パルキッズ通信 特集 | サイトワーズ, フォニックス, リーディング, 語彙, 読解力育成
2020年9月号特集
Vol.270 |「英語を読めること」の本当の意味
英語は読めないうちは身につけたことにならない
written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2009/
船津洋『「英語を読めること」の本当の意味』(株式会社 児童英語研究所、2020年)
1.自然な言語発達能力に人工的な力を加えることが必要です
放っておくと大変なことになります
まずは一般論から。
子どもが生まれてから、ことばを十分満足に使いこなすレベルまでに身につけていくのには、いくつかのステージがあります。
まずリスニングから始まり、その後少しずつ文中の語や句を理解できるようになっていきます。1歳を過ぎると理解できる語が爆発的に増えていくのと同時にスピーキングが始まります。ここまでは、大体どの子も同じような発達を見せます。
つまり、どの子にも共通した自然な発達です。もちろん、上位数パーセントと下位数パーセントでは学習内容や、特に語彙の豊かさに雲泥の差があることは言うまでもありません。
その後、3歳くらいから、リーディングとライティングへと歩みを進めていきますが、この段階はそれ以前のリスニングとスピーキングの習得過程とは、ずいぶん様子が違います。自然に読めるようになる子もいる一方で、放置してしまい、小学校中学年になってもカタカナすら読めない子も珍しくありません。
両者を隔てるものは何でしょう。
単純な話「インプット」の多寡です。
語彙が豊富で、つまり世の中のことがよく理解できる子は、もちろん、そのような育児をする親のもとに育つわけですから、ことばのインプットを多く受け取っています。結果、読み始めの時期も早めに訪れます。他方、ことばのインプットが少なく、日本語を話しはするものの世界に対する理解が進まない子は、自然と読み始める時期もなかなか訪れません。
片や放って置いても文字に興味を持つ、片やいつまで経っても文字に興味を示さない。その二極化の根底には、親のインプットによって得られる語彙の豊富さと、その語彙の豊かさによる世界への理解力の差があるのです。親のインプット量の差が子どもの言語能力に及ぼす影響に関しては、『パルキッズ通信7月号』をご覧下さい。
その後、ライティングへと進みますが、この時期には両者、つまり語彙が豊富な子とそうでない子の差は埋めがたいレベルにまで広がります。「読めること」は「読む機会」を増やします。そして「読む機会」の増大は、世の中に対する「理解の幅」を大きく広げます。さらに世の中の「理解の幅」が広がれば、そこにわずな指導を付け加えるだけで、「書くこと」へと流れるようにスムーズに到達できるのです。
そんな育ち方をした子どもたちが、小学校中学年にもなれば、読んでいる大人の方がハッとするようなレベルの高い作文が可能となるのです。
日本語と英語ではやり方が異なる
では、”パルキッズたち” の英語の発達は、彼らの日本語の発達とどう異なるのでしょうか。
まず、リスニングの力は 『パルキッズ』のかけ流しから自然と身につきます。これが『パルキッズ』の最大のメリットです。また、英語の音素の知識も、かけ流しから自然と獲得するので、スピーキングに関してもきれいな発音で英語を口にするようになります。これも『パルキッズ』で育った子どもたちに共通します。
ただ、一点だけ異なるのが「理解」のレベルです。理解のレベルだけが、日本語の発達ほど自然には進まないのです。
そうはいっても、もちろん『パルキッズ』だけでは理解がまったく進まないということではありません。
お子さんの様子を見ていれば気づくはずですが、トシオ(『パルキッズプリスクーラー』)やケイ(『パルキッズキンダー』)のストーリーの大局的な理解は自然と達成されます。日本語の発達になぞらえれば、朝起きてから寝るまでといった日常的なルーティンや、おいしい、暑い、悲しい、痛いなどの五感や感情に関わること、さらには自動車、公園、玩具など身の回りの対象物に対する理解も自然と獲得されます。
これらは「内容語」と呼ばれる語群で、名詞、形容詞、動詞や感動詞等が含まれます。それらの内容語とシチュエーション全体は、かけ流しから理解できるようになるのです。しかし、「機能語」と呼ばれる文の構造に関わる語群は、日本語ほどの自然さでは理解が進みません。
「内容語」は教えられるが、「機能語」はややこしい
