パルキッズ通信 特集 | 学歴, 学費, 就職, 投資, 職業
2017年8月号特集
Vol.233 | この夏、我が子の将来に向けてできること
進学、学費、就職… 我が子の未来を想像してみませんか?
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1708/
船津洋『この夏、我が子の将来に向けてできること』(株式会社 児童英語研究所、2017年)
新卒の就活が解禁されて二ヶ月、内定を貰ってホッとしている学生がいる一方で、不安な日々を過ごしている学生も少なくないようです。例年10月の調査では内定率が7割、12月には8割強、翌る2月には9割で、最終的には大卒の就職率は97%あたりに落ち着いているようです。大学を出れば大抵は就職出来るのか、といった印象を与える数字です。しかし、この数字には、就職を諦めた人や、卒業せずに大学に留まって「新卒」の立場を保留する就職留年や、とりあえず2年間先送りして大学院へ進む人たちが母数に含まれていない点を差し引いて考えなくてはいけません。 しかし、いかがなものなのでしょうか。新卒の肩書きの為に卒業を1年先送りして、大学に籍をおきつづけるというのは、大学側からすれば、1年分の学費が入ってくるので大歓迎なのでしょうけれども、学費を払う親からすれば、ようやく4年分払い終えたと思ったら、もう1年分請求されるのですから、たまったものではないでしょう。 また、これも実際にあるので驚きですが、学部で就職がうまく行かなかったために、大学院へ行くケースがあるのですから、呆れてしまいます。一応大学院の席を確保しておいて、就活もして、だめなら院へ進むのです。そんな姿勢の学生を教える羽目になる先生方もお気の毒ですが、さらに2年分の学費を負担させられる親御さんたちに至っては、御苦労様なことです。 本誌をお読みの皆様方におかれましては、まだまだ先の話ですし、育児に忙しい日常の中でそんな先のことを考える余裕も無いかもしれません。 ただ、子どもというのはあっという間に大きくなるものです。お腹にいる頃は、健康に生まれてくれよ、と願っていたものが、いざ生まれてみて、気づけば歩き始め、幼稚園へ入園し、いつの間にかランドセルを背負うようになるのです。中学に入った後は、親も年を取ってくるので、時が過ぎ去るスピードはさらに早く感じられるようになります。 いずれにしても、お子さんたちは大学受験や就職という節目を通過するのですから、少し先のことかもしれませんが、心構えを、もしくは覚悟をしておいた方が良いでしょう。
| 子どもの教育費を感じ始める頃
子どもが小さい頃は、あまりお金がかからないものです。最近では晩婚化が進み、第一子をもうける年齢も30歳を超えています。幼稚園や保育所に通わせる頃にはおそらく30代半ば、ご主人は40歳前後と勝手に想像すれば、比較的所得にも余裕がある年代で、子どもを幼稚園やら保育所に通わせることになります。入学前の保育の費用は居住地域や親の所得、公立なのか私立なのかによって年間10万~100万超まで随分と幅はありますが、それにしても平均すれば年間50万円を超えることは少ないでしょうから、将来的にかかる教育費に比べれば、比較的お安いものなのです。 私立の小学校に行くとなると話は別ですが、公立の小学校に行けば、あれやこれや入れても年間30万円程度です。母親が30半ばで幼稚園なら、アラフォーの頃に小学生です。男性の生涯賃金のピークは50歳くらいですので、40代半ばのご主人であれば、まだ給料は上昇傾向にあるかもしれません。したがって、小学校の費用など、たいした額ではないでしょう。しかし、中学受験をさせるとなると話は変わってきます。
| 高卒か学歴を持たせるか
