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2016年01月号特集

Vol.214 | 英語を「学習」する?「獲得」する?

日本人の英語下手を紐解く

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1601/
船津洋『英語を「学習」する?「獲得」する?』(株式会社 児童英語研究所、2016年)


 明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願い申し上げます

 私事で恐縮ですが、ご存じの向きはご存じの通り、昨年より、いい歳をして大学へ戻りせっせと勉学に勤しんでおります。ありがたいことに、学びに年齢は関係ないようです。いや、それどころか、歳を取ってからの方が情報の取り方が上手になっているせいか、すっと頭に入ってくる。「学問は、若者を育て、老人を楽しませる」そうですが、確かにそんなこんなを実感する日々が続いております。もっとも記憶は苦手ですので、すっと入ってきた知識も、次々にぽろぽろと記憶から落ちていく…。余程腑に落ちたものでなければ記憶に残らない、そんな状態ではありますが。

 さて、今月は久しぶりに「言語の習得」について考えて参りましょう。
 言語に関しては、古代より様々な学者が「不思議だなぁ」と感じていたようです。それはそうです。母語であれば、次々と耳から入ってくる言葉を即座に理解し、頭に浮かんだイメージを言葉に変換して発する。その間、もちろん文法知識に照らし合わせたりすることはありません。外国人にとっては大変複雑な日本語の「てにをは」も、日本人であれば間違うことなく、それこそ直感的に正しく発話できるのです。
 「パルキッズ通信2015年8月号」で詳しく触れましたが、チョムスキーから始まる最近の言語学、特に応用言語学の世界では、子どもたちが母語を身につける経緯に大きな「なぜ」を見いだしており、その「なぜ」の答えを探し求めています。
 幼児の言語獲得はあまりにも自然すぎて、普段は立ち止まって考えることすらありません。なぜ子どもは日本語を身につけるのだろう?という疑問を投げかけても、「日本語は自然に身につける」「日本人だから当たり前」と答えること以外、大半の人にとっては難しいでしょう。
 幼児の言語獲得は確かに不思議な現象ですが、どこが不思議なのでしょうか。幼児の言語獲得には以下のような特徴が挙げられています。1) 短期間である。2)誰でも身につける。3) 言語資料が質・量ともに劣っている。4) 身につく言語が均一である。5) 否定証拠が与えられない。しかし、それにもかかわらず幼児たちが言葉を身につけてしまう、やはり不思議だ、となるわけです。(以上の点に関しては「パルキッズ通信1015年8月号」参照)


| 誰でも身につけられる

  そんな疑問を元に、いろいろな仮説が立てられていきます。人の脳にはLAD(Language Acquisition Device)という装置があって、そのおかげで身につくのだ、と言われれば、なるほど、そんな考え方はステキだなぁと感じます。また、今日では主流となっているのがUG(Universal Grammar)という考え方。ヒトにはがあらかじめ、というか突然変異の結果、UG(Universal Grammar)つまり「普遍文法」が遺伝子に組み込まれていて、そこに言語証拠(親や周囲の語りかけのこと)が与えられることによって内部言語(母語のこと)が身についていくという、何とも魅力的な理論です。
 この「普遍文法(UG)」は、いくつかの単純な「原理(principle)」と「パラメータ(parameter)」から成立していて、言語証拠が与えられることによって「この言語は句の主要部が最初(または最後)に置かれる」などの原理が決定されます。例えば、日本語の「学校へ」であれば句の機能を決定する主要部「へ」は最後に来ます。逆に英語では ‘to school’ となり、句の性格を決める ‘to’ は最初に来ています(ちなみに言語学の世界では、日本語の助詞を英語の前置詞になぞらえて後置詞と呼ぶそうです)。
 このように原理を決めて、あとはパラメーターのスイッチをパチパチと入れていきます。例えば、日本語は複数形になっても単語の形は変わりませんし、’a’ 、’the’などの冠詞も無ければ、単語の性別もありません。このようなパラメーターのスイッチがオフのままなのです。また、目的語と他動詞の順番が守られていれば、比較的語順は自由で良い日本語に対し、英語は語順には厳しかったりします。
 そのようなひとつひとつのパラメーターのスイッチが、日々周囲から与えられる言語資料によってオンにされたり、オフのままだったりすることによって、母語(文法)が獲得されていく。ゆえに、短期間で、子どもの能力や、親の語りかけの質・量にも関係なく、均質な言語(母語)を身につけていくことができるのだ、という理論です。そして(これはチョムスキーは言っていないようですが)その能力を使えば第二言語も身につけられるのでは?という仮説も立てられるわけです。