「機能語」とか文の構造などというと、少しややこしい感じがしますが、それらを理解していくステージにいる子どもたちの様子は、彼らの日常のスピーキングに現れます。
例えば、「あげる」と「くれる」は同じ意味を異なる視点から記述する語です。この違いの獲得は難しく、自分が何かをしてもらったときに本来の「お母さんが○○してくれた」の代わりに「お母さんが○○してあげたの」と言ったり、また、自分がすることを「~君が○○してくれるの」などの発話が見られます。
我々が普段何気なく使っている格助詞も、よくよく考えるとかなり面倒な概念です。子どもたちは「お母さん “が” してもらうの」と本来与格 “に” を使うべきところを主格 “が” を使ったりします。
これらの機能語は一見単純で、母語話者たちは無意識に使いこなせるのですが、言語学者でもなければ正確に説明するのは困難な、極めて複雑な機能を孕んだ概念なのです。
母語の場合、それら機能語は早い子でも3歳、ゆっくり目な子では幼稚園くらいまでかけて理解していきます。これらの語や機能語の使い方は、主にインプットと同時にアウトプットを通して行われます。言ってみながら、使いながら、修正しながら、少しずつ身につけていくわけです。
英語の場合にも、能動態と受動態のボイス(能動と受動の態)の違い、日本語には存在しない冠詞の概念や日本語の助詞に相当する前置詞などの「機能語」が習得の課題として残ります。母語の場合には、会話のやりとりの中で身につけるのですが、日本における英語習得の場合にはそれが叶わないのです。
では、英会話をすれば良いのかといえば、ことはそれほど単純ではありません。英会話も基本的には内容語などを自然と獲得できる語彙の強化はできるものの、上記のボイスや機能語の習得となると、教えるのは困難を極めるのです。ましてや、幼児には説明しても理解できないので、教えようと思ってもうまく行かず、それどころか英語嫌いにすら育ててしまうことになるのです。
それでは、どうすれば良いのでしょうか。答えは「読解力」にあります。英語の場合には、読めることが会話の代わりとなって、子どもたちに機能語の習得を促すのです。
ということで、毎度の如く前置きが長くなりましたが、ここからは読解力の育て方について掘り下げていくことにします。
2.読解力を育てる意義、時期、内容
モヤモヤをスッキリさせる鍵は「機能語」の知覚
前述のように、日本語(母語)においてすら読解力は「放って」おいて育つものではありません。また、育てようにも、スイスイと身につけていく子がいる一方で、いつまで経ってもかみ合わない子もいます。この両者を隔てるのは、これまた前述のように「インプット」なのですが、同時に程度の差こそあれ、周囲の人工的な助けが必要となります。
その人工的な力の提供者は、早ければ母親でしょうし、早期教育の教室の先生かも知れません。また、一般的には幼稚園の先生や、小学校の先生となるかも知れません。
英語においては、かけ流しだけ、あるいはそれに英会話などをプラスすることだけで読解力が身につくことは期待しない方が賢明です。
英語の読解力を育てるには、それに適した様々な取り組みが必要になるのです。具体的な取り組み方に関しては後述しますが、結果として読解力を身につけることが、内容語だけではなく機能語も使いこなせるように育てるための鍵です。
そして、そこまで来てようやく、生きた英語、使える英語力の習得と呼べるのです。
さて、その機能語ですが、なぜ機能語が分からないと英語全体の理解ができないのか、なぜ名詞や動詞などの内容語だけではいけないのか、この点について少し触れておくことにします。
次の英単語を見てください。
’the, be, and, a, of, to, in, I, you, it, have, that, for, do, he, with, on…’
言語学には「コーパス(実際に使われた語の)分析」「フリクエンシー(頻度)」という考え方があります。上記のリストは、実際の発話や印刷物で使われていた語を片端から書き出していき、同じ語が使われた回数を数えて、使用頻度が高いものから順に並べたものです。
分析方法によって語のリストは微妙に変化しますが、機能語に関しては大体どの分析でも同じようなリストとなります。そのようなリストの中で、最も頻度が高く使われている語が ‘the’ で、次が ‘be動詞’ 続いて ‘and’ となるわけです。
皆さまは、これらの冠詞、前置詞、接続詞などの語をご覧になってどう感じますか?