大学進学率は全国平均すれば5割ほど、男子の方が女子よりも10数ポイント高めです。また、地域格差が激しく、東京都では4人に3人が大学進学するのに対して、地方は押し並べて4割程度です。都市部を除けばまだまだ高卒で就職する方が多数派ですし、女子に至っては、アタリマエの部類なのかもしれません。 しかし、経済格差も都市部と地方では広がっているので、都市への人口集中は今後も続くでしょうから、地方で生活の基盤を築き、そこで一生幸せに暮らせるのかどうかも、今後は危ぶまれてくるでしょう。高度成長期のおこぼれで、何となく幸せに暮らせてきた今の50代以上と、今日の若者とは置かれている環境が全く異なっているのです。 そして、新しい基準で、つまり “平成の物差し” で子どもたちの将来を見通してみると、我が子にはやはり、1人で経済の荒波を乗り切っていけるだけの、頭の良さを身につけさせてあげたいと思うのは親心でしょう。 そしてそう思えば当然の帰結として、大学受験がぼんやりと、はたまたクッキリと親の視野に入ってくるのでしょう。 今日の大学受験事情は、全入時代と呼ばれて久しく、そしてその呼ばれ方に相応しく、希望すれば誰でも大学へ進学出来る環境になっています。 ただ、大学を出たからと言って、高所得が保証されるわけではありません。企業側も優秀な人材が欲しいのであって、誰でも良いから雇うわけではありません。やはり優秀な頭脳や人材は、入学の試練を乗り越えてきた学生に多い、つまり難関大出身者に多いわけです。そこで企業側は、いわゆる「学歴フィルター」を設けて、難関大以外からの学生の就職希望者を、説明会の段階からシャットアウトしたりするわけです。企業というのは公の機関では無く、あくまでも私的な集団なので、基本的に人権問題に抵触しない限りは、どのような基準で採用活動を行うかの自由は持っているのです。 気の毒ではありますが、それが現実です。すると、それが分かっている親御さんは、少しでもよい大学へ子どもたちを入学させようとします。もちろん、理系に進ませることを考えれば、尚のことその意識は強くなります。そして、結果として難関大学への進学は狭き門となってくるのです。大学進学を目指す親子にとっては、地方であれば地元の進学校、都市部であれば中高一貫校への進学が共通の目標となり、そこに人が殺到します。
| 教育費のピーク
先に幼稚園、保育園や小学校でかかる費用は安いものだと書きましたが、大学を目指すようになれば、そのことが身につまされて感じられるようになります。 我が家では上の子は疾うに就職していますし、下の子もあと1年分の学費納入を残すのみなので、「子どもの教育費」という不動産並みの投資に対する肩の荷は、ようやく下りつつあります。ここで少し体験談をお伝えしましょう。 上の子が平成3年生まれで、中学受験を迎えた平成10年代半ばは、その後、リーマンショックの影響で沈静化する中学受験ブームのピークでした。なんとか一貫校にはねじ込み、その後の国立大学受験では二次選抜で惜敗し、滑り止めの私立の慶応義塾大学へ進学することになりました。 受験前の6年間、私立の一貫校なので、あれこれ含めて毎年100万くらいはかかりました。その投資で、東大なり一橋なり東工大なりの国立大学に進学してくれれば、学費は年間50万なので、修士まで6年間かけても就職までの学費はトータル300万円で済みます。せっかく私立の中高へ進ませた甲斐もあるというものです。 ところが、我が家では上の子は私立ですし、下の子も私立です。悪いことに、両人共に理系です。国立大学に進学してくれれば、毎年50万円の学費が、私立なので年間200万円に跳ね上がります。修士まで進ませれば、国立ならば1人300万円で済むところが、私立だと1200万円になります。それが2人だと、上の子が入学してから下の子が卒業する前での10年間で2400万円かかることになります。幸い我が家では2人とも大学院は国立へ進んでくれたので、修士課程の2年間の学費が1人頭300万円ずつセーブでき、2人分の学費は合計で1800万円で済む予定です。それでも、これだけの学費の支払いに追い回されるわけです。 大学へ進学するまでの6年間で、それぞれに少なくとも学費で600万程かかっているので、ザッと足し算と割り算をすれば、中学から就職までの12年間で1人あたり1500万円、3歳違いの兄弟なので15年間で3000万円かかったわけです。毎年200万円ずつせっせと払い続け、郊外の小さめの一軒家のローンを15年で完済するようなものです。
| 投資の先になにがある?
