たくさんのフォニックス動画を見つけることができます。また子ども向けのフォニックスアプリやゲームもたくさん開発されていますので、それらを活用して「正しい発音」を教えてあげましょう。
 もう一つ、正しい発音を身につける効果的な学習が「サイトワーズ/Sight Words」です。サイトワーズは「英語の頻出単語」で、英語の本を読む時に頻繁に登場する単語です。ちなみにサイトワーズの頻出上位10単語は「the, of, and, a, to, in, is, you, that, it」です。どれも知っている単語ですが、正しく発音するのは結構難しいですね。
 サイトワーズは、よく出る単語を、よく出る順に覚えるというシンプルな学習法ですが、非常に高い効果が期待できます。というのも、あらゆる活字化された英語の「50%は頻出上位100単語」のサイトワーズで、そして、「70%は頻出上位300単語」のサイトワーズで構成されているからです。理屈の上では、サイトワーズを300語覚えれば、どんな本でも7割読めるのです。サイトワーズもYouTubeで検索すれば動画を見つけることができます。


英語多読のスタートは「リーダーズ」

 正しい発音を学んだ次のステップが「英語多読」です。ここで重要なのが「本の選び方」です。いきなり分厚いペーパーバックを与えても子どもが読めるはずがありません。
 日本ではあまり知られていませんが、英語の本にはやさしい単語や文法で書かれた「リーダーズ」と呼ばれる短い本がたくさん開発・販売されています。
 リーダーズは学童期の子どもが読書力をつけるために作られた本で、少しずつ難易度が上るように単語や文法に制限をつけて文章が書かれています。子どものレベルに合ったリーダーズで英語多読をスタートすると、ストレスなく英語を読む力を身につけていくことができます。
 リーダーズの内容は、名作文学、映画や演劇の原作、自伝、ミステリー、コメディー、SF、ノンフィクションなど多種多様であり、子どもの好みや興味に合った本を選ぶことができます。
 世界的に有名なリーダーズといえば、Pearson English Readers(旧ペンギンリーダーズ)です。Pearsonのウェブサイトでは、年齢、レベル、ジャンルなどを入力して本を検索するシステムがあります。これを活用することで子どもにベストマッチの本を見つけることができます
 Pearsonリーダーズは、単語数200語(英検4級レベル)から、単語数3000語(英語準1級レベル)まで、7レベルに分かれています。まずは今の子どもの英語レベルよりも1ランク低い本からスタートすることをお勧めします。最初から難易度の高い本にチャレンジすると挫折することが多くなります。
 Pearsonリーダーズには、英語を始めたばかりの子ども向け(幼児〜小学低学年対象)のシリーズもあります。人気アニメのキャラクターが登場する本、グリムやアンデルセン童話など、子どもに人気のストーリーが豊富にありますので、年齢の小さいお子さんの英語教育にも活用できます。


やさしい本をたくさん読むことがポイント

 英語多読を成功させる秘訣は「難しすぎる本を与えないこと」に尽きます。読みやすく、やさしく、短い本を一冊読み切ることで、子どもは「自分で英語の本が読めた」という成功体験を積むことができます。
「こんなに簡単でいいの?」「こんなに短くていいの?」というくらいやさしい本をたくさん読ませることで、英語に対する抵抗感がなくなり、単語を瞬時に読み取るが養われ、読みの流暢さが育っていきます。
 たとえば単語数200語のリーダーズであれば、2分程度で1冊を読み終えることができます。たった2分間ですが、ストーリーは最初から最後までしっかりと完結していますから、読書後に物足りなさを感じることはありません。
 やさしい本をたくさん読み、読みの流暢さ(スラスラ読める状態)が伴ってくると、理解力も高まっていきますから、子どもは自分の英語力が向上していることが実感でき、さらに英語学習へのモチベーションがアップします。
 まずは日本語でストーリーを知っているリーダーズを見つけて子どもに読ませてみましょう。アンデルセンやグリム童話、名作文学や映画のシナリオなど、リーダーズ版であれば読み進めることができるはずです。またストーリーを知っていれば、頭の中でいちいち日本語に翻訳することなく、英語のまま読み進めていく力を養うことができます。
 英語の読書力を育てるプロセスで優先すべきは「理解よりも流暢に読めること」です。細かい内容理解はひとまず横に置いておき、英語がスラスラと読めるように上手に導いてあげましょう。


「強み」を生み出すノウハウを解説する本

 拙著【強みを生み出す育て方】は、強みの見つけ方・伸ばし方を、科学的エビデンスをベースに、家庭で簡単に行える35の具体的なメソッドに落とし込んだ1冊です。「この世に強みのない子など、いない。すべての子が“強みの芽”を持って生まれている!だからこそ、1人1人に合った“強み育て”が大切だ」。これが、本書でお伝えしたいことです。
 前半では、わが子が生まれながらに持つ「気質5タイプ」「才能5タイプ」と「ピッタリの習い事」を判定し「強みの芽」を見極めます。さらに、全タイプの強み育てにおいて不可欠な「やる気の引き出し方」「学業と習い事の両立方法」について具体的ノウハウを体系化しています。
 幼児から小学生のお子さんを育てている方、子どもの「強み」がわからない、どんな習い事が向いているのかわからない、何が得意なのかわからないという方におすすめです!ぜひご一読ください。

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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2412年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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