「こんなものはもう分かっている」とお感じでしょうか。
しかし、実は分かっていないのが本当のところでしょう。そして、これら機能語の正確な理解が英語を使いこなす鍵を握っているのです。言い換えれば、これらの機能語が分かっていないから、英語を読めても、仮に聞き取れたとしても、理解できないのです。
機能語は数量的には限られているのですが、それに反して使用頻度は驚くほど高く、英文全体に占める割合は想像以上です。
例えば、頻出1000語(日常的に使われる語の78%を占める)のリストの中に、機能語は100語しかありません。しかしその100語の機能語が出現割合の43%を占めるのです。どういうことかと言えば、幼児・児童向けの印刷物や音声素材の中で、子どもたちが見聞きする英文における4割以上を、わずか100語足らずの機能語が占めているのです。我々は、我々が思っている以上に、繰り返し機能語を目や耳にしているのです。
機能語の理解の難しさは、内容語の比ではありません。
まず内容語をみると、内容語の中でも理解の難易は異なります。
名詞は、動詞よりも境界がハッキリしているので、幼児にとっては理解が楽です。「寝る」とか「座る」などの動詞の意味する範囲は、どこからどこまでなのか境界が曖昧で定義が難しいのですが、名詞は「どこからどこまでがイスであるか分からない」などというように境界が曖昧ということが少ないのです。境界が明確な分、習得が容易なわけです。
動詞にしても形容詞にしても副詞にしても、理解の難易度の差はありますが、機能語に比べればそこに含まれる意義はシンプルです。
また、機能語の中でも、接続詞などは比較的理解が容易ですが、前置詞や冠詞などは捉えどころが難しい概念なのです。
『パルキッズ』で繰り返し耳にしているそれらの機能語ですが、聞き知っただけでは、幼児たちはモヤモヤっとした理解しかできていません。文の要素として必要であり何度も耳にする、また、無いと文が不自然になるが、正確には使い道が分からない、といったものです。
それら、まるで「(妖怪の)ぬえ」のような機能語ですが、それらも「文字」という記号に落とし込んで知覚させることで、少しは知覚できるようになります。
機能語を「読める」ようになる、というだけでも、読解力を育てることには重要な意義があるのです。
読解力を育て始める時期
さて、機能語の「目からの知覚力」を育てるわけですが、具体的にはどのような時期にどのような方法でスタートするのが良いのでしょうか。
文字読みの訓練には、フォニックス、サイトワーズ、絵本の暗唱、長文の素読などいくつかの手法があります。最近では、英語教育への関心の(真面目な方向性を持った)高まりから「フォニックスが良いらしい」など、広く一般的に知られるようになってきているようです。
しかし、フォニックスも万能ではなく、ついでにいえば、絵本の暗唱も万能ではありません。学習者の理解力や、年齢・発達に適した方法を取捨選択しなくてはいけません。
暗唱が苦手な子に、暗唱を押しつけてもうまく行くわけがありませんし、1歳児で日本語の発達途中にある子に、フォニックスを教え込むのもいかがなものかと思います。また、少なからず読めないことには、素読ができないことは言うまでもありません。
例えば、フォニックスにしても、学習開始の適齢期があります。日本語のかな読みの練習を始めると、英語の発音にも影響が出てくるのですが、そんなタイミングが英語のフォニックスなど文字と音との関係の学習開始に適しているのです。何でもかんでも早くやれば良い、というわけではありません。
さらに『パルキッズ』の学習では、英語は二の次、三の次です。まず重要なのは、人一倍の日本語の能力を育てることで、そこに英語教育が干渉しては元も子もありません。また、日本語の能力が高まれば、それ即ち理解力が高まることに他ならず、結果として英語の文字の学習もスムーズに進むのです。
まずは日本語の読み、その次に英語の読みの順に進める必要があります。
では、「何歳から」英語の読みの学習を何を始めると良いのでしょうか。