さて、以上の金額は別段特別なものではありません。都市部に住み、子ども二人を理系に進ませようとしたものの、国立から蹴られてしまえば、どのご家庭にも起こりうる当然の現実です。ご主人が35歳、奥様が30歳で第一子、3年後に第二子を設けたとすると、ご主人の給料が頭打ちから下降し始める47歳、奥様42歳の時に、上の子が中学へ進学することになります。そして、そこからの15年間、つまり、ご主人が62歳、奥様が57歳で、下の子が目出度く就職するまでに起こりうることなのです。本誌の読者のご家庭におかれましては、国立への進学を達成されることを心より祈るばかりです。 ところで、それだけの投資をしてそのリターンはどうなっているのでしょうか。実際に苦しい家計をやりくりしながら学費を捻出している時分には、子どもたちの初任給まで思いを巡らせる余裕は無いかもしれません。しかし、教育は投資です。払うだけ払って、そのあとは、我が子たちがどれだけ将来性のある職業に就き、どれだけの給料を手にすることができ、さらに、どのような人生設計を可能にするような賃金を得られるのかを期待することは、 “投資家”としては当然考えるところではないでしょうか。 実際どうなのでしょう。子どもたちの初任給とその先の見通しはどうなっているのでしょうか。厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査によると、大卒男性で50~54歳が賃金のピークで535万円。同じく大卒男性の最初の数年の給料の平均が209万円です。男子の結婚年齢の30~34歳の平均所得が286万円です。我が子が平均的所得しか得られないのであれば、中学から12年間で1500万円払って、就職から最初の10年間で2500万円ほどしか取り戻せないのです。投資に見合ったリターンとは言いがたいのではないのでしょうか。 上記の数字は大卒男子の平均値ですが、平均値とは往往にして平均を表しておらず、一部の上位者によって1割程度引き上げられているものです。つまり、真ん中ぐらいの人、100人いれば45番目から55番目くらいの中間層の所得は平均から1割くらい差し引いて考えておくと良いかもしれません。 逆に考えれば、全体をぐいと引き上げている上位の所得者がいることになります。それでは、上位の人たちは、新卒でいくらくらい取っているのでしょうか。これはなかなか数字には表れにくいのですが、専門職だとざっと500万円くらい、ボーナスを入れて700万クラスもあります。方や平均的には二百数十万の年収に対して、その2倍、3倍を貰っている新卒者もいるのです。そのくらいの給料で我が子に人生のスタートを切らせることができるのならば、溜飲も下がるというものではないでしょうか。 ちなみに、以前も本誌に書きましたが、貸与型の奨学金という、いわば学生ローンに手を出すのであれば、少なくとも上位数パーセントにねじ込んで、ある程度以上の初任給で人生をスタートさせてやる事が望まれます。学生支援機構によれば、有利子のローンの借り入れ平均額は350万円です。大卒の中間値の所得、200万円強の初任給では、これだけの有利子の借金を背負えば、就職してからすぐに躓いてしまう可能性もあります。これは決して他人ごとではないのです。
| 親の想像力次第
教育は投資です。しかも、大切な我が子の人生の有り様を大きく左右する重要な判断を迫られる投資なのです。現在進行形で育児に奮闘されているご家庭では、目の前のことに翻弄されがちで、ホッと一息入れる間に気が重くなるような未来のことなど考えたくもないかもしれません。また、なかなか10年、20年先のことまで想像するのも難しいかもしれません。 しかし、世界のことをよりよく知っているのは親御さん自身です。私ごとですが、今、大学生と日常的に接する日々を送っています。そんな視点から彼等をみていると、ふと「この子たちは大丈夫か」と不安になります。上智大学の外国語学部ですから、それほどレベルの低い学生では無いのですが、彼等の意識は極めて低い。もちろん勉強はできます。