| クラッシェン

 さて、「バベルの塔」の一件以来バラバラの言葉を話すようになった人類ですが、そんな我々ヒトにとって外国語の習得は極端には永遠の課題です。四方を海で囲まれた島国日本でも、ペリー来航以来西洋に追いつけと外国語の必要性が高まりましたし、また近年の急速に進行するグローバリゼーションによって、「一部」の人々にとっては外国語のニーズはいっそう高まっています。もちろん、その「一部」自体も膨張し続けています。外国語、特に英語習得熱は高まるばかりです。
 しかし、いまだに効果的な学習方法は発明されていません。しかし、多くの教育者(日本の教育者ではありません)がヒントにしている考え方があるので、ご紹介しましょう。
アメリカの言語学者・クラッシェン(Stephen Krashen,1941~)による 「クラッシェンの第二言語習得理論」は、欧米における外国語教育にはかなりのインパクトを与え続けているようです。
その理論は5つの仮説から成り立ちます。
・The acquisition-learning hypothesis (獲得と学習の仮説)
・Natural order hypothesis (文法順序の仮説)
・Monitor hypothesis (モニター仮説)
・Input hypothesis (インプット仮説)
・Affective filter hypothesis (感情フィルター仮説)
*()内の日本語は筆者訳

 考え方としてとても面白く、参考になると思いますので、少し詳しく見ていくことにしましょう。


| The acquisition-learning hypothesis (獲得と学習の仮説)

 クラッシェンは、外国語の「獲得」と「学習」は2つの異なった概念であると言っています。
 通常我々は外国語を「学習」します。中学で英語を習うように、まずは単語を日本語訳とともに記憶し、文法を習い、それらを照らし合わせながら、英語を日本語に訳したり、逆に日本語を英語に訳したりします。言語学習は意識的に積極的に行われます。また学習は形式的であり明示的(はっきりとしている)でもあります。
 一方、言語獲得は無意識下で、しかも消極的に行われます。学習者がまったく意識しないうちに「獲得」は行われるのです。そして獲得は、学習のようにはっきりとしているわけではありません。理解においては、知らぬ間に頭の中で暗黙裡のうちに自然とイメージが浮かんでしまい、文法的にも極めて不完全なものなのです。
 クラッシェンは彼の仮説の中でこうも言っています。「いくら学習してもそれが獲得に至ることはなく、大人も子どもも、言語は学習して身につけるのではなく獲得するものである」と。さらに、「獲得するために学習は不要である」とも言っているのです。私としては、自らの経験的にも、今までの指導の経験からしても深く頷ける理論ですが、英語教育業界関係者にはたまったものではないでしょう。反論も多いようです。もっとも、いまだ決着は付いていませんが。
 仮に、この説を採るとすれば、大人も子どもも「無意識のうちに、消極的に」ネイティブが話すように暗示的な直感的な言語が身につけられることになります。ありがたい話です。


| Natural order hypothesis (文法順序の仮説)

 クラッシェンは、ひとつの言語の文法は決まった順番に学習・獲得されると言っています。母語の場合には、どの子でも同じ順番で文法を身につけていく、また外国人として同一言語(例えば英語)を学習する場合には、母語話者とは異なった順序で身につけるが、しかしそれも一定で、皆同じ順序で身につけると言っています。
 例えば、日本では ‘go, went, gone’ の順に ‘go’ の活用として現在形・過去形・過去分詞を学びます。しかし、これはネイティブには当てはまりません。英語の母語話者は ‘go, went’ のずっと前に ‘gone’ を理解するのです。
 また、英語の母語話者にとっても「受動態」は難しいようで、幼児はまず “The cat is chased by the dog.”(猫は犬に追いかけられている)を「猫が犬を追いかけている」と理解します。7、8歳にならないとこれを正しく理解できないのです。
 もっともこの仮説も、母語を別とする学習者、例えば日本人とフランス人が、外国語として英語を学ぶときに同じ順番で学習するのか?などの反論が出ています。これまた証明されておらず、仮説のままです。


| Monitor hypothesis (モニター仮説)

 この仮説は、学習して身につけた知識(文法や語彙)は、言語獲得過程のモニター(監視・点検)の機能しか果たさないとしています。例えば、言語獲得過程において学習者が発話する時、学習によって身につけた知識は、文法的な確認をするチェック機能を果たすのみだというのです。
 これを見て分かるように、この仮説は冒頭の「獲得と学習の仮説」と密接に関係しています。言語は学習して身につけた知識とはまったく別に「獲得」の過程を経て身につけていくもので、「学習」はその過程での見張り役に過ぎない、というのです。なるほどと頷ける一方で、これも随分と反論を招いているようです。


| Input hypothesis (インプット仮説)