こんな時期です。
洗濯ばさみを見て「Aだね」と言う子がいました。駐車場のマークを見て「Pって書いてある」と言う子がいました。そんな時期が、本格的な読解力育成トレーニングの開始に適しています。
そのような子たちは、英語より頻繁に目にする日本語も、親が気づかないうちに、いくつも読めるようになっています。そんな時期が英語の読みのスタート時期ですが、もちろん日本語の文字の学習も優先して進める必要があります。
前後しますが、英語の前に少し日本語の話をしましょう。
子どもたちは、日本語の理解が高まってくると「これなんて書いてあるの?」と読むことをせがんだりします。絵本好きに育てれば、2歳くらいで玩具の外装や電気製品のマニュアルに興味を示します。
その後、語を「まとまり」で読んだりします。例えば、コンビニの看板など日常的に繰り返し目にするものを見て「○○って書いてある」などと言うようになります。そこから適当に「ここに○○って書いてあるの」などと想像でものを言うようになります。これが、文字に関心を示している時期なので、この頃から積極的に「かな」を教えると良いでしょう。
さて、話を英語に戻すと、『パルキッズ』やその他の教材の中でアルファベットに触れる機会から、上記の「A」や「P」の発言となります。仮にまったくそのようなことを言ってくれない子でも、気づけばいつの間にか読める文字はありますので、日本語の文字が少し読めるようになったら、英語の文字読み学習もスタートしてください。
もちろん、「これ読める?」などと聞くのは御法度です。この件に関しては『パルキッズ通信2020年8月号』をご覧ください。
ちなみに、日本語のカナが分かるようになると、英語の発音に干渉が起こります。これは、何となく発音していた日本語を、音節(モーラ)単位で認識するようになることによります。英語は音素までを意識する言語ですが、日本語はもう少し大きな「かな」の単位で意識する言語です。この違いが、日本人が直面する英語の聞き取りの困難さに直結します。これに関しては後述します。
アルファベットに関心を持つ、あるいは少し「かな」を読めるようになる、その時期が英語の読みの学習スタートのベストタイミングです。
3.読力の育て方
「読解力」の前に「読力」
以降、読解力の育て方に関して書いて行きますが、その前に一点。
『パルキッズ』では「読解力」と「読力」を分けて定義しています。読力とは読んで字の如く「読む力」です。読めるだけ。理解は別です。これに「理解」の「解」が付くのが「読解力」です。これに関して詳しくは『パルキッズ通信2020年2月号』『パルキッズ通信2018年11月号』などをご覧ください。
重要なのは、一足飛びに「読解力」を育てようとするのではなく、まずは「読力」を育てることを目標とすることです。
それでは、読解力の育て方のいくつかのアプローチをここで整理しておきましょう。子どもの年齢、性別や兄弟関係、また英語の発達度合によっても手段を選択しなければいけません。
英語の読みを学ぶことは、英語の正書法を身につけることとほとんど同義です。もちろん、書ける字よりは読める字の方が多いことは、日本語を例にとってもご理解いただけると思います。しかし同時に、読むことと書くことがお互いに深く関係していることも直感的にご理解いただけるでしょう。
その英語の正書法には、いくつかの手法があります。音素単位を学ぶ「フォニックス」、音節単位を学ぶ「ライミング」、語単位の綴りを学ぶ「サイトワーズ」などが、広く英語圏でも取り入れられています。
また、文字と音のシステムを統計学的に脳に推測させ、句や文の単位で読みを学ぶ「絵本の暗唱」や、文単位の文字記号を正しく、しかも直感的に音声記号に変換する訓練である「長文素読」も歴史の長い学習法です。
それら英語の正書法の学習手段は、バラバラに存在しているのですが、細かく見ていくと、実はひとつひとつが重要な役割を担っていることが分かります。以下、文字の学習法とそれらの存在意義も含めて説明して参ります。