ある程度素直に人の言うことを聞いて、熱心に勉強する習慣が身についている学生が多いのは確かです。言われればちゃんとやる子たちです。しかし、将来の見通しができていない。3年生になって、自分が通う大学の卒業生の初任給の相場も分かっていないのです。 もちろん、話をしてやれば理解します。現実社会の話をすれば、驚き、恐怖を感じます。しかし、彼等の日常は大概安穏としているのです。そんな視点で世の中を捉えているのです。つまり、大学では先生に言われたとおりにしていれば、それで単位はもらえる、と。彼等は、その延長に労働を見ているようです。頑張って勉強して、少しでもマシな大学に入ったように、うまいこと就活を乗り切って少しでもマシな企業に就職すればよいと考えている節があるのです。そして、そこで上司から言われたことをやっていればお給料がもらえる、と感じている嫌いがあるのです。 大学では理屈に合わないことは、あまり起こりません。「ロジックの府」ですから当然です。しかし、一歩実社会に出れば、そこには平等な競争などあり得ませんし、不公平・理不尽と思えることの多さに驚くことでしょう。しかし、それが世の中なのですから仕方がありません。 また、大学の授業などは半年単位や1年単位で評価されることが多いのですが、実社会ではそうはいきません。一人前に使い物になるには、5年、10年と時間がかかるのです。つまり、社会に出るとすぐには評価されないのです。そんな状態に我慢ならず、会社を辞めてしまう子も少なくないのでしょう。大卒の3年離職率はここ20年ほど1/3近くで推移しています。そして、10年離職率を見ると2/3が辞めているのです。 再就職では余程のことが無い限り、給料は下がります。バブルの頃に名を馳せた企業が次々と早期退職、リストラを迫られるこの時代に、安定を求めることが賢明かどうかはわかりません。ましてや支援機構から学生ローンの借り入れがあった日には、その返済もおぼつかないでしょう。できれば新卒で天職に巡り会い、末永く幸せに働きたいと願う学生や、その親の気持ちも分かります。しかし、大切なのはどれだけ名の通った企業で働くか、ではなく、どれだけ自分のやりたいことに自らの力を発揮できる職業に就くのかなのです。 後者の場合は自分のやりたいことが分かっているので、就職に必要なスキルや学歴などもよくよく考えた上で就職するため、企業とのミスマッチも少ないでしょう。しかし、前者の場合には、ミスマッチはある程度仕方が無いのかもしれません。もちろん、寿退社もあるでしょうけれども、晩婚化が進む今日、そんな形での退社ができる恵まれた女性は少数派でしょう。繰り返しますが、就職しても3分の1の確率でお子さんは3年以内に離職するのです。 そんな中、親としては何ができるのでしょうか。将来に向けて学費を準備しておくことは当然ですが、就職でのミスマッチのリスクを避けるような心の準備を子どもたちにさせてあげることが大切でしょう。大学進学へ向けてのがむしゃらな勉強も必要です。しかし、同時に将来どんな職業に就きたいのか、我が子の性格や資質からして、どんな職業があっているのか、はたまた、そもそも世の中にはどんな職業が存在するのか、そんなことを子どもたちと話し合うことが大切でしょう。 また、子どもたちがどのように生きていくのか、彼等に未来のライフスタイルを想像させてあげましょう。何歳で結婚するのか、子どもは何人なのか、住まいは一軒家なのか集合住宅なのか、余暇に海外旅行をするのか、など想像を膨らませるのです。そして、それにはいくらかかるのか。そして、それを可能とする所得はいくらなのか。少し生々しいかもしれませんが、小学生も中学年くらいになれば、このくらいのことは考えられるのです。親は、子どもがそんなことを考える切っ掛けを作ってやればよいのです。 世は夏休みです。子どもたちには大いに遊ばせつつ、勉強させつつ、一緒に過ごせる時間の多いこの機会に、そんなことに思いを巡らせてみてはいかがでしょう。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。