 インプット仮説は、言語獲得にのみ適用されます。この理論によると、言語獲得は「理解可能な」言語証拠のインプットによってのみ可能となるそうです。(ちなみに、想像するにこの仮説が「かけ流しは無意味」と主張する人々の論拠になっているのかもしれません)
 理解可能な言語証拠 “i” があり、それから少しだけ先の情報 “i+1” を与えることによって、理解を広げていくとしています。もちろんその場合、2番目の「文法順序の仮説」に沿った段階を経て言語獲得が進みます。
 ただ、幼児が母語を獲得していく場合に、最初の “i” はどのように獲得されるのか?こんな純粋な疑問がわきます。
 ここで少し横道に逸れます。パルキッズの場合には、フラッシュカードでの2,000語を越える直接のインプットや、理解可能なイメージ付きの日常会話や絵本があるので、それらが “i” となり “i+1” となっていくのでしょう。つまり、子どもに対して、大人向けの教材や行き当たりばったりの適当な外国語のかけ流しをしても外国語を身につけることはできないということです。理解可能な情報をコンスタントにインプットし続けることが、言語獲得に不可欠となるのです。
 インプット仮説は、突き詰めれば外国語は獲得する以外無く、学習では獲得に至らないと言っていることになります。これまた反論が出ていますが、いまだに仮説として言語学界にデンと腰を据えているようです。


| Affective filter hypothesis (感情フィルター仮説)

 最後に、言語獲得は感情に大きく左右されるという仮説です。周囲の環境から与えられる恐怖や不安などの感情によって、言語獲得のプロセスが進まなくなるというのです。これは言語「学習」にも当てはまりそうですが、クラッシェンは言語「獲得」にのみ限定しています。
 このフィルターが働くと、インプット情報がLADへアクセスできなくなり、結果として学習が進まなくなるとしています。
 これは、パルキッズの考え方でいうところの「ストレス要因」と似ています。ストレスが働くと意識的に物事を考えるようになり、すると無意識の学習ができなくなってしまい、結果として言語獲得が止まってしまうのです。「パルキッズ通信」や掲示板でも繰り返していますが、やはり子どもたちにはプレッシャーを与えない方が良さそうですね。

 話がまたまた逸れてしまいましたが、以上がクラッシェンの提唱する理論です。ざっとした説明で舌足らずの部分もあるかと思いますが、要するに、言語獲得に関してはいまだ謎の部分が多く、議論が交わされている最中であるという点を理解していただければ良いでしょう。


| なぜ日本人は英語ができないのか?

 幼児たちは、あっという間に言葉を身につけてしまうという厳然たる事実があります。誰がなんと言おうと、この事実を覆すことはできません。「それはなぜか?」という疑問に対する答えを言語学者たちは探し求めているのです。そして、クラッシェンの理論は、その問いに対してひとつの筋の通った答えを提供しているのではないでしょうか。
 パルキッズの学習法もぴったり当てはまりますし、めざましい効果を上げている中学生以上向けの英語の素読もこの理論に当てはまります。つまり、「なぜ日本人は英語ができないのか?」この問いにクラッシエンの理論は答えを与えてくれているのです。日本人が英語をいくら学習しても身につけられないのは、学習しかしていないからであると言えるでしょう。「学習」の延長線上には「獲得」はないのです。学習―文法の詰め込み―ばかりで、獲得の取り組みが一切為されていない。中学の教科書で使用されている英単語は延べでわずか7,000語です。これではひとつの言語を獲得するにはインプット量が少なすぎるのです。
 振り返ってみれば、夏目漱石もクラッシェンと同じようなことを言っています。ある程度文法を学んだら、獲得を促すために大量のインプット、つまり素読を行えば良いのです。そして、その素読の内容は、本人の理解の範囲を少し超える程度のものでなくてはいけません。そして、プレッシャーの少ない環境で淡々と読み続けることが、英語力の「獲得」へと繋がっていくのです。
 幼児の場合には、文法すら教える必要が無く、淡々と理解可能な情報より少し難しめの英語をストレスを与えないようにしつつ大量にインプットしていく、それだけで英語は身につけることができます。これは多くのパルキッズ生の皆さんが、体験済みのことですね。
 最後に、ひとつだけ注意点があります。これはクラッシェンも指摘しているのですが、途中でやめたら、「はい、それまで。」です。にこにこ笑顔で、出力(発語)など気にせず、教えることをせず、無意識のうちに大量にインプットする。やはりこの方法が有効なようです。
 1年の始まりに当たり、途中で止まっている方は再開し、また順調に進んでいるご家庭も継続を心がけて、子どもたちの英語獲得をめざしましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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