フォニックス
英語話者は、音声を「アルファベット」の単位で意識している一方、日本語話者は音声を「かな」の単位で意識しています。また、英語と日本語には音素の違いがあります。それらの違いを埋めるのが、フォニックスです。
少し専門的になりますが、英語の「アルファベット」は、子音の [p, t, k, b, d, g] や母音の [i, ɛ, æ, o, u] などの音素を表せる文字です。他方、五十音と呼ばれる日本語の「かな」は、音素ではなく /ka, sa, ta, no, ho, mo/ など「モーラ」という単位を表しています。
この点において「かな」は英語の「アルファベット」と次元が異なる表音文字の体系なのです。アルファベットは音素単位で発音できますが、「かな」は母音単体か子音プラス母音という音素の組み合わせでないと発音できません。
そのため、普段から頭の中でことばを理解するにあたって、異なる単位で理解したり、考えたりしています。先に「英語話者はアルファベット(音素)を意識」と述べましたが、日本語話者は音素レベルのアルファベットではなく、もう少し大きな単位の「かな」を意識しています。
「かな」で考えている一例を挙げましょう。
カ行、サ行、タ行を濁音にすると、ガ行、ザ行、ダ行になります。これらの清音と濁音のペア /k g/、/s z/、/t d/ は、それぞれ同じ場所で同じ方法で発音されていますが、声帯振動のタイミングが僅かに早いと濁音になります。
しかし、ハ行の音を同様に少し声帯振動のタイミングを早めても、ア行にしかなりません。濁音バ行 /b/ を生じる清音は本来ならパ行 /p/ なのです。
このように、日本人は普段から「音素」よりも大きな塊でことばを思い描いているので、アルファベット単位へ意識が向かないのです。まず、ここを押さえてください。
フォニックスは、この音素をベースにした学習方法ですが、さらに、音素の数も日本語と英語では異なります。もちろん両者に重複する音素もありますが、英語の方が日本語の2倍ほど母音が多いのが特徴です。日本語の音素にない母音があるのです。同時に子音の数も英語の方が少し多くなっています。
この事実は、日本人の英語の聞き取りにも直結します。その影響の実体は単純です。日本人は、日本語に無い英語の音素を、無意識のうちに既知の日本語の音に置き換えて聞き取っているのです。
これが、日本人が英語の聞き取りができない理由のひとつです。ですから、それを学べるフォニックスは、日本人にとって、音節単位でしか知覚しない音を、音素単位で捉えるチャンスを与えてくれるだけでなく、日本語には存在しない未知の音素も学べる、絶好の教育法なのです。
ただし、本来、英語の音は、文やフレーズとして、あるいは少なくとも語としては連続して発音されています。それを分割するというのは、少し理屈っぽく、直感的な学習を得意とする幼児には適当でないことは付け加えておきます。
フォニックスの本格的なスタートは、日本語がある程度読めるようになって、文字に少し興味を持ってからにしましょう。もちろん、 /ei æ æpl bi b bʌs si k kæt/ とゲーム感覚で音を入力するのは、幼児期からでも構いません。
ライミング
英語と日本語の音が異なる点のうち、最も特徴的なのは日本語が開音節の言語である点です。日本語の音声は開音節と呼ばれる構造を持っていて、撥音(「ん」)などを除き、コーダと呼ばれる音節末子音を持つことができず、母音で終わることが要求されます。
他方の英語はというと、閉音節性の言語です。子音で終わることができます。むしろ、子音で終わる語の方が圧倒的に多いのです。
余談ですが、世界中の言語を見ると、日本語のような開音節のことばの方が多いのです。この点、日本語が特殊なのではなく、英語が特殊と考えても良いでしょう。読者の皆さまの心の安寧のために付け加えておきます。
閉音節の言語は、語末に子音を置けることによって、音節が不安定になるという特徴を伴っています。
例えば、 ‘Apples on an apple tree’ をいざ発音すると、最初の3語の語末の子音 ‘s, n, n’ と、それらに後続する語の語頭の母音 ‘o, a, a’ とがそれぞれ結びついて、「子音+母音」の新しい音節を形成してしまうのです。これを再音節化とかリエゾンなどと呼びますが、これに関しては、更に後述します。
閉音節の特徴としてもうひとつ。英語では、オンセット(音節頭)やコーダ(音節末)に子音クラスター(子音連続)が許されています。例えば、 ‘trust’ /trʌst/ は、オンセットに/tr/ 、コーダに /st/ が置かれている1音節の語です。’strike’ ではオンセットに /str/ と3つの子音が置かれますし、’next’ ではコーダに /kst/ と3つの子音が存在します。
日本語ではこれはNGで、唯一オンセットには /ts, tʃ, dʒ/ など一部の二重調音の子音が許されているのみです。それ以外の子音クラスターは、それぞれの子音に母音が付与されて、日本語のカナのように「トラスト」/torasuto/ や「ストライク」/sutoraiku/ あるいは「ネクスト」 /nekusuto/ といった具合に、開音節風に処理されます。
このように日本語と大きく異なる点、つまり英語の閉音節性と子音クラスターが許されている点を学習できるのがライミングの学習です。
ライミングで、音節の核となる母音を中心に、押韻法で綴りと音の関係を学びます。例えば、’mat, pat, bat, sat, that, cat…’ などは脚韻 /æt/ が同じです。また、’settle, cattle, kettle, title…’ などコーダの /tl/ あるいは /dl/, /st/, /nt/… などコーダの子音クラスターや、/st/, /gr/, /pl/ などオンセットのクラスターが共通する語をグループ毎に学習することで、効率よく綴りと音の関係を学ぶことができるのです。
また、ライミングはフォニックスほど理屈っぽくないので、まだ文字を読めない子に『マザーグース(Mother Goose)』や『ドクタースース(Dr.Suess)』などの教具を通して与えていくことはまったく問題ありませんし、どんどん進めていただきたいところです。ただし、本格的な学習は、これまた文字に興味を持ち始めて、日本語も少し読めるようになってからの方が良いでしょう。
サイトワーズ
さて、音素単位のフォニックス、音節単位のライミングの学習法を見て参りましたが、次はひとつあるいは複数の音節からなる語の綴りを直観的に学ぶサイトワーズを見ていきます。
サイトワーズとは、ひとつずつ文字を発音するのではなく、一語まるごと読む練習をさせようという考え方です。サイトワーズの発想には察するに2つの意味合いがあります。ひとつ目はワードフリクエンシーで、もうひとつは正書法と音のギャップを埋める意義があります。
まず、ワードフリクエンシーですが、上でも軽く触れたように、最も良く目にする「頻出語」をその都度フォニックスやライミングのやり方で読むのはまどろっこしいので、ひと目見て読めるようにしましょう、という考え方です。
フリクエンシーの高い語には短い語が多いので、ややこしい分析は抜きにして、音と綴りの関係を有無を言わさず覚えさせてしまうのが効率が良いのです。これらの語は無限にはなく、わずか数百ですので、子どもたちの優れた記憶力や類推の力を持ってすれば、お茶の子さいさいです。
もうひとつが正書法とのギャップです。ヒトの言語は移ろいやすく、発音も時代と共に変化します。日本語でも平安期には母音は8つありましたし、下って近世でも現代とは異なる子音の発音があったことはよく知られています。
英語も同様です。ヒトの音声は変化します。ただし英語は表音文字なので、音が変化しても文字が音を表現している分には、綴りと音のギャップは無いはずです。ところが、現実はそうなっていません。「綴りが音声を表していない」ことが少なくないのです。
これには、それなりの理由があります。
英語では、中英語(中期英語・中世英語)と近代英語の間に「大母音推移」(個人的には「母音 “大” 推移」だと思いますが)と呼ばれるイベントが起こっていて、母音が大きく変化しました。余談ですが、これはちょうどシェイクスピアが活躍する頃に完了しているので、シェイクスピアの英語はいま私たちが使っている英語と同じグループ(さらに細かい分類もあります)です。
この母音大推移の時期に、ちょっとした問題が起きるのです。問題というか、発明なので本来喜ぶべきことなのですが、その発明も影響して英語の綴りと音の関係がずれることとなります。
その発明とは、母音大推移まっただ中の15世紀半ばに、グーテンベルクやカクストン等による印刷技術の開発です。印刷ができるようになると、古い時代の英語の綴りが「印刷物」として残ることとなります。
そして、印刷された時の発音がその後に変化してしまえば、古い綴りと新しい発音の間でギャップが生じるのは言うまでもありません。
例えば、中英語では ‘make’ は「マーケ」のように発音されていましたし、 ‘knight’ の ‘k’ や ‘write’ の ‘w’ 、 ‘calf’ の ‘l’ なども発音されていました。その後、音が変化したり、消えてしまったりしたものの、綴りだけは印刷物で残ってしまったわけです。
しかし、もちろんのこと、これら綴りと音声の不一致にはパターンがあります。先の ‘make’ などに見られるような母音+子音+ ‘e’ は、同じように変化しているのでパターンから予測可能です。また、フリクエンシーの高い(目にする頻度の高い)語は数に限りがあります。もう、これらは、深く考えずに、一語丸ごと「こう読むのだ」と割切って覚えてしまう方が楽です。
このように、文字をひとつずつ、あるいは音節毎に読み進めるのではなく、目にする頻度の高い語を丸々覚えてしまうのがサイトワーズの学習法です。これはフラッシュカードで入力できるので、文字の読み始め以前の子どもにも極めて有効な学習法なのです。
ちなみに、フォニックスなどの教材は、世の中に無数にあります。優秀な教材もあるので、それらを使えばよいでしょう。また、フォニックスとライミングの本格的なドリルはダウンロード教材専用ストアの『エデュマート』でも販売しております。また、サイトワーズのドリルに関しては、現在のところ『パルキッズキンダー』にパッケージされているので、適当な教材を探し出すのが面倒な方はそちらをご活用ください。
絵本の暗唱
さて、ここまで音素単位、音節単位、語単位の読み方について、それぞれ述べてきました。それぞれの意義もご理解いただけたと思います。
しかし、実際に学習を進めてみると気付かれると思いますが、音素や音節単位の読みは、ひとつひとつより小さく区切るので、とてもぎこちない読み方になります。
また、語単位の読みに慣れてくれば、”語単位” ではスラスラ読めるようになります。しかし、特に英語の場合には語単位でスラスラ読めても、それだけでは足りません。句や文の単位でサラッと読めるようにならないと、音と綴りの関係が身についたとは言えないのです。
そこで、登場するのがおなじみの「絵本の暗唱」です。サイトワーズが単語を丸ごと読んでしまう練習であれば、絵本の暗唱は句や文を丸ごと読んでしまう練習です。
文字を目で追いながら、聞いて覚えた音を口にしていくのです。
絵本の暗唱は、1歳児でも開始可能です。とはいえ1歳児に「目で文字を追う」などといった芸当はもちろんできませんので、まずは音だけの記憶から始めます。
一冊丸々暗記してしまうまで、絵本の音声を繰り返し耳にさせます。「無意識の学習」とはまことに優れもので、子どもたちは聞いている素振りを一切見せませんが、それでも彼らは聞いていて、すぐに全文覚えてしまうのです。そしてひょんな切っ掛けで、ぽろっと1フレーズを口にしたりします。
そこから、上記の「目で文字を追いながら覚えた音を口にする」ステージへと移っていきます。
絵本の暗唱に関しては、過去の『パルキッズ通信』に繰り返し書いていますし、『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)にも詳しいので、具体的な取り組み方はそちらをご参照ください。
長文素読
長文の素読は、語単位で英語が読めるようになった時期に適した学習方法です。100語くらい読めるようになったら、サイトワーズや絵本読みを通してさらに読める語を増やしていき、500語くらい読めるようになったら、素読の取り組みを開始するとよいでしょう。
英語の閉音節性における音節の不安定さから、音がくっついてしまう現象(再音節化)が起きることはすでに触れましたが、この再音節化の感覚を身につけていくのにピッタリの学習法が、英語の素読なのです。
もともと、ことばは音声に意味があります。”ことだま” にことさら畏怖するわけではありませんが、確かに、音声になったことばには魂が宿っている気がするのは、私だけではないでしょう。そして一度文字に置き換えられた英語から、再び “ことだま” を取り出すのが、英語の素読なのです。
古くは夏目漱石先生も、学生たちに推奨されていた学習法です。ある程度読めるようになったら、必ず、英語の素読に取り組みましょう。これは、少し英語に覚えのある大人にも効果的な学習です。親子揃って取り組める限られた英語学習法のひとつです。
絵本の暗唱同様に、素読に関しても過去の『パルキッズ通信』に繰り返し書いていますし、最新情報は『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)に記してありますので、詳細はそちらをご参照ください。
さて、今回は子どもたちに「読み方」を身につけさせるメソドをご紹介しました。日本にいる限り、英語に触れる機会は限定的です。そんな環境下、時間的にもコスト的にも最も効率よく、英語のスキルを伸ばしていくことができる技術が英語の読解力です。
『パルキッズ』で耳にした英語を知覚できるようになれば、内容語は理解できるようになります。しかし、これはパルキッズ生に限ったことではなく、英会話や学校英語にも通じますが、フリクエンシーの高い機能語の習得はなかなかに困難なのです。
機能語を、教え込んで理屈で理解させるのは効率が悪く、しかも論理を理解できる年齢、つまり小学校高学年以降を待たないといけません。
そんな機能語は、ヒトに備わっている言語習得能力を発揮させて、理屈抜きで習得させるのが一番です。
そのために必要なのは、十分なインプットです。十分なインプットがあれば、ヒトの脳は大量の機能語の言語証拠(耳や目にする言語)からパターンを発見し、機能語の意味を習得できるようになるのです。
そして、機能語の習得を促すのに必要な、大量の英文のインプットを可能にするのは、会話ではなく読書です。また、その読書を可能たらしめるのが、読解力なのです。まとめると以下の図式です。
読解力育成 → 十分なインプットの可能性 → 機能語の習得 → 使える英語
なぜ『パルキッズ』では読解力を重要視するのかの一端をご理解いただけたでしょうか。これを機に、日々の音の環境作りにプラスして、読解力の育成を念頭に取り組みを進めていただければ幸いです。
【編集後記】
今回の記事をご覧になった方におすすめの記事をご紹介いたします。ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。
★子どもが英語を学ぶ理由
★素読で育つ「英語の読解力」
★フォニックスと単語と文法でいいじゃない?
★パルキッズのための英検・作文必勝法!
【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)
児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。
船津 洋(Funatsu Hiroshi)
株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。